クリスマス。
夕方あたりで『charmée』は賑わって、夜になるにつれ、落ち着いていった。時刻は21時頃。
「ちょっと、買い足したいものがあるから出てくるね。看板はクローズにしておくから。片付け終わったら、帰っていいからね。」
他のスタッフに声をかけて、僕は店を出た。思いの外、クリスマスクッキーが好評だったので、同じ味で定番メニューにクッキーをいれようと材料を買う。帰り道、『charmée』のすぐ近くで、ひょこひょこと歩く人を見つけた。
「愛さん?」
「あ…琢磨さん。」
「どうしたの?」
「いや〜…。」
僕が声をかけると、愛さんが曖昧に笑う。
「足、痛いの?」
歩き方が変なので指摘すると、かかとを隠すように足の向きを変える愛さん。血が滲んでいたのが、チラリと見えた。かなり痛そうな靴擦れだ。
「はい。」
「え?」
愛さんの横に立って腕を差し出す。
「腕、持って。支えにしていいから。一旦、店寄ろう。絆創膏あるし、手当てするよ。あと、スリッパ貸すし。」
「いや、大丈夫ですよ!」
愛さんが、ぶんぶんと顔の前で手を振る。
「このまま、無理やりおんぶしてもいいんだけど。」
「…お願いします。」
流石におんぶは勘弁らしく、愛さんは大人しく僕の腕を持った。
『charmée』に戻ると、スタッフたちは片付けを終わらせて帰っていた。愛さんを、いつものソファーに座らせる。
「すぐに帰るので…。」
「気にしなくていいよ。僕、店長だし。ココア淹れるから飲んでいきなよ。好きなだけいて大丈夫。」
絆創膏を貼ってあげると、愛さんはしょんぼりとしていた。かかとの傷、少しくたびれた姿。
「散々なクリスマスだったみたいだね。」
そう言うと、返事に困ったように愛さんが下を向いた。
「涼となんかあった?」
「え…?」
愛さんが、顔を上げる。
「ライブ。行ったんじゃないの?」
「あ…」
「涼のライブ、楽しくなかった?」
「そんなことなくて!涼くん、すごくかっこよくて…!」
「じゃあ、なんで元気ないの?」
「……っ」
声を詰まらせる愛さん。なんとなく、彼女が考えていることが分かった。愛さんは、口をきゅっと結んでいて、目は潤んでいる。
「…かっこよくて、悩んで泣いちゃうくらい、あいつのこと、好き?」
僕の言葉に、ぷわりと愛さんの瞳の雫が膨らむ。
「あぁ、ちょっと。僕が泣かせたみたいじゃん。」
愛さんの顔を下から見る。指で、落ちかけた雫を掬った。
「何してんの?」
涼の冷えた声が、入り口から聞こえた。あとからベルの音が、カランカランと響く。
「涼くん…?」
涼は、愛さんの頬を指で拭う僕を見て、何かを察したかのように苦しそうに笑った。
「オレのライブ終わりが待てないくらい…琢磨に会いたかった?」
「ちがっ…!」
「違わねーじゃん。ここにいるってそういうことだろ?」
「涼くん!聞い、」
「聞かねえ。はぁ…ライブ来てくれて、すっげぇうれしくって、浮かれて…オレ、バカみてぇじゃん。」
グッと噛み締めるような表情で、薄く涙を浮かべた涼。自身の表情を誤魔化すためか、ぐしゃぐしゃと頭をかく。乱れた髪のまま、舌打ちをして、大きくため息をついた。すぐそばにいる愛さんが、ビクッと怯えたのが分かった。
「もういい。」
涼が、目を伏せた。そのまま、愛さんから顔を背ける。涼が、走って出て行った。バン‼︎とドアを閉める強い音で、固まっていた愛さんが、ハッとする。
「涼くん、絶対何か勘違いしてた…!誤解、解かないと…!」
勢いよく立とうとするから、引き留めた。
「もう夜遅いからやめときな。涼は大丈夫だろうけど、愛さんは女の人だから心配だよ。」
「でも…。」
「足怪我してるし、僕送ってくから。」
そう言うと、愛さんは力なくソファーに座り込む。その様子を見て、僕の中で少し仄暗い感情が滲んだ。
