「うんうん。幼稚園の時に俺らとしたでしょ?」
「あんなの数に入らないだろ」
「じゃあ、さっきのってことでいいけど、碧が先なのが癪だな……」
「わーわー! やめて恥ずかしいから」

 耳を押さえてまた布団に潜り込もうとした麗紋だが、それではまたさっきの二の舞だ。

「なんで急にこんなことになったんだよ」
「それは麗紋のせいだよ」
「俺の?」
「だって麗紋が俺たちと対等になりたいっていったからだよ? それって恋人ってことでだろ?」
「お前が俺たちと肩を並べられるようになりたいっていったから、俺はお前の保護者を降りることにした。それでもお前を護っていつまでも傍に置きたい。それは恋人になるということだ」

 強引な理論に麗紋は目を白黒させた。

「え! そうなの? 俺が二人の恋人? それが対等?」

 二人と並び立つ存在になりたいと思ったが、そっち方面とは露ほども考えていなかった。

「でも俺たち従兄弟同士だよ」
「従兄弟は結婚できるぞ」
(そうなのか? それでいいのか?)

 釈然としないが二人がそういうのだからそうなのかと思い始めてしまう。それほど二人は麗紋にとって大きな存在なのだ。そう思うとちょっとだけ口元が緩む。

「ねえ。このピアスってさ、そういう意味?」

 甘えたような意味深な言い方になってしまうのは、特別な二人の特別は自分なのだという優越感からかもしれない。

「そういう意味だ。俺たちが卒業した後、加賀谷みたいな悪い虫がつかないようにマーキング」
「……はあ。そんなことしなくたって俺、別にモテないし」
 大げさだなとため息をついたら二人が食い気味に言い返すように大きなため息を吐いた。
「「はあっ」」
「え、何そのため息」
「れーちゃんがそんな無防備だから困るんだよ。いいか、加賀谷はれーちゃんに惚れてるよ。だから絶対、れーちゃんからひっつきにいかないで。今日シュート決めた後、れーちゃんが抱き着いた時のにやついた顔ったらなかったよね。れーちゃんもれーちゃんだよ。俺には冷たくしたくせに」

(なにこれ、翠兄、やきもち妬いてるみたいだな)

 そんな風に感情をぶつけてこられたのは初めてだったのでどぎまぎしてしまう。でもいつもどこかちょっとだけ自分より先を行く翠が甘えてくれているようで、麗紋は心がほわっと暖かくなった。

「だって、だってさ。対決中に相手チームの人とゴールして抱きついたらおかしいだろ?」

 ゴールの言葉で思い出すものがあったのか、今度は碧が目尻を指で押えてため息をついた。

「お前がシュート決めるたびに、腹チラ狙っていて写真撮ってる輩もいるぞ。我慢がならん。ユニフォームはパンツにインをしておけイン。気になって試合に集中出来ん」 
「碧兄もそんなこと言うとは思わなかった」

 そう揶揄うと、いつも完全無欠でおちつきはらった碧がやや照れたような表情を見せた。