「「どうして? 今さら?」」

 咎めるようなハモリ声はかなり大きく、麗紋はすぐさま耳を塞いで面食らった。

「二人と一緒に歩くとやたら注目されて目立つし、他校の女子にも目を付けられてて、同中の人経由で俺の方に二人目当てでSNSの友達申請がめちゃくちゃ沢山来るし、クラスメイトで繋がってる女子から、やたらDMで二人のこと質問されるし。色々と面倒なんだよ」

 これはもう中学の頃からずっとそうなので慣れっことも言えたが、二人の高校卒業を前に、さらに加熱してきていたので勘弁して欲しいと辟易していた。

「それから昼はそろそろ、空き教室で三人じゃなくて、加賀谷とかクラスメイトとかと食べたい。俺も二人みたいにバイトしてみたい。加賀谷がしてるバーガー屋に誘われてるんだ。人手が足りないんだって。あと、球技大会終わったらご褒美に焼肉奢って」

 そんな一方的な自立宣言プラスただの我儘を黙って最後まで聞いた翠と碧は、同じように顔を曇らせた。

「「それ、本当に俺たちだけが目当てか?」」
「そうだよ」
「絶対何割かは麗紋が目当てだろう」
「ないない」
「そんなことない! れーちゃんはスポーツも勉強も俺らに負けじと頑張ってきたし、性格が明るくて周りに友達も多いよねえ。一生懸命で健気だから、きっと周りは男女問わずきゅんってしてると思うよ」
「あー。兄ばか極まってるよ」
「あまりしつこい奴は俺たちに言え。断ってやるから」
「そうだよ。スマホ見せて? どいつ? ブロック削除してやるから」

 なんて二人はまた口々におせっかいをやいてこようとしたので、麗紋はあきれ顔で頭を抱えた。

「過保護すぎ! そういうとこが面倒なんだよ」
 
 あしらわれたのが腹が立ったのか、王子様と名高い翠が腕組みしつつ詰め寄ってきた。

「こっちから言わせれば、れーちゃんは自分の魅力に無自覚すぎるんだよ。くりっとした大きくて可愛い目をしてるし、背もどんどん伸びてきてるし、顏が小さくてアイドルみたいなスタイルしてるから、女子から可愛いってモテててるよ」
「可愛いって言われたくない。格好いいって言われたい」
「男も馴れ馴れしくしてくる奴には用心しろ。お前は人懐っこくて無防備すぎる」
「特に加賀谷、あいつ、れーちゃんにべたべたしすぎ」

 と翠が呟き、いつも落ち着いていて口数が少ない方の碧もそれに大きく頷いた。

「俺にべたべたし過ぎなのは二人の方だよ。もうすぐ高二になるのに、いつまでもちっちゃい頃と変わらない扱い方してくるし。それに加賀谷はいい奴だよ」
「俺たちがれーちゃんにべたべたするのはいいの。れーちゃんを誰より愛してるんだから」
「加賀谷いい奴だ。よくわかっている。だからこそ、むしろ余計に危険だ」
「なにそれ? 意味わからん」

 しかし麗紋の我儘やおねだりはいつものことなので二人は慌てることなく、顔を見合わせてから「まあ待て」と麗紋の頭を両側から軽く小突いて微笑みあう。
 こんな時二人の中では喋らずとも答えが出ているので、麗紋にとっては蚊帳の外にいるような寂しいような気持ちになるのだ。