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 10月12日、ロシアによるウクライナ4州の併合を無効とする国連総会決議が行われた。
 この決議はEUが作成しウクライナが提出したもので、『国際法上無効であり、ウクライナの地域の地位を変更する根拠とならない』と明記し、ロシア軍の即時撤退を求めたものだった。
 それに対してロシアは『4州の人々は十分な情報を得た上でウクライナに戻りたくないという意思を示した』と反論したが、これに同調する国はごく僅かだった。
 143か国という圧倒的多数の賛成票を得てウクライナから提出された決議が採択されたのだ。
 しかし、法的拘束力はなく、ロシアが従うはずはなかった。
 それでも国際社会の総意が示されたことにより、ロシアに対する圧力になるのは間違いなかった。
 
「3月より賛成票が多くて胸を撫で下ろしました」
 芯賀が安堵(あんど)の声を漏らすと、総理も同じように安堵の表情を浮かべた。
「大使にご苦労と伝えてくれ。これでロシアの行動が変わることはないかもしれないが、こういう決議を積み重ねていけば必ず流れが変わると信じてやり続けなければならないと伝えておいてくれ」
「承知いたしました。ロシアをウクライナから追い出すまで徹底的にやり続けるようお願いしておきます」
 強く言い切った芯賀だったが、頭の中にあったのは反対や棄権に回った国々のことだった。
 まだ少なからず存在しているのだ。それらをどうやって翻意(ほんい)させるか、難しい課題ではあるが、なんとしてもやり切らなければならない。
 芯賀はそれぞれの国の首脳の顔を思い浮かべながら打開策を巡らせ始めた。