麗紋がどきっと無意識に胸を押さえたのは過去二回、進学した二人と共にいられなくなった時のことを思い出したからだ。自立しなければと思い詰める理由の一つは、二人と離れた時の喪失感を別のもので埋めたいから。そんな本音の一つは女々しくて、どうしても二人には隠しておきたかった。

「……そうだけど。だけどさ。そろそろ二人から離れてやってみたいんだ。自立ってやつ?」
「テスト勉強も?」
「食事の支度も?」

 従兄弟たちに頼り切っている部分を矢継ぎ早に攻められると弱いところだ。

「ううっ。それも?」
「それもだろうな。自立したいんだろ?」

 テスト前ともなれば兄弟が過去問に合わせて作ったお手製問題集を手渡され、同じように部活から腹を空かせて帰ってきても、麗紋がスマホに夢中の間に、二人が母親たちが下ごしらえしてくれているご飯を仕上げてそれを食べさせてもらっている。
 あまつさえソファーで寝落ちしようものなら双方の家にある三人が一緒に使える部屋で寝かしつけてもらっていることは、流石に恥ずかしくて他人には絶対に内緒だ。
 多分やれば何でもできるだろうが、麗紋はこれまで二人にでろでろに甘やかされて育ってきた。小さな頃は女の子みたいに華奢で愛くるしく、キュートだった麗紋を二家族が皆でよってたかって世話を焼き、特に双子の過保護は重く、今も時おり姫とおつきの騎士たちとやっかまれるほどの関係性ができ上った。

「その辺は、面倒見て欲しい、かも。家でまで二人と離れたら寂しいし」
「狡いな、麗紋は」

 頬を染め項垂れた麗紋の頭をいつも通り碧と翠が「可愛い奴め」と言わんばかりにわしゃわしゃと撫ぜて宥めてくる。
 中学生の初めごろまではこれにさらに両側からハグと、もち肌の頬へのキスまでがついてきたのだが、思春期の麗紋が必死で抵抗するものだから流石に最近は控えられている。

「あー。れーちゃん、いい匂い。ボディーソープ俺らと同じなのに、なんでこんなにふんわり甘くていい匂いなんだろ」
「翠、ずるいぞ」

 それでも翠がどさくさに紛れて二人に挟まれてソファーに座る麗紋に頬ずりしたから、碧は負けじと麗紋の腰を抱き寄せ、頭をこてんっと自分の肩に乗せさせた。

 こういうことはもう慣れっこなので家の中では面倒が勝ると麗紋は抵抗をしない。麗紋はふーっと小さくため息をついて彼にしては珍しく憂い顔を見せた。

「でもさ。そろそろ俺も。二人と対等に扱われたいっていうか。もう、小さい子じゃないんだし」
「対等か」

 碧は感慨深げといった感じの顔つきで顎に手を当てた。こんな落ち着き払った仕草は時代劇の武士みたいで、どちらかといえばふわふわしている翠とは好対照だ。
 碧はまたいつもの目配せを翠に送ると、翠もはっとしたような顔をしていつになく真剣な顔つきで目線で頷き合う。

「じゃあ、こうしよう。俺たちのクラスも三学年で優勝して、勝ちあがってきたお前たちのクラスと対戦して、それで俺たちが勝ったら、麗紋にも俺たちの言うことを一つずつ聞いてもらうっていうのはどうだ? 拒否は許さない」
「えっ?」