約束のクリスマスのイブイブ。
日曜日だし、クリスマスが近いこともあって、街中は少し賑わっていた。
「私が一番のりかぁ…。」
おでかけ。それも琢磨さんと涼くんと。どちらもジャンルが違えど、かっこいい二人だ。流石に何もしない訳にもいかず、それなりにおしゃれにしてきた。近くのガラス張りのお店の前で、全身を確認する。少しだけ巻いた髪。いつもよりしっかりめのメイク。…一応、スカート、ロングだけど。
「変ではない…はず?」
くるりとまわってみる。普段、仕事終わりでボロボロの姿を見せているので、今更着飾るのもなぁと思ったけど。二人の隣を歩くなら、綺麗にするべきだろう。すこし前髪が気になる。手鏡を出して前髪を直していたら、声をかけられた。
「おら、あんたのキャラメルプリンが来たぞ。」
涼くんだ。
「ねぇ、それ、海外の恋人みたいな言い回しだからやめてよ。」
この前のキャラメルプリン発言が、気に入ったのか、逆に気に入らなかったのか。あれ以来、涼くんは、たまに自分でキャラメルプリンを名乗ってくる。
「どうも、君のココアだよ。」
琢磨さんが手を振った。涼くんは、琢磨さんと途中で合流してここに来たようだ。
「あ、琢磨さんも。のらないでくださいよ。」
なぜか琢磨さんも自認ココアとして名乗ってくる。
「今日なんか、可愛くしてるね。」
琢磨さんが、私を見て褒めてくれた。さらりとこういうことを言う人だなぁ。
「あはは…。たまには…ね!」
照れてしまって言葉が出ない。涼くんも私をじっと見ている。
「涼?愛さんが可愛くて止まっちゃってるの?」
「っ、琢磨さん!」
琢磨さんが、涼くんをからかうように言った。
「や…可愛いのは可愛いけど、手ぇ赤い。寒いんじゃないの?」
少し心配そうに、涼くんが私の手を指差した。
「あ〜、今日もうちょっと暖かいと思ってたんだよね。」
えへへ、と笑いながら、手を擦る。マフラーはしてるけど、手袋をしてこなかったから、指先が冷たかった。
「はい。」
「え?」
涼くんが、自分の手袋を外して渡してくる。
「いやいや!これは涼くんがしてなよ!」
「いいから。可愛くしてるから、あんまこんな手袋似合わないけど、寒いよりマシだろ?」
半ば、無理やり渡される。黒くて分厚めの男の子っぽい手袋だ。返そうとする私を無視するように、涼くんが、目的のお店に向かって歩き出す。それを私と琢磨さんで追いかけた。
「涼くんが寒くなったら返すからね?言ってね?」
「はいはい。」
涼くんが面倒くさそうに返事をした。手袋をありがたく借りるとする。
「え?あれ?」
「どうしたの?」
不思議そうな私を琢磨さんが覗き込む。私は琢磨さんに手袋をした手を見せた。手袋が大きくて、ぐにゃりと指先部分が折れる。
「ぶかぶか…おっきい…。」
琢磨さんはそれを見て、あきれた顔をした。
「あのね、愛さん。涼だって男なんだから。たとえ身長が低いクソガキに見えても、しっかりと男だよ。」
「誰が身長の低いクソガキだよ。一応まだ伸びてんだよ。」
涼くんがこちらを見ずに反論した。私は女にしては少し大きめの165センチ。それに対して涼くんは170センチあるかないか。細身に見える涼くんと私にそんなに差があると思ってなかった。なんとなく、年下だから小柄なものだと、見積もってしまっていた。ぶかぶかの手袋は、先ほどまで涼くんがつけてたから、すでに温かい。その温度が、涼くんを近くに感じさせて、少し恥ずかしくなった。
「クッキーの型って結構ありますね…。」
それぞれで型を手に取る。星型、トナカイ、靴下…。
「これ、ジンジャーブレッドマンだ〜。」
「なんそれ?」
私の言葉に、首を傾げる涼くん。
「ほら、人型の…。」
「あ〜。あれね。いいね、それ。買っちゃおう。」
琢磨さんがポイポイとカゴに型を入れる。お菓子作り用品の爆買いだ。
