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「申し訳ありません」
 モルドバでナターシャの動きを監視していた若い探偵が青ざめた声を出した。
 ちょっと目を離した(すき)にオデーサへ出発していたのだという。
「なんで追いかけなかったんだ」
 ミハイルが強い口調で詰め寄ると、「いや、ウクライナにはちょっと……」とこれ以上は自分の仕事ではないというように首を振った。
「情けない」
 同僚を一瞥(いちべつ)したミハイルが顔を向けて済まなさそうな目で見つめたが、謝られても仕方がなかった。
 そんなことよりこれからどうするかなのだ。
「オデーサに行ったというのは間違いないのですね」
 若い探偵は無言で頷いてから、ミハイルを上目遣いで見た。
 職を失う危険を感じ取ったのかもしれなかった。
「で、オデーサのどこへ行ったのですか?」
「病院だと思います」
 主に薬や医療品を運ぶトラックに同乗したので間違いないという。
「それは定期的に運んでいるのですか?」
 頷いたが声は発しなかった。
「次の便はいつ出発するかわかりますか?」
「いえ、そこまでは……」
「なんでそんなことくらいわからないんだ」
 ミハイルが胸ぐらを掴むような声を発すると、「いや、はい、その、すみません」と消え入るような声になった。
 しかし、ミハイルは許さなかった。
「早く調べろ!」とケツに蹴りを入れるような声を発したのだ。
「わかりました」
 怯えた表情になった若い探偵は慌てて走り出した。