──それからのおれたちの日常に、変わった点はさほど多くない。
 おれたちがずっと支え合って生きていくことは、今までも、恋人になった後も、ずっと同じだ。いつだったか陸也が言ったみたいに、おれたちは高校受験が終わった時に本当ならキスをして、恋人になる運命だったからかもしれない。
 ただ、相手を好きな気持ちを隠さなくてもよくなって、陸也の前でならちょっとしたワガママを言ってもいいんだとわかって以来、おれの心はスッと軽くなった。
 たとえばおれが受験に失敗して就職することになっても、きっと陸也は今までと変わらずに接してくれる。
 それだけのことに、やっと気付かされたんだ。

 そうして季節が過ぎた後、おれたちに運命の日がやってきた。
 今日は第一志望に決めていた大学の合否発表の日だ。陸也はもう国立大学法学部への進学が決まっていて、あとはおれが合格できるか、それとも潔く働くか、その二択が決まる大事な日。
 大学の合否結果は現地じゃなくてインターネットのサイト経由で発表されるようで、陸也が持ち込んでくれたノートパソコンをおれの家の寝室に置いて、時間になるまでの数分間、ドライアイになるくらい画面を凝視していた。
「待てよ。これじゃ発表前に気力を使い果たしちまう。とにかく時間にならなきゃいつまで経っても画面はかわんないんだから」
「陸也、それ一分前にも言ってた」
「うわぁ! もう! 緊張するっ!」
 おれの爆発して四散しそうな心臓の高鳴りを、陸也が代弁する。
「あと何秒? ……あ、三十秒切った」
「いくぞいくぞ……!」
 陸也がマウスパッドを操作して、ページ更新マークにカーソルを重ねる。
「三、二ぃ、一っ……今!」
 更新した画面に、受験番号がずらりと並ぶ。
 もう、おれは今まで散々奇跡をもらってきた。
 陸也と幼馴染になれた。お互いに支え合った。必死に勉強して、傑名高校に合格した。ずっと好きだった相手と恋人になれた。
 今までのおれだったら、もうこれ以上何も望まないと諦めていただろう。
 だけど神様、もう一度だけおれに奇跡をください──。
「あ……った! ……あった、圭っ! あったぞ!」
「ウソ。え、どこ」
「ここ! ここっ!」
 自分の受験番号と、陸也が指さした受験番号を交互に見る。
 夢、じゃない。
 何度確認しても、目を擦っても、そこに番号がある。
「や、った……!」
「うぉおおおっ!」
 受験票を放り投げて、腕を広げた陸也の胸に飛び込む。お互いに抱き締め合って背を叩いた。
「苦節なんねん? 十二年だ! すっげぇー!」
「がんばったぁ!」
「圭、ホントに……おめで──うっ、ぐすっ……おめでど……!」
「先に泣くなよ!」
 頭の中に、小学生だった頃の陸也の声が響く。
 ──俺たち、ずっとずっと、二人で支え合って生きていこうな!
 そうだ。おれたちはこれからもずっと、二人で支え合って生きていく。
 陸也と二人でなら、奇跡だって起こせるんだ。


〈終〉