涼くんの誕生日、2週間前。年度末の仕事の忙しさに潰されかけながら、私はやっとお昼にありつけた。休憩用のテーブルに座り、スマホを開いて、トトトと指で画面をたたく。
『年下の男の子 デート』
検索するとズラリと並ぶ服装や、デートプラン。
「うぅぅん……」
スクロールしながらうめく。スマホを片手にサンドイッチを頬張った。
「……ほぉ〜ん。クリスマスに焦って帰ったのはそういうことですかぁ〜。」
「んぐっ⁉︎」
突然、後ろから声をかけられてサンドイッチが喉に詰まる。紙パックの野菜ジュースを一気に飲んでから、後ろを振り返った。ニヤリと後輩が笑っている。
「人のスマホを後ろから覗くのはマナー違反!」
拳を作って頭をこづいた。私は私で物理的なパワハラだ。
「いっだ⁉︎あ〜ん、ごめんなさい!仕事で聞きたいことあって……先輩がスマホに釘付けだから、つい!」
ふん!と机に向き直った私の後ろをチョロチョロと後輩がうろつく。
「あ、そうだ!お詫びに、ほら、これ!あげちゃいます!」
後輩が机をあさって、ある物をずいっと差し出した。
「デートにはぴったりかと!」
そう言って、後輩は、ニカっと笑った。
仕事終わり、『charmée』に行く。そこには涼くんもいた。私は涼くんの目の前の席に座る。琢磨さんが水を持ってきてくれた。
「愛さん、仕事お疲れ様。忙しい?」
「まぁ……。」
琢磨さんの質問に答えようとして、涼くんがソワっとしたのを感じた。多分、誕生日デートの日まで忙しかったらどうしようって思ってるのかな。クリスマスのライブの時のこともあって、楽しみにしてるけど、私のことを心配してくれている…気がする。そんないじらしさを感じて、胸がきゅっとした。
「大丈夫、かな?年度末が忙しいのは、毎年のことだからある程度対策してるんで!」
涼くんにも聞こえるように、琢磨さんに返す。すると、涼くんが安心したように吐息を漏らすのが聞こえた。
「……で、さ。涼くん。」
「ん?なに?」
涼くんに声をかける。鞄の中から、取り出した物を見せた。
「誕生日、これとか……どうかな?」
「えっ!いいの⁉︎」
涼くんが目を輝かせる。後輩に譲ってもらった物。それはスケートのチケットだった。最近、近くにスケートリンクが出来たらしい。
「後輩からもらったんだけど……その、デートにぴったりだからって。」
「うれしい!オレ、スケート好き!」
「よかった。」
「愛さんはスケート得意?」
「う、それが、私、あんまりしたことなくて……。」
そう言うと、涼くんは、ニッと口角を上げた。
「じゃあ、オレのかっこいいとこ見せられるね!」
そうやってうれしそうに言う涼くんが、可愛くって、私の方がデートを楽しみにしてるんじゃないかと思った。そこから2週間。後輩が言うには、私は鬼気迫る勢いで仕事を終わらせていたらしい。これは年上である私の意地だった。
デート当日。待ち合わせ場所に行く。涼くんはすでに着いていた。
「愛さん、おはよ。」
「おはよう。待ち合わせの時間より早いよ?」
「だって愛さんなら早く来るかなって。」
涼くんの予想通り、私は15分前に待ち合わせ場所に来た。
「愛さんといれる時間、ちょっと長くなってラッキー。なんて。……あ、今日はデートだから。手、繋いでいいよね?」
涼くんの大きな手が私の手を包む。
「やっぱり、手ぇちっちぇ〜。」
「普通だよ!あ、お誕生日おめでとう!」
「あは、ありがとう!」
そう言って、涼くんは楽しそうに笑った。
数十分後、私は足を震わせていた。
「あ、あわわ……。」
スケートリンクにて、私は手すりから手を離せずにいた。立つのもギリギリで震える足。スケートあんまりしたことないけど、なんか私って……。
「愛さん、スケート……苦手?」
「だよね?」
涼くんが私の様子を見ながら、近くをうろうろ滑る。
「やっぱり、手、持つ?」
涼くんが手を差し出してくる。私は首を振った。
「手出し無用……。」
「侍?」
涼くんのツッコミに反応もできないくらい集中する私。どうしよう、足がプルプルする。間違いなく明日は筋肉痛だ。知らない筋肉が悲鳴をあげている。そう考えながらも私は、なんとか手すりから手を離した。
「お、手を離した。」
涼くんが拍手する。「かっこいいところを見せられる」と言ってただけあって、涼くんは得意なのか、スイスイと私の前に滑ってきた。
