ヤメテ~!
 叫びながら走り出した。
 しかし、近づくにつれて危惧が当たってしまったことに(おのの)いた。
 間違いなく学校が破壊されていた。
 炎を上げているのは倉庫だった。
 医薬品や水や食料などを保管している倉庫が燃えていた。
 
「無理だ!」
 倉庫に飛び込もうとして誰かに止められた。
 一緒に働くスタッフの男性だった。
 しかし、ほんの少しでも持ち出したかった。
 すべてが命に直結した品だからだ。
 
「行かせて下さい」
 振り切ろうとしたが、羽交い締めにされて身動きができなくなった。
 そのままの状態で炎を見つめていると涙が出てきた。
 トルコやモルドバの人たちの善意が燃えているのだ。
 オデーサの人たちに届く前に灰になろうとしているのだ。
 涙が止まるわけはなかった。
 しかし、いつまでもこの場にとどまるわけにはいかなかった。
 ミサイルが続けて打ち込まれる可能性があるからだ。
 男性スタッフに抱きかかえられるようにして車に乗り込んだ。
 
「シェルターのある所に逃げましょう」
 彼はそう言うなり車を急発進させたが、その瞬間、大きな爆発音と衝撃が車を襲った。
 バックミラーには悪魔のような炎が殺意をむき出しにしていた。