「結構買ってるね…。」
「琢磨、凝り性だから。」
琢磨さんがレジに向かうのを見ながら、私がこっそり声をかけると、涼くんが、近くに置いてあったオーナメントを手に取りながら言った。
「…さて!次はお皿もちょっと見たいな!」
「まじか…。」
ホクホクとうれしそうな顔で、袋を持っている琢磨さん。涼くんはうんざりした顔をしている。琢磨さん、涼くんの手にはいくつものショッピングバッグ。すでに五つは雑貨屋や、製菓店をまわっている。
「オレ、はめられた…?」
涼くんが小さくつぶやく。
「やっぱ、もう少し持つ?私、小さい袋ひとつだし。」
「いや、いいって。」
涼くんの荷物を持とうとしたら、避けられた。琢磨さんが行きたいらしい雑貨屋が入っているショッピングモールに向かう。雑貨屋に着くと琢磨さんはうれしそうに店頭に飾られているクリスマスらしいお皿を見始めた。
「涼くん、私、ちょっとお手洗い行ってくるね。」
「ん。」
近くのトイレを指さすと、涼くんはこくりと頷いた。
トイレに行き、少しリップを塗り直して、髪を整える。パウダールームの隣には高校生か大学生くらいの女の子二人組がいた。可愛い。キラキラしたメイク。ふわふわとしてて可愛く編んである髪。その若さ可愛さにぽやんと少し見つめてしまった。トイレを出て、まだ店頭でお皿を見ている二人を見る。
「涼、どれがいいかな?」
「あんま重くねぇやつ。」
「それ、今から持たされるからだよね?普段、入り浸ってるんだから、僕の店にもうちょっと貢献してよ。」
涼くんと琢磨さんに近づく。二人はお皿に夢中なのか、まだ気づいていない。すると、トイレで会った女の子たちが、チラチラと琢磨さんと涼くんを見ていた。
「そこの男の人二人、かっこよくない?」
「分かる!あの金髪の人、むっちゃタイプ!」
「近くにいるの、彼女かな?」
「いや、あの人は、もう一人の人が彼氏じゃない?それに金髪の人より、ちょっと年上っぽいし、なんか雰囲気あわないし!」
その会話にドキッとする。そうだよね。二人、かっこいいよね。琢磨さんと恋人だと思われて照れる気持ちがあったけど、その後の涼くんとあわない、という言葉が私の胸にチクンと刺さった。別に分かってるよ、私の方が年上だし、くたびれOLだし。なんだか、もやもやして、すんっと鼻を啜った。地面を見ていると足音が近づいてくる。
「待たせちゃってごめん。戻ってきてたんだね。」
「愛さん、外にいた時、寒かったんじゃね?一旦、どっか店入る?」
「あ、僕、ここに入ってるカフェ、美味しいとこ知ってるよ。そこ行こうか。」
琢磨さんと涼くんが、私の顔を覗き込むようにして見た。
「え!大丈夫だよ?」
「鼻赤いし。なんか、ぼ〜っとしてたし。いいじゃん、買い物、あらかた終わったから休憩しようぜ。」
そう言って、涼くんが私の手を取った。指先を握ったせいで、手袋の先だけをふにゃりと掴む。
「うわ、ほんとに手袋ぶかぶかじゃん。…なんか、可愛いわ。」
涼くんがふいっと顔を逸らし、そのまま手袋の先だけを握って歩き出す。少し早足で歩く涼くんに、引っ張られるようにして歩く私。
「涼、顔赤いよ。」
長い足で涼くんに追いつき、並走する琢磨さんが涼くんの顔を見て、そう言った。
「琢磨、少しは空気読めよ。」
涼くんが怒ったように言う。私は後ろにいるから、涼くんの顔が見えない。ただ、チラリと見えた耳がほんのり赤くなっていたのだけは少し見えた。小さく鼓動が跳ねる。彼のまっすぐさに、私の目はじわりと体温をあげ、なぜか出てきた雫で少し世界が歪んだ。涼くんが前を歩いててよかった。たった一滴潤んだ雫を弾き飛ばすように、瞬きをする。そのときの私は自分に必死で、そんな私の様子を琢磨さんがじっと見ていたことに、気づいていなかった。