「はい!両手こっちね〜。引っ張ってあげるよ。」
「待って待って待って⁉︎」
「大丈夫、オレ、フォロー出来るって。」
涼くんが私の手をとって後ろ向きに滑る。引っ張られて悲鳴を上げる私。自分の意思なく動いてて、怖い!涼くんに引っ張られ、スケートリンクをぐるぐると回る。
「ほら、大丈夫でしょ?」
「私、結構ギリギリだから……!」
余裕の涼くんと必死な私。少し風が気持ちいい気もするけど、転けないか不安だ。
「はーい。一旦止まろっか。」
「待って、こんなの止まれない!」
「大丈夫だって。スピードゆっくりにしてくから。」
そう言い、緩やかにスピードを落としていく涼くん。私の意思とは関係なく私の滑るスピードも緩やかになる。もうこの足は私のものではない……。
「そろそろ止まれるかな?」
「えっ⁉︎待って⁉︎」
「はーい、ストップ。」
止まる涼くん。
「んむっ⁉︎」
涼くんに思いっきり突っ込む私。そんな私を涼くんは抱き止めてくれた。
「ほら、止まれた。」
「び、びびった……。」
そのまま必死に涼くんを掴む私。
「ぜ、絶対離さないでよ⁉︎今、離されたら転けちゃう……!」
ぎゅうぎゅうと涼くんにしがみついていたら、涼くんが顔を赤くした。
「こ、これが、役得……?」
「ふざけてないで、出口まで連れて行って‼︎」
「はーい。」
私が怒ると涼くんは、ヘラヘラしたまま出口まで連れて行ってくれた。
「つ、疲れた……。もうスケートはしない……。」
あんなに自分が運動音痴だなんて知らなかった。スケート、怖い。
「オレはまた愛さんとスケート来たいな〜。」
ルンルンとご機嫌な涼くん。私は両手で思い切りバツを作った。
「……でも本当に誕生日プレゼント、買いに行かなくていいの?ちょっと高いものとかでもいいんだよ?」
私が聞く。本当は、スケートの後は、涼くんの誕生日プレゼントを買いに行くつもりだったけど、断られたのだ。これでも社会人。少し高いものでも買えるのに。
「いいの。オレ、今欲しいもの思いつかないくらい幸せだし。あ、でも、買えないけど欲しいものならあるんだけどな〜。」
そういって、私の手をぎゅっと握る涼くん。何を言うつもりか分からないけど、その先を聞くのが恥ずかしいような怖いような、むず痒さが私をなぞった。
「か、買えるものでお願いします。」
「何欲しいか聞かないの?残念。」
涼くんが、からかうように言った。その後は、軽くお昼を食べて、ショッピングデートをした。
「そろそろ、琢磨んとこ行く?」
「そうだね。」
夕方、『charmée』でディナーと決めていたので、お店に向かった。琢磨さんが今日は『charmée』を貸切にしてくれているらしい。
「いらっしゃい。涼、誕生日おめでとう!」
「ありがとう!」
琢磨さんは店内をバースデー仕様に飾り付けてくれていた。
「どうだった?デート。」
「愛さんがオレに抱きついてきた!」
「ちょっと⁉︎」
琢磨さんにうれしそうに報告する涼くん。説明が足りないよね⁉︎
「え!大サービスだね、愛さん。」
あらら、と私を見る琢磨さん。
「違わないけど、違う!スケートで!転けそうになったから!」
「なぁんだ。はいはい。ほら、ディナーの準備できてるから座って座って。」
必死に訂正する私を適当に流す琢磨さん。ちゃ、ちゃんとして聞いて⁉︎私と涼くんは、いつもの席に案内された。
「はい、ステーキ。……で、ジャーン‼︎」
琢磨さんが料理を机に並べてから、うれしそうにグラスを並べた。
「涼も20歳だからね!カクテル用意した!」
「まじ⁉︎初のお酒なんだけど!」
涼くんがうれしそうに目を輝かせた。
「このカクテル、綺麗…。」
「スコーピオンだよ。僕が飲んでたの見て、飲んでみたいって涼、言ってたから。」
私のつぶやきに琢磨さんが返した。爽やかなオレンジ色にさくらんぼなどのフルーツが乗っていて、ジュースのようだ。
「琢磨も飲む?というか、一緒に食べようよ!」
「実はこっそり準備してた。」
「やった!」
琢磨さんがいそいそと自分のグラスも出してくる。
「……じゃあ、乾杯!」
「乾杯、20歳の誕生日おめでとう。」
「乾杯!涼くん、お誕生日おめでとう!」
3人でグラスを傾ける。
「意外とジュースっぽいかも?」
