CDプレイヤーにセットしてリモコンのスタートボタンを押すと1曲目が始まった。
 正にブルーな気分を表すようなイントロだった。
 しかしその後に反逆的なフレーズが続いて『So What』というタイトルに相応しいふてぶてしい演奏になると、その流れを引き継ぐように2曲目が続き、3曲目が始まった。
『Blue In Green』
 どういう意味だろうと思っていると、ピアノのイントロに導かれてすすり泣くようなトランペットの音色が耳に届いた。
 その瞬間、部屋の色がまったく変わってしまったように感じた。
 正に『Kind of Blue』の世界だった。
 
 ナターシャはこれを聞きながら何を思ったのだろうか? 
 憂鬱な気分に支配されて絶望を感じたのだろうか? 
 換えることのできない自らの血を呪ったのだろうか? 
 ウクライナのことを想って泣いたのだろうか? 
 救いを求めて神に祈ったのだろうか?
 そんなことを考えていたら曲が変わった。
 テンポの速いリフが押し寄せてくるような演奏だった。
『All Blues』
 明るい曲調ではなかったが、力強さを感じた。
 だからか、落ち込んだ心に喝を入れられたようになり、トランペットのブローが始まるとどんどん迫ってきて、更に追い打ちをかけるようにサックスが押し寄せてくると居ても立ってもいられなくなった。
 何かをしなければならないという気になった。
 それは妻の発信に続けという示唆のように感じたし、『オデッサのロシア人』を援護しろという導きのような気がした。