ところで、1999年末にお前が表した論文『千年紀の境目におけるロシア』には驚かされた。
 そこには、ロシアは二流国家であり、経済規模はG7の平均の五分の一でしかないという現実が記されていたからだ。
 それは素材産業と軍需産業に過度に依存した産業構造の歪さや研究開発に対する投資不足が原因であり、情報科学、エレクトロニクス、通信といった先端産業を無視した結果であると素直に認めていた。
 その上で、この現状から挽回していくためには外国資本を呼び込み、ロシア経済を世界経済構造の中に融合する必要があると指摘した。
 更に、GDPの年間成長率10パーセントを15年続けることができれば先進国に追いつくことも可能だという分析結果を紹介し、政府主導の長期戦略の必要性を訴えた。
 しかし、国家イデオロギーの復活には反対し、あくまでも民主国家として進まなければならないと明言した。
 その上で、表現の自由や外国旅行の自由、その他基本的な権利などの価値について触れた。
 興味深いことにお前は全体主義を否定したのだ。
 あらゆる独裁体制、あらゆる権威主義政権は短期で滅びることを歴史が証明しているという理由からだった。
 それ故、ロシアにおける強い国家権力とは民主主義と法に基づく行為能力のある連邦国家だと結論付けた」