「初めてだし、あんま、調子乗って飲まないようにね。」
「美味しい……!」
涼くんは、ペロリと舌を出して味の感想を言った。琢磨さんはいくつかカクテルを準備しているみたいで、次のグラスを手に取りながら、涼くんに注意している。私はカクテルの美味しさに感動していた。普段、『charmée』のアルコールメニューは頼まないけど、これはアリだな…。食事とお酒を楽しみながら、話していると、涼くんが思い出したかのように席を立った。
「ね、ちょっとギター弾いていい?」
「え、あるの?」
「琢磨、前のやつ、まだここに置いてるよね?」
涼くんが琢磨さんに聞いた。
「あるよ。飾ってる。」
「っしゃ!」
店内に飾っていたギターを手に取る涼くん。
「オレ、今日、したいことあったんだ!」
「え?」
「愛さんに特別ライブ!」
ニッと笑って、涼くんがギターを弾く。クリスマスのときとは違う優しげなメロディー。歌詞はまだないのか、涼くんが伏目がちのまま、鼻歌を歌う。その歌声が、なんだか甘くって。きゅうっと胸が締め付けられた。なぜか歌詞もないのに、恋愛ソングなんじゃないかと思ってしまう。私は、心地よくって、ゆらゆらと揺れた。ふと、優しく笑う琢磨さんが目に入る。涼くんを見る、優しい目。
「琢磨さん。」
「なぁに?」
「ありがとうございます。」
「え?」
「いつも私たちを見守ってくれて。」
よく分からないけど、正解じゃないかもしれないけど。伝えたかった。琢磨さんには、琢磨さんの気持ちがあって。それを私が知ることはなくても、私たちにとって、琢磨さんは見守っていてくれた存在で。そんな琢磨さんにも、琢磨さんの幸せがありますように、そう思ったのだ。
「……あのね、振った男にそんな風に笑っちゃだめだよ。」
琢磨さんは、優しく目を細めて、困ったように笑った。
「さて、とっておきのケーキでもだそうかな。特別なチョコケーキにしたんだ。愛さんは涼の特別ライブ、楽しんで。」
そう言って、琢磨さんはキッチンに行った。涼くんの歌は『charmée』に優しく響いている。私が涼くんを見つめると、涼くんがゆっくりとこっちを見た。視線が交わった瞬間、どうしようもないほどの好きが、目で伝わってしまった気がした。
『年下の男の子 デート』
検索するとズラリと並ぶ服装や、デートプラン。
「うぅぅん……」
スクロールしながらうめく。スマホを片手にサンドイッチを頬張った。
「……ほぉ〜ん。クリスマスに焦って帰ったのはそういうことですかぁ〜。」
「んぐっ⁉︎」
突然、後ろから声をかけられてサンドイッチが喉に詰まる。紙パックの野菜ジュースを一気に飲んでから、後ろを振り返った。ニヤリと後輩が笑っている。
「人のスマホを後ろから覗くのはマナー違反!」
拳を作って頭をこづいた。私は私で物理的なパワハラだ。
「いっだ⁉︎あ〜ん、ごめんなさい!仕事で聞きたいことあって……先輩がスマホに釘付けだから、つい!」
ふん!と机に向き直った私の後ろをチョロチョロと後輩がうろつく。
「あ、そうだ!お詫びに、ほら、これ!あげちゃいます!」
後輩が机をあさって、ある物をずいっと差し出した。
「デートにはぴったりかと!」
そう言って、後輩は、ニカっと笑った。
仕事終わり、『charmée』に行く。そこには涼くんもいた。私は涼くんの目の前の席に座る。琢磨さんが水を持ってきてくれた。
「愛さん、仕事お疲れ様。忙しい?」
「まぁ……。」
琢磨さんの質問に答えようとして、涼くんがソワっとしたのを感じた。多分、誕生日デートの日まで忙しかったらどうしようって思ってるのかな。クリスマスのライブの時のこともあって、楽しみにしてるけど、私のことを心配してくれている…気がする。そんないじらしさを感じて、胸がきゅっとした。
「大丈夫、かな?年度末が忙しいのは、毎年のことだからある程度対策してるんで!」
涼くんにも聞こえるように、琢磨さんに返す。すると、涼くんが安心したように吐息を漏らすのが聞こえた。
「……で、さ。涼くん。」
「ん?なに?」
涼くんに声をかける。鞄の中から、取り出した物を見せた。
「誕生日、これとか……どうかな?」
「えっ!いいの⁉︎」
涼くんが目を輝かせる。後輩に譲ってもらった物。それはスケートのチケットだった。最近、近くにスケートリンクが出来たらしい。
