他人の目がないところで真っすぐに言われたら、思春期の麗紋とて素直にならざるを得ないだろう。色素の薄い睫毛をぱちくりさせてから、ビー玉みたいにまん丸で澄んだ瞳をとろりと潤ませる。

(兄ちゃんたち、俺と勝負をして喧嘩したわけじゃないけど罰ゲームみたいな感じになったから、仲直りしたかったのかな?)

 ならば自分も気持ちを素直に伝えようと麗紋はへにゃっと顔を花のつぼみのように綻ばせた。

「俺も大好きだよ。翠兄のこと。今日のシュート恰好良かった」
「れーちゃん」

 翠が感極まった顔つきで麗紋の顔を引き寄せる前に、鈍感無防備少年はすぐさま、くいっと碧の方に向き直る。そして愛情を一身に受けて育った子らしい、見るものを魅了する柔らかな笑顔を見せた。

「碧兄のことも大好き。いつもいいアドバイスをくれてありがとう」
「ああ。俺もお前のことが大好きだ。麗紋」
「あらためていうと、なんか照れるなあ」

 そんな風に思って自由な方の手を頭の後ろにやって無意識に自分の癖っ毛を撫ぜようと小首をかしげる。そんな麗紋の後頭部を、先に碧の大きな手ががしっと掴む。

「誰より愛してる、麗紋」

 気がついたら精悍な表情を浮かべたまま碧の顔がぐぐっと近づいてきて、麗紋の唇にふにゃっと柔らかなものが当たる感触があった。

「っ!!!」
「碧!」

 目を白黒させて硬直した麗紋を尻目に、翠は色めき立つ。握りしめたままの麗紋の手を引き、ウェストにも腕を回して自分の腕の中に囲い込んだ。そのまま麗紋の顎に手をやり、めいいっぱい自分の側に向かせる。

「れーちゃん、消毒しなきゃね」 

 よりしっとりと柔らかく感じる翠の唇がちゅっと音を立ててすぐに離れていった。

「へっ、あ?」

 この間、一分にも満たなかったのではなかろうか。人間は驚き過ぎると間抜けな声が出るものだ。流石の反射神経をみせる二人の猛攻に麗紋はされるがままに唇を奪われてしまった。

「ああああああああ!」

 たっぷりと黙ったのち、麗紋は親がいたら駆けつけてきそうなほどの叫び声をあげた。思わず足の下に引いていた掛け布団を掴むと、ひっ被って顔を隠してしまった。もちろん後ろにいた翠ごと。

(なになになに? 何がどうしてこうなった?)

 学校内で人気を二分する兄貴分たちから次々に唇を奪われてしまったという事実に、心臓は飛び出そうになり、頭がまるで追い付いていかない。

(好きってなになに? そういう意味? キスされたってことは、えええ!)

 うんうん唸りながら真っ赤になった顔を隠していたのに、抱きかかえられたまま急にぽてっと背中から寝転がられた。

「あーもう。そんなに俺とだけ二人っきりになりたかったの? 大胆だなあ、れーちゃんは」

 逃げようにも腹の前に回された腕の力が強くて逃げられない。そのまま前をはだけ気味だったもふもふパジャマの隙間から、翠の不埒な手が滑りこんできた。

「はー。れーちゃん肌スベスベ。ちっちゃい頃と変わらないね」