あたしたちは、寂しい独身生活ではなく、楽しいシェアハウスが始まった。
2LDKの3口コンロで、各部屋ウォークインクローゼットあり、家賃は折半。
六畳ワンルームに住んでいた時よりも断然広くて、大好きな茉莉がいる。
「なーんだ、必ず結婚しなくても幸せじゃんあたし」

幸せの形は人それぞれ違う。

別に、家庭を持っている人たちはその人たちの幸せがあって、あたしにはあたしなりの幸せな道を貫く。

「茉莉、あたしと一緒に住んでくれてありがとう」
「そんな言葉いいよ、早く乾杯しよ」
あたしたちの目の前には、ビール缶と出前のピザが置いてある。
「そうだよね。じゃ、新生活を祝って、かんぱーい!」
ごくごくと半分まで呑むとぷはぁと息を吐く。
この時間がなによりも幸せだ。


「あ、男だけは連れ込まないでよ、志穂」
「あたしが男連れ込むように見える?」
高校以来彼氏いないのに?
「いやないけど、環境代わると人間どうなるかわかんないじゃない?」
「そういう茉莉も同じでしょ?引っ越ししたんだから」
冗談だってわかってるけど、ちょっとむかついた。
「はいはい、じゃあお互い気を付けましょうね」

「も~!茉莉ったら冗談本気にしちゃうからやめてよね」
「わかったよ、でも、好きな人できたらちゃんと言うこと、隠したりしないで」
「………茉莉」
「何よ。幸せになってほしいのよ志穂には」
「十分幸せなのに、あたしは茉莉がいてくれるだけで。
茉莉とバカみたいに呑んだり語り合って、好きなシュークリーム食べて、高校から知ってる茉莉が居てくれるからこそ、失恋した時も乗り越えたし、もう一生恋愛しない、本気にならないって決めたけどね」
「志穂、私も志穂と一緒に居れて嬉しいよ?ルームメイトとして、よろしくねこれから」



ルームメイトとして一緒に住むことになって、それぞれ自分の部屋ができた。
あたしの部屋はどうしても引っ越した時のまま、数日たっても段ボールだらけで散らかっていた。
リビングは茉莉が片付けてくれた。
きっと、茉莉の部屋はきれいなんだろうな。
「志穂?入ってもいい?」
ノックをして茉莉が部屋に入ってくると、眉間にしわを寄せて口を開いた。

「ぐぇ、まだ片付けてなかったの?」
「あはは、………ちょっとどこに何が入ってるか分からなくて、漁ってたら余計に散らかっちゃった」
苦笑いをしてると、茉莉はあたしの部屋の段ボールを開け仕分け始めた。
「え、いいよ茉莉」
「ダメ、そのうち寝るところがなくなって、リビングで寝始めたりなんかしたら自分の部屋の意味がなくなるから」
「たしかに、今でも布団の上まで荷物に占領されて………」
茉莉はテキパキと物を仕分け、これはよく使うの?と質問を何回もして棚や引き出しに仕分け、床に転がった服をハンガーにかけてあたしの部屋をきれいに整頓した。

「茉莉には感謝してもしきれないわ……」
「何言ってんの、初めから頼る気だったくせに、今更気にしなくていいの」
「茉莉が神様に見える」
茉莉は、何でもしてくれた。
お互い仕事しているのは同じ条件なのに、毎日茉莉が家事をしてくれて、洗濯だけは各自ですることが決まっている。
料理は茉莉の担当、「今日はクリームパスタ作ったよ」
美味しいご飯が毎日食べれて、本当に幸せ。

‪゛‬急ぎのメールが来てても、飯は出来たてのうちにって言いますよね。
一言で返せるような内容なら、もちろんすぐに返しますよ。
やっぱり、出来たてじゃなきゃですよね。
ラーメンで例えるとしたら、伸びきってしまったら美味しくなくなってしまうのが当たり前で、そもそも料理が冷めたら美味しくないじゃないですか。゛

゛自分で食べたい時に料理が作れたら1番いいんですけど、不器用なのでね。
中々、自分じゃ作る気になれないんですよ。
要領悪いから時間もかかるし、鍋に水入れてたはずなのに無くなってて焦がすし、洗い物なんて出来ないし゛


