「他の写真はないの? この写真だけじゃなんとも」
「うーん。それがさ、風景をとっていたときに急に現れたっていうかさ。ファインダーを覗いた瞬間に彼女の姿が見えて」
みらいが現れた時のことを思い出しながら、僕はスライドして他の写真を見つめる。
その前にとった写真には他に人の姿なんて映っていなかった。
「これ、おかしくない? なんかこの前の写真。ほんの五分前の時間になのに、この時にはこの子の姿ないのに、こっちの写真にはある。でも彼女が歩いてきたなら、こっちの写真にも写っていていいはずなのに」
梨央の言うとおり、ちょうどここはまっすぐな道になっている。だから普通に道を歩いてきたのなら遠目に見えてもいいはずだった。
もちろんそれほど木が生い茂っている訳ではないから、どこかに横道にそれていただけかもしれない。写真に写らなかったのは、道でないところを歩いていたのかもしれない。ただ少なくとも僕は彼女がいることに全く気がついていなかったし、写真にも写らなかったということだ。
「まさか、幽霊とか」
梨央がぼそりとつぶやく。
「ま、まさか。少しだけど普通に会話したし」
「そだよね。そんなわけはないし」
梨央の言葉に体が震えるのを感じていた。
未来はもうこの世にはいない。もし彼女が本当に未来なのだとしたら、幽霊だということになる。未来とは友達だったから、幽霊だったとしても何か悪いことをしてくることはないだろうとは思う。
それでもこの世の物ではないと言われると、少し恐れる気持ちはある。だいいち本当に僕が知っている未来なのかどうかもわからない。
でもあのみらいとははっきりと会話が出来た。僕には特に霊感とかはないし、今まで霊的な存在と出会ったこともない。だからたぶん幽霊ではないはずだ。たぶん。
もしも幽霊だったらどうしようかとも思うものの、どちらにしても僕に出来ることはなかった。そもそも偶然森の中で出会っただけだから、もういちど出会うことがあるかもわからない。
「でも幽霊じゃないとしたら、あの子は何だったんだろう」
「他人のそら似、というには似すぎているかな。あたしが見てても未来が大きくなったように見える。物語ならタイムマシンでやってきたとかあるかもしれないけど、だったら未来は私達が知っている姿のはず。うーん、未来が死ななかった世界から来た、とか」
梨央は少し空想の世界に入ってしまったようだ。
確かに梨央は意外にもまんがとかアニメとかがけっこう好きだったとは思う。そういう設定の話とかも読んだことがあるかもしれない。
「未来が死ななかった世界、か」
梨央の言葉を受けて、ぼそりとつぶやく。もしそんな世界があるとしたら、僕はそこにいきたかったと思う。
いや、そこに行けなくてもいい。死ぬのは未来じゃなくて僕だったら良かったとは思う。そんな世界であってくれたらいいのに。
心の中でつぶやくと、少しだけ顔を落とす。どうして僕はこうしてのうのうと生きているんだろう。未来の代わりに僕が死んでいれば良かった。何度も僕はそう思っていた。
そんな僕の様子に気がついたのか、梨央は僕へと顔を寄せてくる。
「また変なこと考えているよね。言い出したのはあたしだけどさ、現実にそんなことあるわけないんだから」
梨央は眉を寄せて、僕をじっと見ていた。
たぶん内心は読まれてしまっていたと思う。梨央とはつきあいも長い。僕の考えなどお見通しなのだろう。
「まだ事故のこと気にしているんだよね。あれは確かに不幸な事故だったよ。あんな事故なければいまごろってあたしだって思う。でも、もうどう思っても未来は帰ってこないんだよ。だから残されたあたし達は、未来の分まで生きる必要がある。わかっているよね」
梨央の言葉に僕は無言でうなずく。
何度も未来の姿を夢でみてきた。そのたびに本当は未来は生きているんじゃないかと思った。幼い頃に死んだことを認められなくて、混乱して。未来はどこと探し回った僕を梨央はずっと見てきていた。今回の話だって、もしみらいが映っている写真がなければ、僕がまたおかしくなったと思われていたかもしれない。
そもそも僕自身すらも、自分の妄想なんじゃないかと考えてしまうくらいだ。梨央から見れば心配するのが当然というものだろう。
梨央にはずっと面倒ばかりかけてきていた。これ以上は梨央に負担をかけたくない。
ずっとそばにいてくれた幼なじみだ。僕は彼女がいたからこそ、いまもこうして生きていられるとすら思っている。梨央がこうして今もそばにいてくれることは、何よりも僕の救いになっていたとは思う。
「わかっているよ。さすがにもうこどもじゃない。僕だって理解はしている」
「それならいいんだけど。心配」
梨央は僕をじっと見つめていた。
やっぱりまだ少し疑われているのだろう。梨央は感情がすぐ表情にでる。僕を心配している気持ちがにじみ出ていたと思う。
これ以上は梨央に心配かけるわけにはいかないな。僕は心の内でつぶやくと、すぐに何でもないふりをして冷静につとめようとする。
「大丈夫。もう二度とあんなことはしないから」
僕はあの時のことを思い出しながら、未来について気持ちを馳せていた。
たぶんあのみらいは夢だったのだろう。僕の気持ちが作り出した幻だ。
だからもう忘れてしまおう。
そうして僕はどこかで期待する気持ちを心の中に抑え込んだ。
