「なぁんか暇だねぇ・・」
今日はとりわけ客入りの少ない店内を見ながら、芽留ちゃんがそう呟いた。
明日から世間はお盆の連休に入る。それから一週間、海は一年で一番の混雑を見せる。明日からこの店のスクール体験客も連日満員、近隣の海水浴場へ向かう客で表の道路の交通量は激増し、カフェへ流れてくる客も多くなるのだが、今日は正に嵐の前の静けさと言っていい。明日からの忙しさに備えて今日はスクールもお休みということもあり、閑散とした空気が流れているのである。
「もし早くあがりたい人居たら、それでもいいよ」
ランチタイムにも関わらず閑散としている店内を見て、そう言ったのは央君と夏樹君のお姉さん・汐見渚さんである。普段は都内で働いているが、お店のヘルプの為一足早く休暇を取って帰省してきたのだという。今日も知的そうな眼鏡が似合う、美人のお姉さんだ。汐見家は本当に皆顔が良いなぁ。
「亮司さんは後でお店来ます?」
「ん? アイツらはどうせ海でしょ。東の海上に低気圧来てるから波が良いって言ってたし。芽留も行ってくれば」
「はい、そうします!!」
芽留ちゃんは驚きの行動力でタイムカードを押してバターンと裏口から出て行った。その背中を呆れた顔で見送った後、紗奈ちゃんが言った。
「私は残ろうかな。せっかく来たから稼ぎたいし。ひまりんは?」
「私は・・」
央君も休みってことだよね。
じゃあもしかして・・一緒に過ごせたりとか・・
「わ、私も、あがらせてもらおうかな」
私の答えを聞いて、紗奈ちゃんが揶揄うような目で顔をニヤけさせた。
「央のとこ行くの? 頑張ってね」
「う、うん!」
せっかく一緒にいられるチャンスだもんね。だけど────。
「央ならまだ寝てるよ」
タッパーと呼ばれる上半身だけのウェットスーツと海パン姿の夏樹君を見つけたが、隣に央君の姿が見えなかったので尋ねたところ、彼はそう言った。
「あいつ夜もバイト行ってるし、相当疲れてるみたい。寝かせとこうと思って」
「そ、そうですか・・」
これは予想外だった・・。起こすのは悪いしな。でも家から一時間かけてせっかくここまで来たのに、このまま帰るのも何だし・・。
「あ、あの・・あそこに置いてあるサーフボード、お借りしても大丈夫なんですか?」
最近海に入れてないし。少しだけ暇つぶしに練習させてもらったら、終わる頃には央君が起きてるかもしれないし・・。
「海入るなら一緒に入る?」
夏樹君のその申し出に、私はビクンと心臓を飛び上がらせた。央君抜きで推しと一緒に・・? それはちょっと畏れ多いというか、それよりも私はまだ夏樹君について行ける程の技量を持ち合わせていないし、はっきり言って足手纏い。まさかせっかくのお休みの日に、夏樹君にインサイドで私の指導をさせる訳にはいかないし。そんな事になったらさすがに申し訳なさすぎる。
「あ、いえ・・ちょっと聞いてみただけ・・です・・」
「ほんとに? 今日は波高いから一人で入るのは勧めない」
「は、はい。央君が起きるの、もう少し待ってみます・・」
私は夏樹君が海へ向かって歩いて行くのを見送った。そこからしばらく店の裏手の物陰で、央君が家から出てくるのを待ってみたのだけれど。
(で、出て来ない・・)
時は真夏。日陰とはいえ暑いし。よく考えたら起きたら家の前で張ってるってちょっと怖くないか? でもバイト早退しといてカフェでお茶するのも、じゃあ働けやって思われそうだし。ど、どうしよう・・。
チラッと倉庫の方を見た。
(沖に出ずに足のつくインサイドで練習するなら、一人でも大丈夫だよね・・?)
