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『ナターシャへ。本日、支援物資を発送しました。今回は生理用品と赤ちゃん用おむつを各500ケース積み込みました。少しでも役に立てば幸いです。それと、ちょっと嫌な予感がするのでスマホを使うのを止めました。これから頻繁な連絡ができなくなりますが、くれぐれも健康に気をつけて活動してください。危険な所には絶対に行かないように自制してください』

 パソコンからメールを送信したアイラは異国の地で避難民の支援に汗をかいているナターシャの姿を思い浮かべた。
 それは過酷なものに違いなかった。
 押し寄せる避難民に対して受け入れ側は限界に来ているはずなのだ。
 人口が264万人しかいない所へ40万人近くの避難民が押し寄せ、今でも10万人近くがとどまっている現状は、経済的基盤の弱いモルドバにとって大変な負担になっていることは間違いなかった。
 支援する人も金も物も不足しているのだ。
 その中でナターシャは戦っている。
 ロシア人が犯した罪を償っている。
 誰にでもできることではないし、やり遂げてもらいたいと強く思う。
 でも、元の生活に戻ってもらいたいと願ってもいる。
 優しそうな夫がわざわざイスタンブールにまで迎えに来ているのだ。
 私立探偵まで雇って探し出そうとしているのだ。
 その気持ちが痛いほどわかるだけに心が()きむしられそうになる。
 だから、スマホを手に取って探偵の番号を押したくなる衝動がいつも湧いてくる。
 でもナターシャに止められているからそんなことは決してしない。
 彼女の決意に水を差すことはしない。
 絶対にしない。
 例えそれが間違った判断だとしても改めたりはしない。
 ナターシャが選んだ道を応援すると決めたのだから、それをやり切るしかないのだ。
 これからも、そしていつまでも。