連  帯

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「オデッサのロシア人?」
「そう。テレグラムでじわりと支持が広がっているようなの」
 不曲の同僚が示したネットニュースには、ロシア人女性が投稿する現地情報と写真に関心が高まっているという記載があった。
「本名や顔はわからないんだけど、モスクワ近郊の出身ということを明かしているし、投稿はすべてロシア語だから間違いなくロシア人だと思うわ」
 同僚はその投稿を日本語に訳してくれていた。それを受け取った不曲は、一読してその内容に驚いた。
「これが削除されないまま()り続けているの?」
「ううん、一定の時間が経つと消えるようなの」
 そういう設定が可能で、それによって秘匿性(ひとくせい)を高められているのだという。
「それに文字数の制限はないし、音声や動画も可能なの。それが支持されているらしく、ロシア国内で3千万人が、世界全体では4億人以上が利用しているらしいの」
「ふ~ん、中々の優れモノのようね」
「そうなの。しかも、ロシア政府の規制が緩いときているのよ」
「それはどうして?」
「詳しいことはわからないんだけど、遮断するのが技術的に困難だといわれているようなの」
「そうなんだ」
「そう。それにロシア政府もプロパガンダに使っているから持ちつ持たれつのところがあるのかもしれないわね」
「なるほどね。でも、ロシア政府やロシア軍のことを非難したら最大で15年の禁固刑に()せられるのじゃなかった?」
「そうなの。軍に対する虚偽情報を広める行為を禁じる規定が議会によって可決されているから、反戦デモや反政府運動を呼びかけたら間違いなく目をつけられるわね」
「ということは、オデッサのロシア人もその対象になるということよね」
「そうだと思うわ。捕まれば間違いなく監獄行きね」
「そうよね。でも発信し続けているということは、よっぽどの覚悟と見ていいわね」
「そう思う。多分、命を懸けてやっているのじゃないかしら」
「命を懸けて、か……」
 不曲は考え込んでしまった。
 ウクライナ支援のために考えられることはすべてやってきたつもりだったが、それが命を懸けるレベルかといったらそうとは言えなかったからだ。
 一気に心が重くなった。