車の中で仮眠を取っていた倭生那に情報がもたらされたのは1時間ほどあとのことだった。
 次の出発は2日後だという。
 但し、戦況によっては延期されることもあると付け加えられた。
「どうしますか?」
 ミハイルが二つの心配を口にした。
 一つは帰国便の期日が迫っていること。
 もう一つはお金のことだった。
 追加料金を含めてかなりの金額になっているのは間違いなかった。
 更に、ウクライナまで追いかけていくとなると、かなりの割増料金が必要だという。
 
「いくらかかっても構いません」
 マンションを売ってでも妻を探し出すつもりだった。
「わかりました」
 ミハイルは運転手に視線を移し、トルコ語で何かを言った。
 ウクライナ行きを交渉しているような感じだった。
 しかし、運転手はすぐに首を振った。
 それは、モルドバより先にはいかないという意思表示のように思えた。
 
「戦地には行かないと言っています」
 ミハイルが残念そうに首を振った。
「わかりました。大丈夫です。妻が同乗したトラックに私も乗せてもらいますから」
 心はもう決まっていた。
 妻の行き先を知っている運転手に連れて行ってもらうのが最適解(さいてきかい)なのは明白だった。
「そうですか……」
 ミハイルが思案するような表情になった。
 彼にとっての最適解を探しているようだったが、突然車から降りてスマホを耳に当てた。
 トルコ語なので内容はまったくわからなかったが、なにやら交渉しているような雰囲気だった。