「バイトしなくても必要なものは叔母さんが買ってくれてるし、小遣いだって足りてるだろ? 行きたいところがあったらこれまで通り俺たちが連れてく」
「世間知らずのれーちゃんにバイトさせるなんて心配だなあ。ちゃんと勉強と両立できるの? 外に出たら可愛いれーちゃんにこれ以上どんな悪い虫がつくかわかんないし……。それにバスケする時間減っちゃうよ?」
「悪い虫って……。俺、男だよ?」
「「はあ~」」

「「やっぱり分かってない」」と呟いた二人に、代わる代わる左右から聞こえるステレオの如く説得された上、ため息を疲れ麗紋はむむっと口ごもる。

「バスケする時間減るのはやだけどさ、でもバイトすると、学校では出会えないような人とも出会えるし、人生の経験値が上がるって加賀谷が言ってた」

 また麗紋の口から飛び出した加賀谷の名前に、二人が左右それぞれの眉を鏡合わせのようにぴくりっと上げる。さすが双子というべき息の合った様子で面白いと麗紋が感心していると、二人は一度顔を見合わせてから麗紋の顔をじっと見降ろしてきた。

「加賀谷」
「余計なことを……」
「な、なに?」
「なにも加賀谷と同じバイト先に行かなくても、そんなにバイトしたいなら、俺らと同じところにくればいい。なあ? 翠」
「そうだな。店長に話し通しとくよ。ただし部活と勉強優先のシフトね」 
 その申し出には麗紋も大きな目を瞬かせ、にぱっと顔を明るくした。
「やったあ。あそこのカフェ、高校生じゃ中々受からないって言われてるらしいよね? 嬉しい」

 幼い頃から二人を虜にして離さぬ麗らかな笑顔が久しぶりに見られて、双子は内心胸をときめかせる。麗紋が二人がカフェから洗濯の為に持ち帰るギャルソンエプロンを巻いては羨ましそうにしていたことは、双子にとって織り込み済みなのだ。

「ところで麗紋。聞くが、三年の優勝クラスと対決して、勝てたらってことでもいいな?」

 碧に確認されて麗紋は内心焦る。

(一年生ではうちのクラスがバスケ部集中してるから、一学年の部、優勝は余裕って思ってたけど……)

「まさか碧兄と翠兄、球技大会バスケで出るの? 狡くない?」
「そうか。俺たちのクラスには勝てないのか? まあそうかもしれんな」
「れーちゃん、加賀谷たち現役バスケ部連中でチーム作るんだろ? 挑戦もしないでやめるの?」
「うぐっ。……勝てる」

 麗紋の負けず嫌いをくすぐる作戦に、まんまと乗ってしまった。
 ついこの間までバスケ部のエースだった二人がでたら無双と言えるだろう。とはいえ麗紋も自分のクラスにバスケ部員が五人揃っていると踏んで申し出た勝負だ。これで後には引けなくなった。

(いやでも、これってチャンスなんじゃないか? 今までずっと二人のお荷物とか我儘お姫様とかさんざん陰口叩かれてきた俺が、二人に勝って実力で周りを黙らせるとか、すげー、恰好いいかも)

 麗紋が大きな瞳を炯々と光らせ、明らかにやる気を漲らせたのを見て双子たちもにやっと笑った。

「焼肉な? 前に行ったのと同じ店でいいか? 食べ放題のとこ。予約しとくか。勝っても負けても行こう」
「賛成! 碧、店の予約よろしく」
「ん、了解」

 碧は責任感の強い長兄らしく早速スマホを弄りながら独り言に近い調子で呟いた。

「なあ、麗紋。登下校と昼食はこのまま一緒じゃ駄目か? 俺たちあと少しで卒業するし、年が明けたら直ぐ自由登校になるんだぞ。いやでも一緒いられなくなる」