そこで老人は喉まで出かかっていた言葉を飲み込んだ。
 何かを感じたからだ。
 急いで赤ん坊の顔を見つめると、穏やかな表情を浮かべていたが様子が変だった。
 寝息が聞こえないのだ。
 慌てて心臓に耳を当てたが、鼓動は聞こえなかった。
 ひんやりとした感触だけがその意味することを伝えていた。
 もはや為す術はなかった。
 
 力なく首を振った老人はその子をそっと草むらに置き、別れを告げた。
 その後姿が見えなくなると、一本の道は消えて靄と静寂が森を包み込んだ。
 しかしそれも消えて、無が支配を始めた。