翠は日頃のややチャラい感じを封印し、剣呑な雰囲気を漂わせている。柔和な翠の試合でしか見られない雄みのある表情に、ギャップに萌えた女子生徒からまた爆発したような悲鳴が上がった。

「まずい!」

 浮かれた一年生チームの隙を突いた元主将、碧のパスは流石の的確さだった。

「行け! 打て!!」

 翠の目線の先は麗紋を超えてその先に注がれている。長く逞しい腕がすっと真っすぐにその先にあるバスケットゴールに向かって伸ばされた。

「させるか!」

 止める気は十分だったがやや空回り気味の麗紋が必死に伸ばした指の爪先をすりぬけ、ボールはそのままバスケットに向かい一直線に綺麗な弧を描く。

「外れろお!!」

 場内の注目が一身に注がれ、誰もが息をのんだその瞬間。
 麗紋の願い空しく、ボールは自陣のゴールネットを大きく揺らし、その中へすとんと吸い込まれていった。
 スリーポイントを稼ぐ決勝点が決まった瞬間、体育館が揺れたと錯覚するほど、われんばかりの大歓声が鳴り響く。
 翠は駆け寄る仲間たちの中心でガッツポーズを取り、爽やかな笑顔を見せた。碧はチームメイトの様子を腰に手を当て満足気に見守っている。そんな二人を麗紋はただ茫然と見つめた。

「うおおおっ! 翠先輩! ナイスシュート!」
「ナイスパス! 碧先輩!」 

 みなが口々に褒めたたえながら、背格好もそっくりの双子たちに群がって勝利を分かち合う。

「ま、負けた」
 麗紋は悔しくてがっくりとコートに膝をつく。

「残念だったね? れーちゃん。」

 そんな麗紋のふわふわ明るい茶髪の癖毛を、仲間の間から一目散に駆け寄ってきた翠の大きな掌が、犬の子でも撫ぜるように荒く乱していく。

「くっそ、触んな、翠兄」

 麗紋は唇をつんっと尖らせながら、なおもしつこく宥めるように頭を撫ぜてくる優しい手をピシャリと払いのけた。
 その後ろでは女生徒達から「緑と黄色イイ感じ~」「美形従兄弟同士のわちゃわちゃ! 眼福」「いつものジャンピングくるくるハグしないの?」と遠慮のない謎の声援がかかる。

「いつもみたいに抱き着きにきてくれないのか? 寂しいな。加賀谷には自分から抱き着いたくせに」

 拗ねた口ぶりで見目よい従兄弟は屈んだ麗紋の二の腕を掴んで引っ張り上げようとするが、それも断固拒否する。普段の試合ならば麗紋が真っ先に喜びを爆発させて従兄の大きな身体に飛びつき、くるくる振り回されながら喜びを分かち合うのだが今日は負けたのは当の自分だ。悔しくてそんな事できるはずがない。

「敵なんだから! するわけないだろ!」
「なんだ、せっかく決勝点入れて勝ったのに。いつもみたいに『翠兄すごい!』って麗紋に喜んでもらえないなんて、つまんないな。勝って損した」
「嫌味かよ!」