夕方あたりで『charmée』は賑わって、夜になるにつれ、落ち着いていった。時刻は21時頃。
「ちょっと、買い足したいものがあるから出てくるね。看板はクローズにしておくから。片付け終わったら、帰っていいからね。」
他のスタッフに声をかけて、僕は店を出た。思いの外、クリスマスクッキーが好評だったので、同じ味で定番メニューにクッキーをいれようと材料を買う。帰り道、『charmée』のすぐ近くで、ひょこひょこと歩く人を見つけた。
「愛さん?」
「あ…琢磨さん。」
「どうしたの?」
「いや〜…。」
僕が声をかけると、愛さんが曖昧に笑う。
「足、痛いの?」
歩き方が変なので指摘すると、かかとを隠すように足の向きを変える愛さん。血が滲んでいたのが、チラリと見えた。かなり痛そうな靴擦れだ。
「はい。」
「え?」
愛さんの横に立って腕を差し出す。
「腕、持って。支えにしていいから。一旦、店寄ろう。絆創膏あるし、手当てするよ。あと、スリッパ貸すし。」
「いや、大丈夫ですよ!」
愛さんが、ぶんぶんと顔の前で手を振る。
「このまま、無理やりおんぶしてもいいんだけど。」
「…お願いします。」
流石におんぶは勘弁らしく、愛さんは大人しく僕の腕を持った。
『charmée』に戻ると、スタッフたちは片付けを終わらせて帰っていた。愛さんを、いつものソファーに座らせる。
「すぐに帰るので…。」
「気にしなくていいよ。僕、店長だし。ココア淹れるから飲んでいきなよ。好きなだけいて大丈夫。」
絆創膏を貼ってあげると、愛さんはしょんぼりとしていた。かかとの傷、少しくたびれた姿。
「散々なクリスマスだったみたいだね。」
そう言うと、返事に困ったように愛さんが下を向いた。
「涼となんかあった?」
「え…?」
愛さんが、顔を上げる。
「ライブ。行ったんじゃないの?」
「あ…」
「涼のライブ、楽しくなかった?」
「そんなことなくて!涼くん、すごくかっこよくて…!」
「じゃあ、なんで元気ないの?」
「……っ」
声を詰まらせる愛さん。なんとなく、彼女が考えていることが分かった。愛さんは、口をきゅっと結んでいて、目は潤んでいる。
「…かっこよくて、悩んで泣いちゃうくらい、あいつのこと、好き?」
僕の言葉に、ぷわりと愛さんの瞳の雫が膨らむ。
「あぁ、ちょっと。僕が泣かせたみたいじゃん。」
愛さんの顔を下から見る。指で、落ちかけた雫を掬った。
「何してんの?」
涼の冷えた声が、入り口から聞こえた。あとからベルの音が、カランカランと響く。
「涼くん…?」
涼は、愛さんの頬を指で拭う僕を見て、何かを察したかのように苦しそうに笑った。
「オレのライブ終わりが待てないくらい…琢磨に会いたかった?」
「ちがっ…!」
「違わねーじゃん。ここにいるってそういうことだろ?」
「涼くん!聞い、」
「聞かねえ。はぁ…ライブ来てくれて、すっげぇうれしくって、浮かれて…オレ、バカみてぇじゃん。」
グッと噛み締めるような表情で、薄く涙を浮かべた涼。自身の表情を誤魔化すためか、ぐしゃぐしゃと頭をかく。乱れた髪のまま、舌打ちをして、大きくため息をついた。すぐそばにいる愛さんが、ビクッと怯えたのが分かった。
「もういい。」
涼が、目を伏せた。そのまま、愛さんから顔を背ける。涼が、走って出て行った。バン‼︎とドアを閉める強い音で、固まっていた愛さんが、ハッとする。
「涼くん、絶対何か勘違いしてた…!誤解、解かないと…!」
勢いよく立とうとするから、引き留めた。
「もう夜遅いからやめときな。涼は大丈夫だろうけど、愛さんは女の人だから心配だよ。」
「でも…。」
「足怪我してるし、僕送ってくから。」
そう言うと、愛さんは力なくソファーに座り込む。その様子を見て、僕の中で少し仄暗い感情が滲んだ。



