「で、でけえ!? これが、ジャンボパフェか」
「これがジャンボパフェなのね……」
「……凄い。これがジャンボパフェ」
ジャンボパフェが運ばれて来るまでの間は、ちょっと気まずい空気が流れていた。
考えれば当たり前だ。
初めて会ったに近い四人が、一緒にジャンボパフェを食べるなんて、なかなかない。
それも、一人が相談もせずに突然頼んだのだから。
しかし運ばれてくるなり、三人とも目を輝かせていた。
特に日向は無意識みたいだが、すでにスプーンを握りしめている。
……かわいい。
パフェは、これでもかというぐらいポッキーが突き刺さっていた。
コーンフレークはどこかのお笑い芸人が言っていたようにかさましに使われている。
バニラ、チョコのアイスがたくさん乗っていて、イチゴやパイナップル、メロン、キュウイが敷き詰められていた。
もちろん生クリームもたっぷりで、チョコレートソースがふんだんにかけられている。
「これが……ジャンボパフェ」
そして僕もみんなと同じように呟いた。
全員、無言でスプーンを構えた。まるで何かと戦う前みたいだ。
いや、実際にそんな気持ちだけれど。
「萩原颯太、いきます!」
一番手は颯太だった。大きなスプーンを豪快にクリームにつっこんで大きくすくい一口。
「……うめえ、ジャンボパフェ」
「じゃあ、私も」
いつもは冷静な園田もどこか抑えきれないといった様子だった。ジャンボパフェって凄いな。
丁寧にすくって、口に運ぶ。やっぱり颯太と同じように呟いた。
「美味しい……」
日向は、なんだか本当に魔王に立ち向かう勇者みたいだった。
「い、いただきます!」
興奮しているのか、声もちょっと大きい。
大好きなイチゴとクリームを一緒にすくって口に入れる。
そして、たまらない笑顔を見せてくれた。
「んー! 美味しいね、瀬里ちゃん」
「正直なんでジャンボパフェ? と思ったけど確かに美味しい。小野寺は食べないの?」
「そうだぜ都希、うめえぞ!」
「あ、うん。いただきます」
みんなに促されて人生初めてのジャンボパフェ。
確かに……美味しい。
これがきっかけとなったのか、嘘のように話が弾んだ。
颯太のサッカーの話、新しい担任の話、一年生と二年生のとき、それぞれ何をしていたのか。
「知ってる? 放課後、部活に行く前にいつも私の教室に来て今日のお前も可愛い、なんて言ってきてたのよ。部活に行ったら会うのに」
「へえ、それは初耳だ。僕はもっと硬派な感じで聞いてたけど」
「ちょっと瀬里!?」
慌てる颯太はいつも以上におもしろかった。
日向も楽しそうだった。
「颯太くん、どんなに急いでる日も必ず瀬里ちゃんに会いに来てたよね。一途だなぁって見てたよ」
「三城さん、もう勘弁してください~」
恥ずかしそうに項垂れる颯太にみんな笑顔になる。
パフェを食べて、他愛のない話をして、笑い合う。
本当に楽しい時間だ。
終始笑顔でパフェを食べている日向の姿を見て、僕も嬉しかった。
◇
「コーンフレークの量、あれ詐欺じゃないか?」
出てきたものは残さない精神で、最後は颯太が食べきってくれた。
コーラで流し込む! なんて言いながらむせていたり、気合いだ! と叫んでから最後の一口を大袈裟にかき込んだり。
その姿がおもしろくて、そして恰好良かった。
「……颯太って、お笑いのセンスあると思うよ」
「そうか?」
「確かに。存在がおもしろいわね」
「ええ?! そうなのか?!」
「でも、もう限界なはずなのに全部食べきって感動したよ!」
「三城さん~」
カフェからの帰り道、喋りながら四人並んで歩く。
高校時代、何度も歩いた道だ。
「それじゃあ俺たちはこっちだな。あ、そうだ。グループライン作っとこうぜ!」
「そうね。色々決めたいこともあるし」
別れ際に颯太が言いだし、スマホを取り出した。園田が続く。