日曜日だし、クリスマスが近いこともあって、街中は少し賑わっていた。
「私が一番のりかぁ…。」
おでかけ。それも琢磨さんと涼くんと。どちらもジャンルが違えど、かっこいい二人だ。流石に何もしない訳にもいかず、それなりにおしゃれにしてきた。近くのガラス張りのお店の前で、全身を確認する。少しだけ巻いた髪。いつもよりしっかりめのメイク。…一応、スカート、ロングだけど。
「変ではない…はず?」
くるりとまわってみる。普段、仕事終わりでボロボロの姿を見せているので、今更着飾るのもなぁと思ったけど。二人の隣を歩くなら、綺麗にするべきだろう。すこし前髪が気になる。手鏡を出して前髪を直していたら、声をかけられた。
「おら、あんたのキャラメルプリンが来たぞ。」
涼くんだ。
「ねぇ、それ、海外の恋人みたいな言い回しだからやめてよ。」
この前のキャラメルプリン発言が、気に入ったのか、逆に気に入らなかったのか。あれ以来、涼くんは、たまに自分でキャラメルプリンを名乗ってくる。
「どうも、君のココアだよ。」
琢磨さんが手を振った。涼くんは、琢磨さんと途中で合流してここに来たようだ。
「あ、琢磨さんも。のらないでくださいよ。」
なぜか琢磨さんも自認ココアとして名乗ってくる。
「今日なんか、可愛くしてるね。」
琢磨さんが、私を見て褒めてくれた。さらりとこういうことを言う人だなぁ。
「あはは…。たまには…ね!」
照れてしまって言葉が出ない。涼くんも私をじっと見ている。
「涼?愛さんが可愛くて止まっちゃってるの?」
「っ、琢磨さん!」
琢磨さんが、涼くんをからかうように言った。
「や…可愛いのは可愛いけど、手ぇ赤い。寒いんじゃないの?」
少し心配そうに、涼くんが私の手を指差した。
「あ〜、今日もうちょっと暖かいと思ってたんだよね。」
えへへ、と笑いながら、手を擦る。マフラーはしてるけど、手袋をしてこなかったから、指先が冷たかった。
「はい。」
「え?」
涼くんが、自分の手袋を外して渡してくる。
「いやいや!これは涼くんがしてなよ!」
「いいから。可愛くしてるから、あんまこんな手袋似合わないけど、寒いよりマシだろ?」
半ば、無理やり渡される。黒くて分厚めの男の子っぽい手袋だ。返そうとする私を無視するように、涼くんが、目的のお店に向かって歩き出す。それを私と琢磨さんで追いかけた。
「涼くんが寒くなったら返すからね?言ってね?」
「はいはい。」
涼くんが面倒くさそうに返事をした。手袋をありがたく借りるとする。
「え?あれ?」
「どうしたの?」
不思議そうな私を琢磨さんが覗き込む。私は琢磨さんに手袋をした手を見せた。手袋が大きくて、ぐにゃりと指先部分が折れる。
「ぶかぶか…おっきい…。」
琢磨さんはそれを見て、あきれた顔をした。
「あのね、愛さん。涼だって男なんだから。たとえ身長が低いクソガキに見えても、しっかりと男だよ。」
「誰が身長の低いクソガキだよ。一応まだ伸びてんだよ。」
涼くんがこちらを見ずに反論した。私は女にしては少し大きめの165センチ。それに対して涼くんは170センチあるかないか。細身に見える涼くんと私にそんなに差があると思ってなかった。なんとなく、年下だから小柄なものだと、見積もってしまっていた。ぶかぶかの手袋は、先ほどまで涼くんがつけてたから、すでに温かい。その温度が、涼くんを近くに感じさせて、少し恥ずかしくなった。
「クッキーの型って結構ありますね…。」
それぞれで型を手に取る。星型、トナカイ、靴下…。
「これ、ジンジャーブレッドマンだ〜。」
「なんそれ?」
私の言葉に、首を傾げる涼くん。
「ほら、人型の…。」
「あ〜。あれね。いいね、それ。買っちゃおう。」
琢磨さんがポイポイとカゴに型を入れる。お菓子作り用品の爆買いだ。