海に入ってたなら、起きるの待ってる口実にもなるし・・。
その私の考えが大変な事態を引き起こすなど・・海の本当の怖さを知らないこの時の私は、考えが至らなかったわけで────。
今日はとりわけ客入りの少ない店内を見ながら、芽留ちゃんがそう呟いた。
明日から世間はお盆の連休に入る。それから一週間、海は一年で一番の混雑を見せる。明日からこの店のスクール体験客も連日満員、近隣の海水浴場へ向かう客で表の道路の交通量は激増し、カフェへ流れてくる客も多くなるのだが、今日は正に嵐の前の静けさと言っていい。明日からの忙しさに備えて今日はスクールもお休みということもあり、閑散とした空気が流れているのである。
「もし早くあがりたい人居たら、それでもいいよ」
ランチタイムにも関わらず閑散としている店内を見て、そう言ったのは央君と夏樹君のお姉さん・汐見渚さんである。普段は都内で働いているが、お店のヘルプの為一足早く休暇を取って帰省してきたのだという。今日も知的そうな眼鏡が似合う、美人のお姉さんだ。汐見家は本当に皆顔が良いなぁ。
「亮司さんは後でお店来ます?」
「ん? アイツらはどうせ海でしょ。東の海上に低気圧来てるから波が良いって言ってたし。芽留も行ってくれば」
「はい、そうします!!」
芽留ちゃんは驚きの行動力でタイムカードを押してバターンと裏口から出て行った。その背中を呆れた顔で見送った後、紗奈ちゃんが言った。
「私は残ろうかな。せっかく来たから稼ぎたいし。ひまりんは?」
「私は・・」
央君も休みってことだよね。
じゃあもしかして・・一緒に過ごせたりとか・・
「わ、私も、あがらせてもらおうかな」
私の答えを聞いて、紗奈ちゃんが揶揄うような目で顔をニヤけさせた。
「央のとこ行くの? 頑張ってね」
「う、うん!」
せっかく一緒にいられるチャンスだもんね。だけど────。
「央ならまだ寝てるよ」
タッパーと呼ばれる上半身だけのウェットスーツと海パン姿の夏樹君を見つけたが、隣に央君の姿が見えなかったので尋ねたところ、彼はそう言った。
「あいつ夜もバイト行ってるし、相当疲れてるみたい。寝かせとこうと思って」
「そ、そうですか・・」
これは予想外だった・・。起こすのは悪いしな。でも家から一時間かけてせっかくここまで来たのに、このまま帰るのも何だし・・。
「あ、あの・・あそこに置いてあるサーフボード、お借りしても大丈夫なんですか?」
最近海に入れてないし。少しだけ暇つぶしに練習させてもらったら、終わる頃には央君が起きてるかもしれないし・・。
「海入るなら一緒に入る?」
夏樹君のその申し出に、私はビクンと心臓を飛び上がらせた。央君抜きで推しと一緒に・・? それはちょっと畏れ多いというか、それよりも私はまだ夏樹君について行ける程の技量を持ち合わせていないし、はっきり言って足手纏い。まさかせっかくのお休みの日に、夏樹君にインサイドで私の指導をさせる訳にはいかないし。そんな事になったらさすがに申し訳なさすぎる。
「あ、いえ・・ちょっと聞いてみただけ・・です・・」
「ほんとに? 今日は波高いから一人で入るのは勧めない」
「は、はい。央君が起きるの、もう少し待ってみます・・」
私は夏樹君が海へ向かって歩いて行くのを見送った。そこからしばらく店の裏手の物陰で、央君が家から出てくるのを待ってみたのだけれど。
(で、出て来ない・・)
時は真夏。日陰とはいえ暑いし。よく考えたら起きたら家の前で張ってるってちょっと怖くないか? でもバイト早退しといてカフェでお茶するのも、じゃあ働けやって思われそうだし。ど、どうしよう・・。
チラッと倉庫の方を見た。
(沖に出ずに足のつくインサイドで練習するなら、一人でも大丈夫だよね・・?)
海に入ってたなら、起きるの待ってる口実にもなるし・・。
その私の考えが大変な事態を引き起こすなど・・海の本当の怖さを知らないこの時の私は、考えが至らなかったわけで────。