「後輩からもらったんだけど……その、デートにぴったりだからって。」
「うれしい!オレ、スケート好き!」
「よかった。」
「愛さんはスケート得意?」
「う、それが、私、あんまりしたことなくて……。」
そう言うと、涼くんは、ニッと口角を上げた。
「じゃあ、オレのかっこいいとこ見せられるね!」
そうやってうれしそうに言う涼くんが、可愛くって、私の方がデートを楽しみにしてるんじゃないかと思った。そこから2週間。後輩が言うには、私は鬼気迫る勢いで仕事を終わらせていたらしい。これは年上である私の意地だった。
デート当日。待ち合わせ場所に行く。涼くんはすでに着いていた。
「愛さん、おはよ。」
「おはよう。待ち合わせの時間より早いよ?」
「だって愛さんなら早く来るかなって。」
涼くんの予想通り、私は15分前に待ち合わせ場所に来た。
「愛さんといれる時間、ちょっと長くなってラッキー。なんて。……あ、今日はデートだから。手、繋いでいいよね?」
涼くんの大きな手が私の手を包む。
「やっぱり、手ぇちっちぇ〜。」
「普通だよ!あ、お誕生日おめでとう!」
「あは、ありがとう!」
そう言って、涼くんは楽しそうに笑った。
数十分後、私は足を震わせていた。
「あ、あわわ……。」
スケートリンクにて、私は手すりから手を離せずにいた。立つのもギリギリで震える足。スケートあんまりしたことないけど、なんか私って……。
「愛さん、スケート……苦手?」
「だよね?」
涼くんが私の様子を見ながら、近くをうろうろ滑る。
「やっぱり、手、持つ?」
涼くんが手を差し出してくる。私は首を振った。
「手出し無用……。」
「侍?」
涼くんのツッコミに反応もできないくらい集中する私。どうしよう、足がプルプルする。間違いなく明日は筋肉痛だ。知らない筋肉が悲鳴をあげている。そう考えながらも私は、なんとか手すりから手を離した。
「お、手を離した。」
涼くんが拍手する。「かっこいいところを見せられる」と言ってただけあって、涼くんは得意なのか、スイスイと私の前に滑ってきた。
「はい!両手こっちね〜。引っ張ってあげるよ。」
「待って待って待って⁉︎」
「大丈夫、オレ、フォロー出来るって。」
涼くんが私の手をとって後ろ向きに滑る。引っ張られて悲鳴を上げる私。自分の意思なく動いてて、怖い!涼くんに引っ張られ、スケートリンクをぐるぐると回る。
「ほら、大丈夫でしょ?」
「私、結構ギリギリだから……!」
余裕の涼くんと必死な私。少し風が気持ちいい気もするけど、転けないか不安だ。
「はーい。一旦止まろっか。」
「待って、こんなの止まれない!」
「大丈夫だって。スピードゆっくりにしてくから。」
そう言い、緩やかにスピードを落としていく涼くん。私の意思とは関係なく私の滑るスピードも緩やかになる。もうこの足は私のものではない……。
「そろそろ止まれるかな?」
「えっ⁉︎待って⁉︎」
「はーい、ストップ。」
止まる涼くん。
「んむっ⁉︎」
涼くんに思いっきり突っ込む私。そんな私を涼くんは抱き止めてくれた。
「ほら、止まれた。」
「び、びびった……。」
そのまま必死に涼くんを掴む私。
「ぜ、絶対離さないでよ⁉︎今、離されたら転けちゃう……!」
ぎゅうぎゅうと涼くんにしがみついていたら、涼くんが顔を赤くした。
「こ、これが、役得……?」
「ふざけてないで、出口まで連れて行って‼︎」
「はーい。」
私が怒ると涼くんは、ヘラヘラしたまま出口まで連れて行ってくれた。
「つ、疲れた……。もうスケートはしない……。」
あんなに自分が運動音痴だなんて知らなかった。スケート、怖い。
「オレはまた愛さんとスケート来たいな〜。」
ルンルンとご機嫌な涼くん。私は両手で思い切りバツを作った。
「……でも本当に誕生日プレゼント、買いに行かなくていいの?ちょっと高いものとかでもいいんだよ?」
私が聞く。本当は、スケートの後は、涼くんの誕生日プレゼントを買いに行くつもりだったけど、断られたのだ。これでも社会人。少し高いものでも買えるのに。
「いいの。オレ、今欲しいもの思いつかないくらい幸せだし。あ、でも、買えないけど欲しいものならあるんだけどな〜。」
