「80年前の体制は制度疲労を起こしています。ですので、新たな血の注入が必要と考えます」
 世界3位の経済大国である日本、4位のドイツ、6位で世界2位の人口を抱えるインドを常任理事国に加えなければならないと強調した。
 そして、ロシアを外した7か国が常任理事国に相応(ふさわ)しいと断言した。
 その途端、ロシア大使が顔を赤くして食ってかかった。
「勝手なことを言うんじゃない!」
「勝手ではありません。経済規模が11位のロシアが80年前の戦勝国という理由だけで常任理事国になっていることの方がおかしいのです」
 そこで口を閉じた。
 次の言葉の効果を最大限に引き出すためだ。
「ロシアは国連へいくら拠出しているのですか?」
 睨みつけると、うっ、というような感じになった。
 それでも何か言おうとしたが、口から言葉は出てこなかった。
 それを見て間髪(かんぱつ)()れず現実を突き付けた。
「2021年度の通常予算については6,960万ドルしか分担していませんよね。その額は日本の28パーセントであり、ドイツの54パーセントでしかないのです。そして、イタリアやブラジル、カナダよりも少ないのです。更に、2022年度は5,360万ドルへと分担金が減ることになります。日本の23パーセント、ドイツの30パーセントしか負担しないことになります。順位は更に下がって、韓国やスペイン、オーストラリアよりも下になります」
 それでよく平気な顔をして常任理事国と言っていられますね、と言いたかったが、そこはぐっと(こら)えて飲み込んだ。
「もうロシアが世界のリーダーとして君臨する時代は終わったのです。それを潔く認めるべきです」
 ぐうの音も出ないのか、睨みつけるばかりでロシア大使から声が出る気配はなかった。
 不曲は一気に畳みかけた。
「大義も正義もない侵略国であり、かつ、国連への貢献が低下しているロシアを常任理事国としてとどめておくわけにはいきません。皆さん、そう思われませんか?」
 すると間を置かず拍手が沸き起こった。
 それ程の反応を予想していなかった不曲はちょっと驚いたが、高揚する気持ちが驚きを包み隠した。
「ありがとうございます。ほとんどの方の賛意を頂き、光栄に存じます」
 会場を見回しながら何度も顎を引くように頭を下げた。
 しかし、次に発する言葉を忘れることはなかった。