────このトライアルの僅か数日後。報道各所にはこの様なプレスリリースが送られていた。
『去る四月二十一日に開催されました日本サーフィン連盟主催のプロトライアルにおいて、めでたく合格しプロ資格を取得した汐見央・夏樹両選手が、対戦中においてもお互いの健闘を讃えてハイタッチを交わし合った姿に、スポーツの素晴らしさの真髄を見た気が致します。
株式会社FDDとサーフブランドhe’e naluは、ご兄弟でもある両選手の今後の活躍を応援すべく、この度お二人とのスポンサー契約を交わしました事を、ここにご報告申し上げます』
現役高校生で難関とされるプロサーファー資格を手にした汐見兄弟のプロフィールと、ビジュアルをアピールする為の画像も添えられたその知らせにより、草加部さんの狙い通り汐見兄弟のサクセスストーリーは報道番組を中心に多く取り上げられ、彼等がハイタッチを交わす競技動画は多くの視聴者の目にするところとなった。そして同時に夏樹君の突出した美貌は人々を魅力し、イケメンサーファー兄弟はしばしの間、世間の噂の的となった。草加部さんがここぞとばかりに、二人をモデルに撮影したhe’e naluのPR動画は、SNSを中心に話題となり、アパレルブランドのPR動画としては異例の100万回再生を記録することになる。
彼等が草加部さんの思惑通り、サーフィンブームを牽引するカリスマに育つかどうか────その物語はまだまだ、始まったばかりなのだ。
「え・・なっちゃん、数学25点に物理18点て・・なんなのコレ・・?」
青ざめた様子でテスト用紙と睨み合った央君の前で、夏樹君は相変わらず飄々とした表情でこう宣った。
「プロライセンス持ってるってだけで注目されるのなんか高校生の間だけだって草加部さん言ってたし、つまり逆を言えばずっと高校生でもいいってことかなって」
「何言ってんのバカ! あいつ何年高校行ってんだってSNSで叩かれるよ?」
央君は深い溜息をついた。
「ほんとしょうがねーな。今日から寝る前に一時間、勉強タイム作るから」
「別にいいよ央は付き合わなくて。人の事言ってる場合? 央って相変わらず波選びヘタだし。スタミナも無いし。俺に構ってないで走り込みとかやった方がいいよ」
「ぐっ・・」
夏樹君の指摘に苦い顔で口をつぐんだ央君を見て、私はおずおずと手をあげる。
「あのー・・良かったら私、勉強みましょうか・・?」
しかし間髪入れずにそれを却下したのは央君だった。
「それは絶対ダメ!!」
「なんで」
「なんで? 陽葵に手出そうとしといて、よく平然とそんな事言えるなお前! お前みたいな危ないヤツと大事な彼女を二人きりになんかするわけないでしょ!?」
「それは央がグズグズ言ってるからムカついたってだけで。央が責任取らないなら俺がひまりサンの面倒見るしかないじゃない」
「その妙な考え方が危ないって言ってるんですけど・・。 もういいや。お前が何と言おうと勉強は俺が見るから。俺も勉強しなきゃならんのは変わらないし。たださ、その・・」
「ただ?」
「俺・・走り込みとかストイックにやるの苦手だし・・そっちはなっちゃんが管理してよ・・」
若干照れたような様子でそうこぼした央君に対し、夏樹君はこんな応えを返した。
「めんどくさ」
だけどその笑顔がとても嬉しそうだった事は一目瞭然だった。二人の関係性は少しずつ変わってきていたのだけれど、側からみれば『気持ち悪いくらい仲の良い兄弟』である事に変わりは無いのだろう。
一方、芽留ちゃんは先日のトライアルでは合格を逃したのだけれど・・自分もエアリアルを習得して次のトライアルでは絶対合格するんだと意気込んでいる。三人は昔と同じく毎日のように揃って海で練習を重ねるようになった。
そして私は、そんな彼等のサポートと、相変わらず小説を執筆する日々を送っている。現在商業化が進んでいる『あの作品』を超えるものが今後書けるかどうかは、分からないけれど・・
焦る必要は無い。時間はたっぷりあるし。
今の私には海も、大切な人達の支えもある。
私はPCに向かった机で、背伸びをした。