そういって、私の手をぎゅっと握る涼くん。何を言うつもりか分からないけど、その先を聞くのが恥ずかしいような怖いような、むず痒さが私をなぞった。
「か、買えるものでお願いします。」
「何欲しいか聞かないの?残念。」
涼くんが、からかうように言った。その後は、軽くお昼を食べて、ショッピングデートをした。
「そろそろ、琢磨んとこ行く?」
「そうだね。」
夕方、『charmée』でディナーと決めていたので、お店に向かった。琢磨さんが今日は『charmée』を貸切にしてくれているらしい。
「いらっしゃい。涼、誕生日おめでとう!」
「ありがとう!」
琢磨さんは店内をバースデー仕様に飾り付けてくれていた。
「どうだった?デート。」
「愛さんがオレに抱きついてきた!」
「ちょっと⁉︎」
琢磨さんにうれしそうに報告する涼くん。説明が足りないよね⁉︎
「え!大サービスだね、愛さん。」
あらら、と私を見る琢磨さん。
「違わないけど、違う!スケートで!転けそうになったから!」
「なぁんだ。はいはい。ほら、ディナーの準備できてるから座って座って。」
必死に訂正する私を適当に流す琢磨さん。ちゃ、ちゃんとして聞いて⁉︎私と涼くんは、いつもの席に案内された。
「はい、ステーキ。……で、ジャーン‼︎」
琢磨さんが料理を机に並べてから、うれしそうにグラスを並べた。
「涼も20歳だからね!カクテル用意した!」
「まじ⁉︎初のお酒なんだけど!」
涼くんがうれしそうに目を輝かせた。
「このカクテル、綺麗…。」
「スコーピオンだよ。僕が飲んでたの見て、飲んでみたいって涼、言ってたから。」
私のつぶやきに琢磨さんが返した。爽やかなオレンジ色にさくらんぼなどのフルーツが乗っていて、ジュースのようだ。
「琢磨も飲む?というか、一緒に食べようよ!」
「実はこっそり準備してた。」
「やった!」
琢磨さんがいそいそと自分のグラスも出してくる。
「……じゃあ、乾杯!」
「乾杯、20歳の誕生日おめでとう。」
「乾杯!涼くん、お誕生日おめでとう!」
3人でグラスを傾ける。
「意外とジュースっぽいかも?」
「初めてだし、あんま、調子乗って飲まないようにね。」
「美味しい……!」
涼くんは、ペロリと舌を出して味の感想を言った。琢磨さんはいくつかカクテルを準備しているみたいで、次のグラスを手に取りながら、涼くんに注意している。私はカクテルの美味しさに感動していた。普段、『charmée』のアルコールメニューは頼まないけど、これはアリだな…。食事とお酒を楽しみながら、話していると、涼くんが思い出したかのように席を立った。
「ね、ちょっとギター弾いていい?」
「え、あるの?」
「琢磨、前のやつ、まだここに置いてるよね?」
涼くんが琢磨さんに聞いた。
「あるよ。飾ってる。」
「っしゃ!」
店内に飾っていたギターを手に取る涼くん。
「オレ、今日、したいことあったんだ!」
「え?」
「愛さんに特別ライブ!」
ニッと笑って、涼くんがギターを弾く。クリスマスのときとは違う優しげなメロディー。歌詞はまだないのか、涼くんが伏目がちのまま、鼻歌を歌う。その歌声が、なんだか甘くって。きゅうっと胸が締め付けられた。なぜか歌詞もないのに、恋愛ソングなんじゃないかと思ってしまう。私は、心地よくって、ゆらゆらと揺れた。ふと、優しく笑う琢磨さんが目に入る。涼くんを見る、優しい目。
「琢磨さん。」
「なぁに?」
「ありがとうございます。」
「え?」
「いつも私たちを見守ってくれて。」
よく分からないけど、正解じゃないかもしれないけど。伝えたかった。琢磨さんには、琢磨さんの気持ちがあって。それを私が知ることはなくても、私たちにとって、琢磨さんは見守っていてくれた存在で。そんな琢磨さんにも、琢磨さんの幸せがありますように、そう思ったのだ。
「……あのね、振った男にそんな風に笑っちゃだめだよ。」
琢磨さんは、優しく目を細めて、困ったように笑った。
「さて、とっておきのケーキでもだそうかな。特別なチョコケーキにしたんだ。愛さんは涼の特別ライブ、楽しんで。」
そう言って、琢磨さんはキッチンに行った。涼くんの歌は『charmée』に優しく響いている。私が涼くんを見つめると、涼くんがゆっくりとこっちを見た。視線が交わった瞬間、どうしようもないほどの好きが、目で伝わってしまった気がした。



