屈強長身で筋肉質の恵まれた体躯を誇る双子たち。彼らの凛々しい立ち姿は、学校指定のややダサいジャージにTシャツ姿でも誰もが見惚れるほどに恰好いい。

(俺も、あの二人と肩を並べたい) 

 麗紋が幼い頃から願い続けてきたこと。それがもうすぐ叶う。
 学校中の注目を集めるこの勝負。このままでは負けが確定だというのに、二人の顔にはまだ余裕さえ伺えた。
 どんどん高まる歓声の中、碧は微動だにせずこちらを睥睨してプレッシャーをかけ、翠は腕を軽く上げて笑顔で周囲に応えている。興奮のあまり上がる女生徒の甲高い悲鳴がひっきりなしだ。
 その中にはバスケ部の試合のたびに応援駆けつけてくれた、ありがたい顔ぶれも見える。

(ああ、そっか。ファンの子たちにとっては、二人の試合を見られる最後のチャンスなんだもんな)

 そう思うとなんだか麗紋も少しだけ寂しい気持ちなってまた2人を目で追った。すると同じ顔でも眉の角度と明るい髪色でより柔和に見える翠と目が合う。にこにこ呑気な笑顔を麗紋に向けながら、ひらひらと手を振ってきた。

「流石! れーちゃん、ナイスシュート!」

 対戦中だというのに普段通り人懐っこく陽気な翠に面食らってしまう。長い睫毛の向こうに透ける蕩けるような眼差しは、いつもとなんら変わらなく甘ったるく緩んでいる。我が従兄ながら、見慣れていても不意打ちでドキッとしてしまう程の顔の良さだ。

「碧のこと出し抜くなんて大したもんだね」

 大好きな従兄の掛け値のない褒め言葉に、そっけない態度を取ってはいても、麗紋の身体は正直で、誉め言葉に耳先が真っ赤に染まってしまう。それを見逃さず翠はますます眩しいものでも見るような表情で目尻を下げた。

「格好よかったぞ」
「まあね」

 勿論憧れの従兄に褒められたら麗紋とて悪い気はしない。手を所在なさげにブラつかせ、うきうきと心が舞い踊りかけるが、女生徒から上がった黄色い声援が耳に突き刺さり我に返る。そしていかんいかんともちもちの頬っぺたを両手で張り付けて、気を引き締めなおす。

(翠兄! そんな顔したって絆されないぞ。今は敵同士なんだよ!)

 麗紋はわざと顔を顰めてからつんっとそっぽを向いた。

「あらら、れーちゃん。冷たい」
「そうやって兄貴面して余裕ぶってろ。絶対勝つ」

 そうもう一度翠に宣言してから、くりくりと大きな目を見開き頑張って大好きな従兄を睨みつけた。翠もそれに応じるように、乱れた髪をかきあげてから口の端を上げてにやりと笑う。

「いうねぇ。れーちゃん。俺たちだって、一年相手には負けらんないよ。真剣勝負したかったんでしょ?」

 麗紋は翠から視線を外さず、こっくりと力強く頷いた。

 皆にとってはこれはただの学校行事だ。年度最後の運動行事として生徒同士の交流が目的だから、ガチンコ勝負の体育祭と違ってゆるゆるの、メイク被り物コスプレあり、お祭り要素のバカ騒ぎだ。