「一人暮らししてた時は毎日コンビニ弁当買って食べてたけど、こんなに温かい出来たての手料理食べれるなんて、夢みたいだよ」
「そんな大袈裟な、今度教えたげよっか」
「いや、いい。まずいご飯が出来上がる気しかしないから、せっかくの美味しくなるはずのご飯が台無し」

「そういえば高校の同窓会、茉莉行く?」
「いつだっけ、来週の日曜だったっけ?」
「そう、あたし行くつもりだけど、行くなら一緒に行かない?先生たちも来るらしいし」
「行く、佐野先生に会いたいし」
佐野先生、あたしたちの担任の先生だった人。
茉莉がずっと惚れてたんだよね、先生には彼女がいたみたいだけど。

「まだ忘れられないの?」
「正直な話、ずっと覚えてる」
「好きな人って、忘れられないよねやっぱり」
「今は、ただの憧れの人って言い聞かせてるけど、なかなかね…」

゛茉莉には、忘れられない人がいるらしい。゛

◇茉莉

「佐野先生!お久しぶりです」
「おー茉莉か、元気してるかー」
「はい、おかげさまで」

私の好きな先生は、まだ現役の先生を続けてるらしい。

「あの、佐野先生…私いま志穂とルームシェアしてて、今でも仲良いんですよ」
「そうか、あの頃も仲良かったもんな2人とも」
「一生の友達です、先生は一生の友達居ますか?」
「いるけど、友達よりも大事な人も見つけなきゃだめだぞ、結婚まだしてないんだろ」

「結婚する相手いなくて…先生は、……薬指、御結婚されてるんですね」
「あ、あぁ…これか?変な女が寄ってこないように魔除けだよ、魔除け、まあ実を言うと長年付き合って結婚した嫁が亡くなってな病気で。そのまま付けたまま次の相手なんて見つける気にもなれなくてな、外せないんだ」
「先生…、やっぱり当時から奥さんのこと大好きでしたもんね」
「まあな、よく見てるな俺の事」
「そう、ですね…。ずっと見てましたから佐野先生のこと」

「先生は、生徒にずっと見守られて幸せだな〜、俺が見守るはずなんだけどな」
「佐野先生が幸せなら良かったです」




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「志穂聞いて、私また失恋した。………うっ…うぅ……」
「なに、佐野先生のこと?」
同窓会の会場を後にし、帰宅途中に泣きながら話しかけられる。
何とか慰め、泣き止んだところで話を聞く。

「茉莉、あたしがいるよ忘れなくても。でも、帰りたくないですとか言えばよかったのに」
「それ、ナンパされた相手に志穂がやってることでしょ、そんなの通用しないくらい一途だったよ?佐野先生」
「なぜばれた?一途かぁ………。佐野先生、べた惚れだったもんね」
「でも亡くなったって言ってた。ずっと前から好きでしたなんて言えないよ。結婚指輪外す気ないみたいだし」
「そっか、奥さん幸せだね。天から見守ってくれてるんだろうね」

「私たちも、そんな相手見つけようね」
そう言いながら、『ok Google 人生どうにかして』なんて、茉莉はスマートホンに向かって語り掛けていた。
「まぁ恋愛がすべてじゃないしさぁ、好きなことして二人で過ごそうよ、あたしと!」
「いまさら、すぐにできるものでもないしね、そうね。志穂もいるしっていうか?志穂が笑わせてくれるし?」
「まぁ任せなさい。その代わり、美味しいごはん……お願いします!」

゛出会いはタイミング、付き合っていくのは恋愛だけじゃない。
友達との出会いも運とタイミング。

あたしの幸せは、あたしが決める。

今、あたしがしたいこと。
それは、思いっきりしたいことをして、自分の人生を楽しむこと!゛

「志穂?どした?」
「ううん、なんでもない!茉莉大好き!ずーっと親友でいようね」
「当たり前のこと言わないで、私も志穂のどうしようもないだらしなさ含めて愛おしいよ、ほんと」
「え?だらしないとこまで?もうー、いくらでも汚しちゃう!」
「調子に乗らないの、ほどほどにね」