太腿をたどるちりちりとした口づけの痛み。このままいくと碧が麗紋の大切な場所まで辿り着いてしまう。恥ずかしさと胸の動悸の激しさに追い詰められて掴み上げられた強い四本の腕から、麗紋はどうにか逃げ出そうと身悶える。

「碧にぃ、だめ、ああっ!」
「こーら。れーちゃん。こっちに集中して。俺だってお前を気持ちよくしてあげてるんだからね?」

 上げかけた悲鳴ごと寝転がったままで顔の位置を上手く麗紋に合わせてきた翠に唇を吸われる。
 振り向かされる体勢で受け入れた口付けは先ほどのふんわり甘いそれとはまるで違う。
 柔らかく熱い舌が苦しくてぽうっとひらいた麗紋の歯列をなぞり、縮こまる麗紋の舌を探し出して絡めちゅっと吸う。

「んあっ、んっ」

 ぴちゅ、ちゅっとわざと水音をたてながら麗紋の耳を塞ぐのは、麗紋の弱点を知り尽くしているからだ。
(音が……っ。えっちぃよお。翠兄、なんか手慣れてる。彼女いなかったはずなのに)
 いつでも三人同じことを考えて、同じように成長したと思っていたのに、胸の奥がじりっとし何となく面白くない気持ちになった。
 翠の手練に翻弄されて、こんなところが感じとは思わなかった口内を長い舌で蹂躙され、心地よく頭がぼうっと蕩けていく感覚に麗紋の身体から徐々に力が抜けていく。

「はあはあはあ」

 翠の執拗な口付けから逃れ、麗紋は全力疾走をした後のように息を吐き続ける。碧ががばっと起き上がり、その勢いで被っていた掛け布団が捲れ、ひんやりと冷たい空気が麗紋を包んだ。

「おにい、こわいっ」

 初めての快感に翻弄され蕩けきった顔で目線をあげたら、厚みのある唇の端を野性味あふれる表情で拭った碧と目が合う。興奮に目元を染める碧は凄艶な男の色気を湛えて、じっと麗紋を見つめて離さない。立膝をした黒のスウェットに目をやれば、彼の大きな欲望がはちきれそうになっていることに目を止め麗紋は驚いて開いた唇を震わせた。
(碧兄のこんな顔は見たことがない)
 いつでも三人の長兄らしく麗紋を励まし諭してきた碧が別人のように見えた。

「ううっ……、ひう」

 恥ずかしさ、戸惑い、恐ろしさ、心地よさ、色んな感情が渦巻いて、余りのことに頭がまるで追いつかず、ついには涙がぶわっと両目から零れて目尻を伝う。
 麗紋が本格的に泣き出したのを見て、二人は千切れかけた理性をぎりぎり繋ぎ止めた。

「ごめん、ごめんね。れーちゃんがあまりに可愛い顔して「大好き」なんていうからさ。なんか長年の想いが募って溢れて零れて止まらなくなって、がっついちゃって、ごめん」

 翠がよっこらしょとぐったりした麗紋ごと起き上がり、肩を震わせ片手で顔を覆いながら泣く麗紋を慰めるように頭の天辺にちゅっちゅっとキスの雨を降らせてくれる。

「麗紋、泣くほど嫌だったか? すまない」

 碧が絞りだした声から滲む後悔の色は憐憫を誘うが、麗紋は急にこんな仕打ちをしてきた二人に、いきなりなんなんだと恨みがましい気持ちになった。泣いている間に自分を相変わらず抱き締めている翠の硬いものが尻に当たっていることにも気がついて、居心地が悪すぎてもぞもぞと腰を動かした。

「み、翠兄、当たってる、ううっ」
「ごめん。麗紋があんまり色っぽいから充てられちゃって。でも青木先生の顔を思い出して収めるからまってて。碧もだぞ」
「ああ」
「う、うう。ふっ、ふふ、ははは」

 こんな状態でバスケ部顧問の名前を持ち出してくるものだから、麗紋は眉を下げて涙声のまま声を上げて笑ってしまった。

「青木先生、ほんと、とばっちり。ふふふっ」
 翠の腕の拘束が止んだので麗紋はまだ力の抜けたままの身体で這うようにして隣りの布団に移動して、少しだけ二人と距離を取った。

「これって、まさかと思うけど、俺が勝負に負けたからやらされたこと?」
「「ちがう!」」
「よかった。それ聞いて安心した。ピアス開けたのにファーストキス奪われて、あんな恥ずかしい事されて、わりに合わないって思ったよ」

 さり気なさを装って掛け布団を引き寄せてぎりぎり裸の下半身を隠した。

「麗紋、お前のファーストキスはさっきのじゃないぞ」