7
大型のSUVがイスタンブールを出発した。
運転手の横にはミハイルが座っていた。
倭生那は後部座席で妻のスマホに連絡を入れ続けていた。
自分のスマホは着信拒否にされているので運転手のスマホを借りてかけていたが、自動録音が聞こえてくるだけだった。
ブルガリアに入っても電話は繋がらなかったが、1時間おきにかけ続けた。
車の中で出来ることはそれしかなかったからだが、いつかは通じると信じてかけ続けた。『一念岩をも通す』と信じてかけ続けた。
突然、ミハイルのスマホが鳴った。
耳に当てると、すぐに「えっ?」という声が漏れた。
何か良からぬことがあったのかもしれないと思うと、黙っていられなくなった。
「何かあったのですか?」
しかし、返事はなく、スマホに向かって「わかった」と言って通話を終えた。
彼が振り向いた。
顔が強ばっていた。
「奥さんを見失いました」
それだけ言って顔を戻した。
声が出なかった。
口は開いていたが呼吸以外の機能は停止しているようだった。
車はルーマニア国境に向かって北上中だったが、なんのために走っているのかまったくわからなくなってしまった。
それでも車はスピードを緩めることなく走り続けていた。
大型のSUVがイスタンブールを出発した。
運転手の横にはミハイルが座っていた。
倭生那は後部座席で妻のスマホに連絡を入れ続けていた。
自分のスマホは着信拒否にされているので運転手のスマホを借りてかけていたが、自動録音が聞こえてくるだけだった。
ブルガリアに入っても電話は繋がらなかったが、1時間おきにかけ続けた。
車の中で出来ることはそれしかなかったからだが、いつかは通じると信じてかけ続けた。『一念岩をも通す』と信じてかけ続けた。
突然、ミハイルのスマホが鳴った。
耳に当てると、すぐに「えっ?」という声が漏れた。
何か良からぬことがあったのかもしれないと思うと、黙っていられなくなった。
「何かあったのですか?」
しかし、返事はなく、スマホに向かって「わかった」と言って通話を終えた。
彼が振り向いた。
顔が強ばっていた。
「奥さんを見失いました」
それだけ言って顔を戻した。
声が出なかった。
口は開いていたが呼吸以外の機能は停止しているようだった。
車はルーマニア国境に向かって北上中だったが、なんのために走っているのかまったくわからなくなってしまった。
それでも車はスピードを緩めることなく走り続けていた。