第十八話

 ある日の放課後。
 私は、ヒナコちゃんと一緒にクラス委員の仕事をしていた。
 私が黒板の文字を消していると、ヒナコちゃんから話しかけられた。
 
「なあ、アイリ」
「何かしら?」

 私は、できるだけ自然に返事をした。

「ハナのこと…どう思う?」

 その質問に、私は一瞬驚いた。
 というのも、ヒナコちゃんがハナちゃんのことを話題にするのは、最近では珍しいことだったからだ。

「ハナちゃんは、優しくて明るい子だと思うわ。」

 私は、できるだけ差し当たりのない答えを選んだ。

「そうか…」

 ヒナコちゃんは、どこか遠い目をしていた。
 その時、教室のドアが開く音がした。
 振り返ると、そこにはハナちゃんが立っていた。

「あ、ごめんね。邪魔しちゃった?」

 ハナちゃんの声には、少し緊張が混じっていた。

「いいえ、そんなことないわ」

 私が答えると、ヒナコちゃんは急に立ち上がった。

「アイリ、私は先に帰るぞ。」

 そう言って、ヒナコちゃんは教室を出て行った。
 その背中には、ハナちゃんと関わりたくない、という雰囲気だ。
 
 ヒナコちゃんの姿が完全に消える。
 すると、代わりにハナちゃんが私の傍に来た。

「なにあれ?」

 ハナちゃんは、まず、ヒナコちゃんへの不満を私にいった。
 最近ではよくある反応だった。

 しかし、その答えも最近の私には出来ていて。
 その後は上手く、私とハナちゃんはクラス委員の仕事を終わらせた。

 そんなある日。
 二人の関係は急展開を見せることになった。

 昼休み。
 私が教室に戻ると、ヒナコちゃんとハナちゃんが激しく言い争っていた。

「なんで黙ってたの?」

 怒り心頭といった様子のハナちゃん。

「お前に関係ないだろ!」

 ヒナコちゃんも、普段は見せない激しい口調で返していた。

「二人とも、どうしたの?」

 私は、慌てて二人の間に入った。
 しかし、二人の怒りは収まらなかった。
 ヒナコちゃんが突然、ハナちゃんを押してしまった。
 ハナちゃんは、よろめきながらも反撃しようとする。

「やめて!」

 私の声が、教室に響いた。
 しかし、二人の対立はとまらない。

 二人の争いは醜い。
 ハナちゃんは、ヒナコちゃんの髪を掴んだりしている。
 ヒナコちゃんも抵抗して、自らに取りついているハナちゃんを突飛ばそうとしている。
 しかし、ハナちゃんもそれに対抗している。

 そこには、これまでだんだんとエスカレートしてきた二人の対立の頂点のようだった。

 騒ぎが大きくなった。
 すると、それまで見ていただけだった周りのクラスメイトたちも、さすがに止めに入ってきた。
 周囲の生徒が、ヒナコちゃんと、ハナちゃんを抑える。

 その後、担任の先生が駆けつけてきた。
 先生は、事情を聞こうとしたが、ヒナコちゃんもハナちゃんも黙ったままだった。

 結局、二人は職員室へと呼び出されることになった。
 私は、一人、その場に残された。