『気に入ったならまた来週もサーフィンやる? 夕方からバイトだけど』

『ご迷惑でなければお願いします』

『迷惑なわけないじゃん!』
『めっちゃ楽しみ』



 私はスマホを手に、じっと画面を見つめていた。


「・・また来週・・」


 また汐見君と約束してしまった。すごい。
 でもこれって・・『デート』に入るのだろうか?


「ま、まぁいいか。向こうもただのクラスメイトだって言ってたし、多分軽い気持ちなんだろうし。そこまで深く考えなくても・・」


"央の今の彼女ってひまりサンなの?"


 ・・どうしてそんなことが気になってしまうのだろう。選ばれた気になって調子にのってたってことかな。

 そのとき、ポコンとスマホから音がした。


『陽葵のお弁当美味しかったなぁ〜』


 えっ・・

 そ、そういえば昨日あんなにお世話になって、何かお礼をした方がいいのでは・・


『良かったら明日、作っていきましょうか?』


 すぐにポコンと音が鳴った。

 そこには涙を流して喜ぶ、クマのスタンプが押されていた。そして立て続けにメッセが・・


『めっちゃ嬉しい』
『あの渡り廊下行くね』
『秒で』



 よ、喜んでくれてる・・てのが伝わってくる。短文なのにすごいな。素直に嬉しいし。さすが陽キャの人はメッセ慣れしてる。
 どうしよう。何か返した方がいいよね。


『好き嫌いありますか?』

『椎茸キライ。卵焼きすき』


 卵焼き入れて欲しい・・てことかな。


『甘いの派ですか? しょっぱいの派ですか?』

『甘いの!』


 クス。なんか子供みたい。
 何だか信じられないな。あの苦手だった汐見君と、こんなメッセのやり取りをすることになるなんて・・

 またポコンと音がなった。


『早く明日の昼にならないかなー』


 汐見君・・そんなに楽しみにしてくれてる?

 昨日の帰り素っ気ないと思ったのは、気のせいだったのかな・・?

 それとも・・『女の子』には、みんなそうなのだろうか・・






◆◇◆◇◆◇◆◇


「何ニヤニヤしてんの?」

 振り返るとソファに座る俺の背後で、俺のスマホを覗き込む夏樹がいた。咄嗟にスマホを隠したけど・・

「それ、ひまりサン?」

「そ、そうだけど・・」

「ふーん」

 夏樹は俺の隣に座った。ふーんて。何のふーんよ。自分から聞いたんでしょ?

「な、何か・・?」

「いい子そうだったなと思って」


 え・・?? こいつまさか、陽葵に興味が?


「ど、どういうところが・・?」

「結局きっちりお金払っていったし、ちゃんとしてそう。普段央の周りに居るのってパリピみたいな女ばっかりだし。ちょっと違うタイプっていうか」

「そ、そうだね・・。え。もしかしてなっちゃん、結構気に入ってたり・・する?」

「は? ・・まぁ、割と嫌いではないけど」


 えぇ────?

 女に興味ない夏樹が、割とアリってこと? 嫌だぁこいつには割り込んできて欲しくねぇ。『俺の好きな子』だってハッキリ宣言しといた方が良かったか? でもこいつってそういうの関係なさそう・・


「なっちゃん、あのね・・」

「明日の朝、波良さそうだけど。40点だって」


 夏樹のスマホに表示されていたのはサーファーにとって頼みの綱とも言える『波情報』のサイト。サーフポイント毎にリアルタイムで評点がつけられ、波予想までしてくれる。サーファーにとって学校や仕事行く前に海に入るのは普通。夜明けと共に入水し、波が良いとそのまま学校休んだり仕事休んだりする奴が続出する。その為に海沿いに引っ越したり転職したり、彼女との約束をドタキャンしまくって振られたり、ガチのサーファーとはそういう奴等なのだ。


「あー・・朝入ると体力削られるからなぁ・・。夜バイトもあるし・・」

「央さ、何の為にバイトしてるの」


 夏樹の真剣な目が、俺に突き刺さった。


「な、何って・・高校生ともなれば欲しいものとか色々あるでしょ? 服とかさー、ゲームとか、それこそ彼女とのデート代とかさー?」

「・・・・あ、そ」


 夏樹の怒った足音が、俺から遠ざかっていく。



"将来三人でプロサーファーになるぞ!"



 それが俺と夏樹と芽留の、子供の頃からの夢。


 だけどいつまでも子供のままではいられない。マイナースポーツのプロなんて、聞こえは良いが食うに困るのが現実だ。

 無くしてしまった俺の夢。

 だけど大事な奴らには夢を叶えて欲しいなんて、芽留の言う通り、俺はヒーロー気取りのキモいお節介野朗なのかもしれないけど。


 夏樹にも、そして────あいつにも。



「そういや続き、更新されてるかな? 最近更新頻度が減ったの、もしかして俺のせいか?」


 スマホに登録したアプリを立ち上げ通知のボタンを押すと、「続きが公開されました」の文字。それを確認した後、俺はスマホの入力画面に指を走らせる。


「今回も面白かったです。・・続き、楽しみにしてます、っと・・」