「このタイミングでクリミア大橋とは……」
芯賀の報告に総理が呻いた。
それほどの衝撃だったのだ。
クリミア大橋はロシアによるクリミア支配の象徴だった。
5千億円以上の総工費をかけて造り上げた特別な橋だった。
完成時にはプーチン自らがダンプカーを運転して渡った記念すべき橋だった。
「素晴らしい成果だ。クリミアはより力強くなり、我々の結束は一段と強まる」と国内外にアピールした橋だった。
それだけでなく、今回の軍事侵攻においても重要な役割を果たしていた。
ウクライナの南部や東部の支配地域に物資を運び込む補給路として戦略的に極めて重要なインフラだったのだ。
「ただでは済まないでしょうね」
血管が切れそうなプーチンの顔を想像した芯賀は思わずブチャの惨状を思い浮かべたが、「ロシアの動きはどうなっている」という総理の質問で我に返った。
「はい。ロシア国内では報復を求める声が強まっているようです。プーチンは10日に安全保障会議を招集するようですが、強硬派は今までにない大規模な報復を主張するものと思われます」
「そうだろうな。メンツを潰されたプーチンが軟な反撃で済ますわけはないからな。ところでウクライナはなんと言っている」
「はい。関与については一切触れていませんが、大統領府の顧問は『これが始まりだ。違法なものはすべて破壊されねばならず、盗まれたものはすべてウクライナに返されなくてはならない』とツイッターに投稿していますし、国防省は『ウクライナのクリミアにおけるミサイル巡洋艦モスクワとケルチ橋(クリミア大橋)という二つの悪名高いロシアのシンボルが沈んだ』と投稿していますので、暗に犯行を仄めかしているとも受け取れます」
「なるほど。それにしてもかなり刺激的な投稿だな」
「はい。プーチンやロシア軍幹部の胸をえぐるような際どさを秘めていると思います」
「危ないな」
「はい。これを受けてウクライナ侵攻の総司令官をセルゲイ・スロビキンに代えていますので、かなりの報復を考えているものと思われます」
セルゲイ・スロビキン上級大将は危険な人物だった。
シリアへの軍事介入で民間施設への爆撃や化学兵器使用に関与しているといわれている軍人なのだ。
その面構えから見ても尋常ではないことがわかるほどである。
「今後の動きを注視して逐次知らせてくれ」
芯賀に命じた総理が目を瞑った。
新たな展開に備えてG7でどう対応するかということに思いを馳せているのだろう。
芯賀は音を立てないように注意しながら総理の下を辞した。
芯賀の報告に総理が呻いた。
それほどの衝撃だったのだ。
クリミア大橋はロシアによるクリミア支配の象徴だった。
5千億円以上の総工費をかけて造り上げた特別な橋だった。
完成時にはプーチン自らがダンプカーを運転して渡った記念すべき橋だった。
「素晴らしい成果だ。クリミアはより力強くなり、我々の結束は一段と強まる」と国内外にアピールした橋だった。
それだけでなく、今回の軍事侵攻においても重要な役割を果たしていた。
ウクライナの南部や東部の支配地域に物資を運び込む補給路として戦略的に極めて重要なインフラだったのだ。
「ただでは済まないでしょうね」
血管が切れそうなプーチンの顔を想像した芯賀は思わずブチャの惨状を思い浮かべたが、「ロシアの動きはどうなっている」という総理の質問で我に返った。
「はい。ロシア国内では報復を求める声が強まっているようです。プーチンは10日に安全保障会議を招集するようですが、強硬派は今までにない大規模な報復を主張するものと思われます」
「そうだろうな。メンツを潰されたプーチンが軟な反撃で済ますわけはないからな。ところでウクライナはなんと言っている」
「はい。関与については一切触れていませんが、大統領府の顧問は『これが始まりだ。違法なものはすべて破壊されねばならず、盗まれたものはすべてウクライナに返されなくてはならない』とツイッターに投稿していますし、国防省は『ウクライナのクリミアにおけるミサイル巡洋艦モスクワとケルチ橋(クリミア大橋)という二つの悪名高いロシアのシンボルが沈んだ』と投稿していますので、暗に犯行を仄めかしているとも受け取れます」
「なるほど。それにしてもかなり刺激的な投稿だな」
「はい。プーチンやロシア軍幹部の胸をえぐるような際どさを秘めていると思います」
「危ないな」
「はい。これを受けてウクライナ侵攻の総司令官をセルゲイ・スロビキンに代えていますので、かなりの報復を考えているものと思われます」
セルゲイ・スロビキン上級大将は危険な人物だった。
シリアへの軍事介入で民間施設への爆撃や化学兵器使用に関与しているといわれている軍人なのだ。
その面構えから見ても尋常ではないことがわかるほどである。
「今後の動きを注視して逐次知らせてくれ」
芯賀に命じた総理が目を瞑った。
新たな展開に備えてG7でどう対応するかということに思いを馳せているのだろう。
芯賀は音を立てないように注意しながら総理の下を辞した。