「んー・・。やるかぁ」
(終わり)
『去る四月二十一日に開催されました日本サーフィン連盟主催のプロトライアルにおいて、めでたく合格しプロ資格を取得した汐見央・夏樹両選手が、対戦中においてもお互いの健闘を讃えてハイタッチを交わし合った姿に、スポーツの素晴らしさの真髄を見た気が致します。
株式会社FDDとサーフブランドhe’e naluは、ご兄弟でもある両選手の今後の活躍を応援すべく、この度お二人とのスポンサー契約を交わしました事を、ここにご報告申し上げます』
現役高校生で難関とされるプロサーファー資格を手にした汐見兄弟のプロフィールと、ビジュアルをアピールする為の画像も添えられたその知らせにより、草加部さんの狙い通り汐見兄弟のサクセスストーリーは報道番組を中心に多く取り上げられ、彼等がハイタッチを交わす競技動画は多くの視聴者の目にするところとなった。そして同時に夏樹君の突出した美貌は人々を魅力し、イケメンサーファー兄弟はしばしの間、世間の噂の的となった。草加部さんがここぞとばかりに、二人をモデルに撮影したhe’e naluのPR動画は、SNSを中心に話題となり、アパレルブランドのPR動画としては異例の100万回再生を記録することになる。
彼等が草加部さんの思惑通り、サーフィンブームを牽引するカリスマに育つかどうか────その物語はまだまだ、始まったばかりなのだ。
「え・・なっちゃん、数学25点に物理18点て・・なんなのコレ・・?」
青ざめた様子でテスト用紙と睨み合った央君の前で、夏樹君は相変わらず飄々とした表情でこう宣った。
「プロライセンス持ってるってだけで注目されるのなんか高校生の間だけだって草加部さん言ってたし、つまり逆を言えばずっと高校生でもいいってことかなって」
「何言ってんのバカ! あいつ何年高校行ってんだってSNSで叩かれるよ?」
央君は深い溜息をついた。
「ほんとしょうがねーな。今日から寝る前に一時間、勉強タイム作るから」
「別にいいよ央は付き合わなくて。人の事言ってる場合? 央って相変わらず波選びヘタだし。スタミナも無いし。俺に構ってないで走り込みとかやった方がいいよ」
「ぐっ・・」
夏樹君の指摘に苦い顔で口をつぐんだ央君を見て、私はおずおずと手をあげる。
「あのー・・良かったら私、勉強みましょうか・・?」
しかし間髪入れずにそれを却下したのは央君だった。
「それは絶対ダメ!!」
「なんで」
「なんで? 陽葵に手出そうとしといて、よく平然とそんな事言えるなお前! お前みたいな危ないヤツと大事な彼女を二人きりになんかするわけないでしょ!?」
「それは央がグズグズ言ってるからムカついたってだけで。央が責任取らないなら俺がひまりサンの面倒見るしかないじゃない」
「その妙な考え方が危ないって言ってるんですけど・・。 もういいや。お前が何と言おうと勉強は俺が見るから。俺も勉強しなきゃならんのは変わらないし。たださ、その・・」
「ただ?」
「俺・・走り込みとかストイックにやるの苦手だし・・そっちはなっちゃんが管理してよ・・」
若干照れたような様子でそうこぼした央君に対し、夏樹君はこんな応えを返した。
「めんどくさ」
だけどその笑顔がとても嬉しそうだった事は一目瞭然だった。二人の関係性は少しずつ変わってきていたのだけれど、側からみれば『気持ち悪いくらい仲の良い兄弟』である事に変わりは無いのだろう。
一方、芽留ちゃんは先日のトライアルでは合格を逃したのだけれど・・自分もエアリアルを習得して次のトライアルでは絶対合格するんだと意気込んでいる。三人は昔と同じく毎日のように揃って海で練習を重ねるようになった。
そして私は、そんな彼等のサポートと、相変わらず小説を執筆する日々を送っている。現在商業化が進んでいる『あの作品』を超えるものが今後書けるかどうかは、分からないけれど・・
焦る必要は無い。時間はたっぷりあるし。
今の私には海も、大切な人達の支えもある。
私はPCに向かった机で、背伸びをした。
「んー・・。やるかぁ」
(終わり)