「結構買ってるね…。」
「琢磨、凝り性だから。」
琢磨さんがレジに向かうのを見ながら、私がこっそり声をかけると、涼くんが、近くに置いてあったオーナメントを手に取りながら言った。
「…さて!次はお皿もちょっと見たいな!」
「まじか…。」
ホクホクとうれしそうな顔で、袋を持っている琢磨さん。涼くんはうんざりした顔をしている。琢磨さん、涼くんの手にはいくつものショッピングバッグ。すでに五つは雑貨屋や、製菓店をまわっている。
「オレ、はめられた…?」
涼くんが小さくつぶやく。
「やっぱ、もう少し持つ?私、小さい袋ひとつだし。」
「いや、いいって。」
涼くんの荷物を持とうとしたら、避けられた。琢磨さんが行きたいらしい雑貨屋が入っているショッピングモールに向かう。雑貨屋に着くと琢磨さんはうれしそうに店頭に飾られているクリスマスらしいお皿を見始めた。
「涼くん、私、ちょっとお手洗い行ってくるね。」
「ん。」
近くのトイレを指さすと、涼くんはこくりと頷いた。
トイレに行き、少しリップを塗り直して、髪を整える。パウダールームの隣には高校生か大学生くらいの女の子二人組がいた。可愛い。キラキラしたメイク。ふわふわとしてて可愛く編んである髪。その若さ可愛さにぽやんと少し見つめてしまった。トイレを出て、まだ店頭でお皿を見ている二人を見る。
「涼、どれがいいかな?」
「あんま重くねぇやつ。」
「それ、今から持たされるからだよね?普段、入り浸ってるんだから、僕の店にもうちょっと貢献してよ。」
涼くんと琢磨さんに近づく。二人はお皿に夢中なのか、まだ気づいていない。すると、トイレで会った女の子たちが、チラチラと琢磨さんと涼くんを見ていた。
「そこの男の人二人、かっこよくない?」
「分かる!あの金髪の人、むっちゃタイプ!」
「近くにいるの、彼女かな?」
「いや、あの人は、もう一人の人が彼氏じゃない?それに金髪の人より、ちょっと年上っぽいし、なんか雰囲気あわないし!」
その会話にドキッとする。そうだよね。二人、かっこいいよね。琢磨さんと恋人だと思われて照れる気持ちがあったけど、その後の涼くんとあわない、という言葉が私の胸にチクンと刺さった。別に分かってるよ、私の方が年上だし、くたびれOLだし。なんだか、もやもやして、すんっと鼻を啜った。地面を見ていると足音が近づいてくる。
「待たせちゃってごめん。戻ってきてたんだね。」
「愛さん、外にいた時、寒かったんじゃね?一旦、どっか店入る?」
「あ、僕、ここに入ってるカフェ、美味しいとこ知ってるよ。そこ行こうか。」
琢磨さんと涼くんが、私の顔を覗き込むようにして見た。
「え!大丈夫だよ?」
「鼻赤いし。なんか、ぼ〜っとしてたし。いいじゃん、買い物、あらかた終わったから休憩しようぜ。」
そう言って、涼くんが私の手を取った。指先を握ったせいで、手袋の先だけをふにゃりと掴む。
「うわ、ほんとに手袋ぶかぶかじゃん。…なんか、可愛いわ。」
涼くんがふいっと顔を逸らし、そのまま手袋の先だけを握って歩き出す。少し早足で歩く涼くんに、引っ張られるようにして歩く私。
「涼、顔赤いよ。」
長い足で涼くんに追いつき、並走する琢磨さんが涼くんの顔を見て、そう言った。
「琢磨、少しは空気読めよ。」
涼くんが怒ったように言う。私は後ろにいるから、涼くんの顔が見えない。ただ、チラリと見えた耳がほんのり赤くなっていたのだけは少し見えた。小さく鼓動が跳ねる。彼のまっすぐさに、私の目はじわりと体温をあげ、なぜか出てきた雫で少し世界が歪んだ。涼くんが前を歩いててよかった。たった一滴潤んだ雫を弾き飛ばすように、瞬きをする。そのときの私は自分に必死で、そんな私の様子を琢磨さんがじっと見ていたことに、気づいていなかった。