「うーん。それがさ、風景をとっていたときに急に現れたっていうかさ。ファインダーを覗いた瞬間に彼女の姿が見えて」
みらいが現れた時のことを思い出しながら、僕はスライドして他の写真を見つめる。
その前にとった写真には他に人の姿なんて映っていなかった。
「これ、おかしくない? なんかこの前の写真。ほんの五分前の時間になのに、この時にはこの子の姿ないのに、こっちの写真にはある。でも彼女が歩いてきたなら、こっちの写真にも写っていていいはずなのに」
梨央の言うとおり、ちょうどここはまっすぐな道になっている。だから普通に道を歩いてきたのなら遠目に見えてもいいはずだった。
もちろんそれほど木が生い茂っている訳ではないから、どこかに横道にそれていただけかもしれない。写真に写らなかったのは、道でないところを歩いていたのかもしれない。ただ少なくとも僕は彼女がいることに全く気がついていなかったし、写真にも写らなかったということだ。
「まさか、幽霊とか」
梨央がぼそりとつぶやく。
「ま、まさか。少しだけど普通に会話したし」
「そだよね。そんなわけはないし」
梨央の言葉に体が震えるのを感じていた。
未来はもうこの世にはいない。もし彼女が本当に未来なのだとしたら、幽霊だということになる。未来とは友達だったから、幽霊だったとしても何か悪いことをしてくることはないだろうとは思う。
それでもこの世の物ではないと言われると、少し恐れる気持ちはある。だいいち本当に僕が知っている未来なのかどうかもわからない。
でもあのみらいとははっきりと会話が出来た。僕には特に霊感とかはないし、今まで霊的な存在と出会ったこともない。だからたぶん幽霊ではないはずだ。たぶん。
もしも幽霊だったらどうしようかとも思うものの、どちらにしても僕に出来ることはなかった。そもそも偶然森の中で出会っただけだから、もういちど出会うことがあるかもわからない。
「でも幽霊じゃないとしたら、あの子は何だったんだろう」
「他人のそら似、というには似すぎているかな。あたしが見てても未来が大きくなったように見える。物語ならタイムマシンでやってきたとかあるかもしれないけど、だったら未来は私達が知っている姿のはず。うーん、未来が死ななかった世界から来た、とか」
梨央は少し空想の世界に入ってしまったようだ。
確かに梨央は意外にもまんがとかアニメとかがけっこう好きだったとは思う。そういう設定の話とかも読んだことがあるかもしれない。
「未来が死ななかった世界、か」
梨央の言葉を受けて、ぼそりとつぶやく。もしそんな世界があるとしたら、僕はそこにいきたかったと思う。
いや、そこに行けなくてもいい。死ぬのは未来じゃなくて僕だったら良かったとは思う。そんな世界であってくれたらいいのに。
心の中でつぶやくと、少しだけ顔を落とす。どうして僕はこうしてのうのうと生きているんだろう。未来の代わりに僕が死んでいれば良かった。何度も僕はそう思っていた。
そんな僕の様子に気がついたのか、梨央は僕へと顔を寄せてくる。
「また変なこと考えているよね。言い出したのはあたしだけどさ、現実にそんなことあるわけないんだから」
梨央は眉を寄せて、僕をじっと見ていた。
たぶん内心は読まれてしまっていたと思う。梨央とはつきあいも長い。僕の考えなどお見通しなのだろう。
「まだ事故のこと気にしているんだよね。あれは確かに不幸な事故だったよ。あんな事故なければいまごろってあたしだって思う。でも、もうどう思っても未来は帰ってこないんだよ。だから残されたあたし達は、未来の分まで生きる必要がある。わかっているよね」
梨央の言葉に僕は無言でうなずく。
何度も未来の姿を夢でみてきた。そのたびに本当は未来は生きているんじゃないかと思った。幼い頃に死んだことを認められなくて、混乱して。未来はどこと探し回った僕を梨央はずっと見てきていた。今回の話だって、もしみらいが映っている写真がなければ、僕がまたおかしくなったと思われていたかもしれない。
そもそも僕自身すらも、自分の妄想なんじゃないかと考えてしまうくらいだ。梨央から見れば心配するのが当然というものだろう。
梨央にはずっと面倒ばかりかけてきていた。これ以上は梨央に負担をかけたくない。
ずっとそばにいてくれた幼なじみだ。僕は彼女がいたからこそ、いまもこうして生きていられるとすら思っている。梨央がこうして今もそばにいてくれることは、何よりも僕の救いになっていたとは思う。
「わかっているよ。さすがにもうこどもじゃない。僕だって理解はしている」
「それならいいんだけど。心配」
梨央は僕をじっと見つめていた。
やっぱりまだ少し疑われているのだろう。梨央は感情がすぐ表情にでる。僕を心配している気持ちがにじみ出ていたと思う。
これ以上は梨央に心配かけるわけにはいかないな。僕は心の内でつぶやくと、すぐに何でもないふりをして冷静につとめようとする。
「大丈夫。もう二度とあんなことはしないから」
僕はあの時のことを思い出しながら、未来について気持ちを馳せていた。
たぶんあのみらいは夢だったのだろう。僕の気持ちが作り出した幻だ。
だからもう忘れてしまおう。
そうして僕はどこかで期待する気持ちを心の中に抑え込んだ。