翠は全バスケ部員垂涎のブザーゴールを決め、いつにもまして憎らしいぐらいに煌く美丈夫ぶりだ。クラスの女子がドラマで最近よく見かける若手俳優の誰それに似ていると騒いでいるが、その俳優よりずっと体格も見た目も良くて優しいと麗紋とて普段はそう思っている。だが今日は素直に褒める気になれない。

「試合が終わるまで気を抜くなって、いつも言ってるだろ?」

 そっぽを向いて項垂れた麗紋の頭を碧が顎の下に手を当てくいっと上向かされる。
 上目づかいで碧を恨めしく見上げると今度は「青黄色!! 顎クイ! 良き!」と麗紋がシュートを決めた時よりも激しめの声が上がった。この二人のカップリングも根強い人気があり、こっそり二人をモデルにした物語が女子の間で出回っていることを麗紋が知る由もない。

「麗紋よく頑張ったな。最後のあれ、いいシュートだったぞ」

 碧はまず穏やかに麗紋を労った。同じ顔でも翠は王子様、碧は王様と称される雰囲気の違いは、碧のこの落ち着いた喋り方と短く切りそろえた黒髪のせいだろう。憧れの元主将に褒められたら勿論嬉しいが、手放しでは喜べない。

「だから触んなって、碧兄もしつこい!!」

 興奮冷めやらぬ生徒たちから熱狂的な声援を二人並んだ同じ顔がそろって受けている。日頃は二人と共にいると誇らしい気分になる麗紋だが今は違う。上目遣いに憎々し気な眼差しを二人に向けると、ぐぬぬっと唸った。

「悔しいのは分かるが負けは負けだ。約束、分かってるよな?」
「逃げるなよ? 放課後迎えに行くからな」

 そして急に負けたという事実を突きつけられて、麗紋はがっくりとうなだれるしかなかった。

※※※

 三年生に負けたとはいえ、麗紋のクラスは一年生の中では学年優勝だったので、担任の先生が喜びまくり、別日にクラス全員にアイスクリームをおごってくれると約束してくれた。
 放課後、麗紋は高校のある駅より栄えている二駅先のカラオケボックスでクラスの祝勝会が行われて、しょげかえる麗紋をクラス皆が労って盛り上げてくれた。
 文化祭を秋に終え、年末が近づいている時期だ。街中はクリスマスの装飾がなされていて、制服にマフラーを巻いただけでは寒く感じる。
 カラオケが終わると駅に向かい麗紋と加賀谷はクラスメイトを引き連れてぞろぞろ連なって歩いていた。
「二次会、ファミレス。お前も行くだろ」
「いくいく!」と調子よく答えようとした麗紋の背後で、本日はあまりにも聞きなれた若い女性の歓声というか喜色溢れる悲鳴が聞こえる。気配を察し振り返る前に逃げようとした麗紋の両肩に、それぞれがっしりと大きな掌がかかる。

「いや、お前は俺らと一緒に家に帰るんだろう?」
「迎えに来たよ? れーちゃん」

(なんでここにいるってわかったんだよ!)とは思ったが翠に惚れてるクラスメイトの女子がしきりに翠に手を振っているのをみて麗紋はため息をついた。

「なあ、約束。今日じゃなきゃどうしても駄目?」

 麗紋は寒さで真っ赤になった耳を擦りながら、唇をつんっと愛らしい感じに尖らせた。