「更に、」
 声に力を込めた。
 悪弊退治に乗り出すのだ。
「常任理事国による拒否権は民主主義に反します」
 これにはロシアだけでなく他の4か国の大使がほぼ同時に顔を強ばらせた。
 戦勝国が持つ特権に切り込んだからだ。
「拒否権は百害あって一利なしです」
 言い切った瞬間、非常任理事国から拍手が沸き起こった。
 拒否権に対して苦々しく思っている国が多いのは間違いないようだった。
 拍手に力を得た不曲は更に突っ込んだ。
「拒否権は廃止し、多数決に移行しなければなりません。66.7パーセントの賛成を持って可決できるようにするのです」
 5か国の大使が一斉に首を横に振った。
 しかし、非常任理事国の大使は別の反応を返した。
 首を縦に振ったのだ。
 それを見て不曲は更に声を張り上げた。
「今こそ抜本的に国連を改革しなくてはなりません」
 すると、ロシア大使が不曲を睨みつけて気色ばんだ声を出した。
「バカも休み休み言え」
 中国大使が同調するように睨みつけたが、そんなことで怯む不曲ではなかった。
「では、休み休み言います」
 一拍置いて日本語に変えた。
「い・ま・こ・そ・ばっ・ぽ・ん・て・き・に・こ・く・れ・ん・を・か・い・か・く・し・な・け・れ・ば・な・り・ま・せ・ん」
 言い終わった途端、会場が爆笑で包まれた。
 笑っていないのはロシア大使と中国大使だけだった。
「いい加減にしろ」「バカにしているのか」
 ロシア大使と中国大使が同時に声を発した。
 その顔には怒りが滲んでいた。
「もちろん、お二人が賛成されないのはわかっています。私の提案に拒否権を行使されるでしょう。でも構いません。大事なことは大勢が判明することだからです」
 会場に視線を移すと、5か国以外のほぼ全員が頷いていた。
 特権を持たない国が現在の体制に不満を持っているのは明らかなのだ。
「不可能はいつまでも不可能のままではありません。いつか可能になる時が来るのです。パラダイムシフトは必ず起こります。劇的な変化が古い考え方や体制を壊すのです。特権は消滅し、支配は終焉を迎えます。それは遠くない時期に起こるでしょう。それを私は信じています」
 採決を促すことなく会議を締めくくると、再び拍手が不曲を包み込んだ。
 それは、国連改革をこれ以上遅らせてはならないという切なる願いの表れのように思えた。