2

「なんてこと!」
 公園のベンチに座っていたマルーシャが悲痛な声を上げた。
 すぐ近くの集合住宅にミサイルが命中したのだ。
 炎に包まれた中層階部分が原形をとどめない姿を晒していた。
「マルーシャ!」
 大きな声を発したナターシャは彼女の腕を引っ張った。
 マルーシャの自宅地下のシェルターへ逃げるためだ。
「急いで!」
 振り返り振り返り炎の方へ顔を向けるマルーシャに強く促したが、彼女の足は遅々として進まなかった。
「早く!」
 たまらなくなって背中を押すと、やっと我に返ったのか、足が進みだした。
 2人は駆け足でシェルターへ逃げ込んだ。
 
 そこにはマルーシャの夫と娘が青ざめた顔で座っていた。
 それは無理もないことだった。
 連日のように飛んでくるドローンに加えてミサイルが撃ち込まれたのだ。
 平静でいられるわけがなかった。
 それでも彼らはオデーサから逃げ出さない。
 とどまり続ける覚悟を決めているのだ。
 だから自分も逃げない。
 この人たちと共に戦っていく。
 そう決意を新たにしたが、マルーシャの態度は昨日までと一転して厳しいものに変わった。