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 シェルターに逃れていたナターシャは時間が経過すると共に居ても立ってもいられなくなり、被災した倉庫に引き返した。
 しかし、無残にも焼け落ちて見る影もなく、立ち尽くすしかなかった。
 火は消し止められていたが、モルドバから運んだ善意の品はすべて灰になっていた。
 それを見ていると涙が出てきた。
 あの運転手が体を張って運搬してきた品なのだ。
 危険を顧みず運んできた品なのだ。
 でも、その彼はもういない。
 ロシア軍の攻撃によって殺されただけでも耐えられないのに、彼が運んだ善意まで失われてしまったのだ。
 彼のすべてを否定されたと思うと、悔しくてやりきれなくなった。
 しかし、ロシア軍に反撃することもプーチンを地獄に落とすこともできない。
 たった一人でそんなことができるわけがなかった。
 無力に心が折れそうになり、立っていられなくてしゃがみこんだ。
 それでもふらっとしたので地面に手を付いて体を支えていると、人の気配を感じた。
 顔を上げると、女性の姿が目に入った。
 自分の母親くらいの年齢だろうか、疲れたような顔に皺が深く刻まれていた。