「親ロ派勢力が勝利宣言をしたようです」
 投票結果を報道したタス通信の記事を芯賀が伝えると、一瞬にして総理の顔が歪んだ。
「投票率は50パーセントを超えており、そのうち併合に賛成する票が90パーセントあったと言っているようです」
 もちろんこれはロシア側の操作によるものであり、個別訪問までしてでっち上げた結果だったが、これでプーチンが併合を宣言する条件が整ったことになる。
「30日にも議会で演説して併合宣言を行うという見方が強まっています」
 クリミアに続いて既成事実を積み上げるやり方にウクライナはもとより国際世論も反発しているが、プーチンは意に介すことなく粛々(しゅくしゅく)と進めるに違いなかった。
「わかった。残念なことになってしまったが、とにかく、予備役徴集と4州併合が今後の戦局にどのような影響を与えるのかしっかり見極めなくてはならない」
 それは、しっかりと情報収集をせよ、という総理の指示に違いなかった。「承知いたしました」と答えた芯賀は執務室を辞したその足で外務省へ向かった。