ロシア政府はウクライナ侵攻以降、反対派の意見や議論を遮るためにツイッター、フェイスブック、インスタグラムを次々にアクセス制限してきた。
その結果、国民に真実が伝わりにくくなり、政府にとって都合の良い情報ばかりが国営メディアによって流されるようになった。
しかし、ロシア発のインスタントメッセージアプリであるテレグラムには未だ制限がかかっていない。
何故だかわからないが自由に使えるのだ。
「あなたもやってくれない?」
真剣な眼差しで見つめられた。
「ロシア人であるあなたが発信してくれれば反応が違うと思うの」
写真を見たりメッセージを読んだりしてくれる人が増えることは間違いないという。
「でも……」
ロシア人が戦争の悲惨さを訴えたり無差別殺害は恥ずべき行為だと発信すれば、すかさずSNSで攻撃の的になることを知っているナターシャは気が進まなかった。
ただ炎上するだけで世論を変える力があるとは思えなかった。
「心配はわかるわ。反政府的な発言や発信は危険が伴うものね」
ウクライナ侵攻を『特別軍事作戦』と呼ばずに『戦争』と言っただけで禁固15年の刑を食らいかねないことを彼女は知っていた。
「でもね」
強い視線で見つめられた。
「私たちは殺されているの。命を奪われているの。この世に存在することすら許されていないの」
プーチンによって民族浄化が行われていることを強く訴えた。
そして、「あなたが本当にウクライナのことを考えてくれているのなら、15年の刑なんてなんともないと思うけど、違う?」と見つめられた。
違わなかった。
ナターシャはそんなことは恐れていなかった。
そうではなくて、無為な努力になることを危惧していたのだ。
「袋叩きにあってそれで終わってしまう可能性が高いと思います」
素直に今感じていることを伝えた。
しかし、彼女は平然として言い切った。
「それでもいいじゃない。炎上すれば話題になるし、それをきっかけにして関心を持ってくれる人が増えるかもしれないでしょ」
それで十分効果があるという。
「でも、炎上することによって両親にとばっちりが行く可能性も否定できないですよね。そんなことになったら取り返しがつかなくなります」
「大丈夫。その心配をする必要はないわ」
テレグラムのメッセージは暗号化されてプライバシーを担保できるし、一定の時間が経つと消える機能があるので秘匿性が高いのだという。
更に、非公式なクライアントを作成することも可能なのだという。
それを聞いた途端、心配は一気に薄らいだ。
するとそれを察したのか、彼女の表情も柔らかくなった。
それだけではなく、何かを思いついたように明るくなった。
「いいことを考えたわ。あなたのハンドルネームなんだけどね」と言ったあと、百点満点を取った時の小学生のような表情になった。
「『オデッサのロシア人』というのはどうかしら」
それ以外にはないというふうに大きく頷いた。
その頷きに促されるようにナターシャはそれを口に出した。
何度も口に出した。
すると、昔から知っている言葉のように馴染んできた。
それどころか、そのハンドルネームが頭から離れなくなった。
いや、完全に気に入ってしまった。
「わかりました。やってみます」
やり方を学ぶためにスマホを取り出して、彼女の横に並んだ。
その結果、国民に真実が伝わりにくくなり、政府にとって都合の良い情報ばかりが国営メディアによって流されるようになった。
しかし、ロシア発のインスタントメッセージアプリであるテレグラムには未だ制限がかかっていない。
何故だかわからないが自由に使えるのだ。
「あなたもやってくれない?」
真剣な眼差しで見つめられた。
「ロシア人であるあなたが発信してくれれば反応が違うと思うの」
写真を見たりメッセージを読んだりしてくれる人が増えることは間違いないという。
「でも……」
ロシア人が戦争の悲惨さを訴えたり無差別殺害は恥ずべき行為だと発信すれば、すかさずSNSで攻撃の的になることを知っているナターシャは気が進まなかった。
ただ炎上するだけで世論を変える力があるとは思えなかった。
「心配はわかるわ。反政府的な発言や発信は危険が伴うものね」
ウクライナ侵攻を『特別軍事作戦』と呼ばずに『戦争』と言っただけで禁固15年の刑を食らいかねないことを彼女は知っていた。
「でもね」
強い視線で見つめられた。
「私たちは殺されているの。命を奪われているの。この世に存在することすら許されていないの」
プーチンによって民族浄化が行われていることを強く訴えた。
そして、「あなたが本当にウクライナのことを考えてくれているのなら、15年の刑なんてなんともないと思うけど、違う?」と見つめられた。
違わなかった。
ナターシャはそんなことは恐れていなかった。
そうではなくて、無為な努力になることを危惧していたのだ。
「袋叩きにあってそれで終わってしまう可能性が高いと思います」
素直に今感じていることを伝えた。
しかし、彼女は平然として言い切った。
「それでもいいじゃない。炎上すれば話題になるし、それをきっかけにして関心を持ってくれる人が増えるかもしれないでしょ」
それで十分効果があるという。
「でも、炎上することによって両親にとばっちりが行く可能性も否定できないですよね。そんなことになったら取り返しがつかなくなります」
「大丈夫。その心配をする必要はないわ」
テレグラムのメッセージは暗号化されてプライバシーを担保できるし、一定の時間が経つと消える機能があるので秘匿性が高いのだという。
更に、非公式なクライアントを作成することも可能なのだという。
それを聞いた途端、心配は一気に薄らいだ。
するとそれを察したのか、彼女の表情も柔らかくなった。
それだけではなく、何かを思いついたように明るくなった。
「いいことを考えたわ。あなたのハンドルネームなんだけどね」と言ったあと、百点満点を取った時の小学生のような表情になった。
「『オデッサのロシア人』というのはどうかしら」
それ以外にはないというふうに大きく頷いた。
その頷きに促されるようにナターシャはそれを口に出した。
何度も口に出した。
すると、昔から知っている言葉のように馴染んできた。
それどころか、そのハンドルネームが頭から離れなくなった。
いや、完全に気に入ってしまった。
「わかりました。やってみます」
やり方を学ぶためにスマホを取り出して、彼女の横に並んだ。