ボランティア団体のリーダーから強硬に止められた倭生那とミハイルだったが、彼らの目を盗んで深夜にモルドバを出発した。
「夜が明ける前に着かなければなりません」
 ミハイルはアクセルを踏み込み続けていた。
 明るくなると肉眼で発見されやすく危険だからだ。
「どこに潜んでいるかもわからないですからね」
 そう言われると、闇の中からいきなり砲火を浴びせられるような気がして生きた心地がしなくなった。
「まあ、心配したところでどうなるものでもありませんが」
 運を信じるしかないと言って、更にアクセルを踏み込んだ。
「そんなに飛ばして大丈夫ですか?」
 闇を切り裂くようなスピードに思わずシートベルトを握り締めた。
「この時間に走っている車はいませんから心配は無用です」
 夜の運転に慣れているのか、まったく気にしていないようだった。
「ところで、」
 話題を変えようとしたが思いとどまった。
 運転から気を()らすのが得策だとは思わなかったからだ。
「なんです?」
「いえ、なんでもありません」
 それっきり沈黙を闇が包み込んだ。