急用ってそんな訳なくない?

「マジであの子、意味分かんねぇ・・」

 俺は思わず頭を抱えた。



"やっぱり汐見君とは・・"



 あれは多分・・「付き合えない」って、言おうとしてたよな。思わず口塞いじゃったけど。

 なのにその後の、真っ赤になったあの顔────・・


 いや、何で突然テレる? 付き合おうって言ったときは何も言わなかったのに? それで何でまた逃げるんだよ。あの子のあんな顔見たの、初めてだったのに・・


「可愛いかったのにな」


 いや待て。それか? もしかして俺、またキモかったのか?



「なー芽留」

「ん?」

「あのさ・・俺と春日が付き合うことになったら、どう思う?」

「? やったじゃんて思う」


 ・・だよな。


「俺と付き合ったら春日が女子から文句言われるとか・・さすがに無いよな?」

「あー、それはあるんじゃん?」

「あるの!?」

「中2のとき梨乃がアンタに告ったら、真衣が私のが先に好きだったのにとか言って揉めてたし? 中3のとき付き合ってた遥ちゃんも、同じバスケ部に央のこと好きな子いて、結構陰口言われたって言ってたよ?」

「マジかよ怖・・? そんなの俺、全然知らなかったぞ・・? 言ってくれれば良かったのに」

「まー、そういうのに男が口出すと余計拗れるし? ただの嫉妬だし無視すれば良くね?」

「・・俺もそう思うんだけどさ・・」


"汐見君には分かんないです。言われたら言われただけ、ちゃんと傷つきますから"


 そうじゃない奴もいる、て事だよな・・


 付き合う女が芽留みたいなのだったら楽なんだろうな。大体思ってること同じだし。俺がジッと芽留を見ると、あいつは眉を顰めた。


「? 何よ?」


 でも全然芽生えねーんだよな。なんでだろ。こいつは俺の中でもうほぼ男だ。


「はぁ・・」

「おーい、人の顔見てため息つくなってばーw」




 思えばあの子の考えてる事は最初から何一つ分からなかった。あれは入学間もない四月────・・

 ある理由から春日陽葵に注目していた俺はその日、中庭のベンチで一人弁当を食べるあいつを見つけた。

(いつも昼休みになると居なくなるなぁと思ってたけど、こんなとこに居た・・)

 なんであの子はいつも、一人で居るんだろう。友達欲しいとか思わないのかな・・?

 その時、向こうから二年生と思われる女子四人組が歩いて来た。「えー? 今日人多くない?」とか「座るとこないかもー?」とかキャッキャと話すグループの登場を受けて、あの子はなんと、ササッと弁当を片付けるとスッと座っていたベンチを離れたのだ。思わず心の中でツッコんだよね。


 え〜? まだ食べ終わってないだろお前は〜? 席譲れなんてあの人達、一言も言ってないよ? ベンチはみんなのものだから。空いてなきゃ他の所行くんだから、放っておけばいいのに。


(うん・・。なんていうか春日さんて、周りに気を遣いすぎちゃう人なんだな・・)


 なんとなく興味を惹かれて、俺はあの子の後を追って行った。誰も居ない校舎裏の花壇の縁石の上に腰を据えた彼女は、再び弁当を広げたのだが・・


「ニャー」


 やって来たのは一匹の野良猫。誰かが餌付けしてるのか、人を怖がっていない様に見える。猫は少し離れた距離から彼女をジッと見据えて、再びニャーと鳴いた。


「・・あげないよ」


 しかしそれでも猫はあの子をジッと睨み、ニャーニャーと鳴き・・

 そして春日は結局、弁当のおかずを一つ、そっと地面へと置いた・・。


「それで終わりですからね」



 俺は思わず吹き出した。

 睨み負けてる・・猫にも睨み負けるって超気ぃ弱いじゃん! 大丈夫かこの子?? なんか庇護欲を掻き立てるというか、なんとかしてあげたくなる子だな〜。


「春日さ〜ん! 何やってんのそんな所で〜」


 話してみたいなと思って。調子にのって声かけた。するとあの子が見せたのは、あの嫌そうな表情・・


「お昼を食べてましたがもう終わりましたので。座るならどうぞ」


 サッと弁当を片付けたあの子は、ササッと俺に席を譲って去って行った。


(に・・逃げられた)


 座るならどうぞって、こんなとこで一人で座らんし。てゆうかそんな嫌そうな顔する普通? ちょっとは親睦深めようとかいう気ないんかい。そもそももしかして、俺同じクラスの奴だって認識されてなかったりとかする??

 今まで話しかけた相手にあんな顔されるのは初めてだったし。なんで逃げられたのか全然理解出来なかった。思えば俺はあれからずっと、あの子の背中ばっかり見てる気がするな・・



「芽留・・俺ってキモいかな・・」

「ん? まー、ひまりん的にはそうなんじゃん? てかなんかあった??」

「いや・・なんもない」


 いつもの通り、逃げられたってだけで・・