写真を置いて1枚の紙を手に取った。
『協力プラン』だった。
 2016年5月に日本側から提示した8項目の取り組みだ。
『健康寿命の伸長』
『快適・清潔で住みやすく、活動しやすい都市作り』
『中小企業交流・協力の抜本的拡大』『エネルギー』
『ロシアの産業多様化・生産性向上』
『極東の産業振興・輸出基地化』
『先端技術協力』
『人的交流の抜本的拡大』
 と多岐に渡っている。
 中でも目玉と言えるのがエネルギー分野だ。
『日露エネルギー・イニシアティブ協議会』を設置し、官民一体となってエネルギー分野の協力を進める議論が行われていたのだ。
それは1年半の間に6回も行われるという積極的なものだった。

「エネルギーと水産分野に踏み込むべきか……」
 愁いを帯びた呟きが芯賀の耳に届いた。
 それは、経済制裁とはまったく次元の違う苦渋の選択肢によるものだった。
「ロシアとの決別か……」
 そして紙を置いてもう一度写真を手に取ると、「27回も会談したのに」と首を横に振った。
 それは、北方領土の解決と平和条約の締結を目指して行われた安倍とプーチンの会談が無に()したことを意味していた。
 
「いいように(もてあそ)ばれただけだ」
 吐き捨てると同時に立ち上がった総理は、いきなり写真を破り捨てた。
「腹を(くく)るしかない」
 床に落ちたプーチンの顔を靴の底で踏みつぶす総理を、芯賀は黙って見つめることしかできなかった。