みながお遊び程度の試合とお気楽に盛り上がる中、麗紋だけが大きな瞳に闘志を燃やしてこの試合に挑んでいるのだ。そのことを知っているのは加賀谷と対戦相手の従兄弟達だけだった。
 
(俺はこの勝負に勝って、従兄ちゃんたちのお荷物でも弟分でもましてやお姫様でもないことをみんなの前で証明してやる!)

 物心ついてから高校生になった今の今まで、双子は麗紋を常に傍に置いて、そろってあれこれ世話を焼き続けてきた。何しろ家は隣同士かつ、母親は姉妹同士。だから三人は本当の兄弟みたいにいつでもベッタリ仲良く暮らしてきた。
 幼いころから三人は寝るのも食べるのも遊びに行くのも学校に行くのも一緒。
 中学と高校に学校が離れた時など、高校生の二人はわざわざ麗紋を中学の校門まで送ってから自転車を爆走させてここまで通ってきたほどだ。そして今年、麗紋が親や双子のたっての希望で地元の進学校に入学し、彼らの後を追うようにしてバスケ部に入った。

 三年生が引退した後、一年生で一番ガタイのいい加賀谷と共に麗紋は二年生との合同チームのレギュラーメンバーに選ばれた。選んだのは監督と顧問だが、レギュラー落ちした二年生の部員から『貴島先輩達の従弟だから監督も顧問も贔屓にしている』と陰口を叩かれて辛かった。
 告げ口になるのが嫌で二人には言わなかったが、麗紋の実力を認めてくれている加賀谷は気にするなと言ってくれた。しかし落ち込む以上に麗紋は悔しかった。
 いつも二倍に目立つ従兄たちの影に隠れがちではあるが、麗紋とて男子である。しかも二歳年上の彼らと共に過ごしてきたおかげで、成績も運動も人並み以上にできる自負がある。だがいつまでたっても彼らのおまけのように扱われ、時には麗紋自身の事は二の次のような周りの評価を食らいがちだ。
 だがあと少しで彼等が卒業する。そろそろ大きすぎる翼の下を抜けて自立し、一人前として扱われたいとの強い欲が出てきた。

(この試合に勝てたら、俺もあの二人と対等になれる気がする)

 自分の実力を知らしめたい。それには全校生徒が集まる球技大会で活躍して勝ち進み、自身が活躍して優勝することで周囲に実力を見せつけるのが良いと考えたのだ。そこで麗紋はとある賭けを過保護な従兄たちに自ら持ちかけたのだった。

※※※

 試合の数日前の休日の夜。自室でNBAの試合を視聴した後、麗紋は夜食の肉まんを食べ終わった二人にこう切り出した。

「もしも俺のクラスがさ、球技大会バスケで優勝したらさ」
「「なんだ? またおねだりか?」」

 背格好も顔立ちもそっくりな双子と言われるが、麗紋に言わせれば違うところが沢山ある。だが、この時は二人はまったく同じタイミングで麗紋に向かってしょうがないやつだな、といったデレ甘な笑顔を向けてきた。麗紋が可愛くて仕方ないというのがもう、目元から溢れるのだ。
 だらしなく緩んだ顔でも余り崩れないのは、流石の造作の良さと二人を見慣れた麗紋でもそう思う。麗紋も敢えてにこにこしながら無邪気を装いペットボトルに入ったお茶をあおった。

「俺もう、従兄ちゃんたちと登下校と昼食を一緒にしない」