再来週の日曜日、颯太の部活がない休日に四人で水族館に行くことになったのだ。
少し早いが、これは一周目でもあった。
でも、グループラインが作られたのは水族館に行った後だった。
未来は確実に変わってきている。
急いで鞄からスマホを取り出す。
「あっ……」
久しぶりに見る旧型のスマホ。
そうだ、スマホだって高校時代に使っているものになっていて当たり前だ。
現時点では一応新型のスマホに哀愁を感じつつ、この頃流行っていた懐かしいスタンプで初めての挨拶をした。
「それじゃあ都希、三城さんを頼んだぜ」
「小野寺、日向はよく躓くから見といてあげてね。後、変な事はしないでね」
「せ、瀬里ちゃん!?」
「ああ、わかった」
颯太と園田とは家の方向が違うので途中で別れた。
四人で遊んだあとはいつもここで別れていた。
そのことはもちろん覚えている。
この二人きりの時間が、楽しみでもあったから。
でもあの時と違って、今はものすごく緊張していた。
パフェを食べていた時の高揚感はどこにもなくて、それよりもなんて話したらいいのかわからない。
日向が最後まで病気のことを言わなかったのは、言いたくなかったからだ。
それを聞くなんて無神経なことはできない。
でも、このまま黙っておくのは嘘をついていることにもなる。
一体、どうしたらいいのだろうか。
「今朝はありがとね。よく立ち眩みというか、歩いているとふっと貧血みたいになることがあって。迷惑かけちゃったね」
「気にしないで。たまたま見かけただけだから。……病院には通ってるの?」
「たまにね。それより、小野寺くん、なんでジャンボパフェ頼んだの?」
「え? どういうこと?」
「気を悪くしたらごめんね。甘いものが好きって感じには思えなかったから。だってブラックコーヒー頼んでたし」
確かに甘いものは特別好きなわけじゃない。それに日向の言う通り、ブラックコーヒーを飲もうとしているのに、突然ジャンボパフェを頼むのは違和感がある。
もしかして何か気づかれた? いや、そんなわけないか。
「えっと……テレビで見て一度頼んでみたいと思ってたんだ。一人では食べきれないけど四人でならと思ってつい」
「実はね、私もずっと食べてみたいと思ってたの。だから、小野寺くんおかげで、一つ夢が叶っちゃった。ありがと」
その言葉に思わず嬉しくなった。
彼女が書いていた日記には、やりたかったこと、やれなかったことが綴られていた。
その一つが、これだったのだ。
よく考えると、彼女が同じ同じ病気を患っているのかどうかもわからない。タイムリープしたのは、もしかするとそんな世界じゃない可能性だってある。
でも、もし同じだったら。
筋ジストロフィーは日によって激痛に襲われる日もあるという。
ただ過去の記憶を思い返しても、日向はいつも笑っている。
本当は辛いときもあったはずだ。
そんな時も本音を隠して、心配させないように笑っていたんだ。
今も、もしかしたら。
だったら、僕は日向がやりたかったことを叶えてあげたい。
それが、この世界に戻ってきた理由なのかもしれない。
「それは良かった。次の水族館も楽しみだね」
「うん。楽しみだね。すごく久しぶりだし。小野寺くんは?」
「どれくらいだろ。高校生ぶりかな?」
「……え? どういうこと?」
「あ。い、一年ぶりかなあ?」
「そうなんだね。誰と行ったの?」
颯太、瀬里、日向と……いや、これは違う。
「家族、だったかな」
「いいなあ。私のお母さん、いつも仕事で忙しくて、なかなか一緒に出かけたりできないんだよね。まあ、私のせいでもあるけど……」
「私のせい?」
「あ、いやっ……。 えっと……実は、お父さんがいないんだよね。だから、いつもお母さんは私のために仕事頑張ってくれてて。それで、私のせいでいろいろ負担かけちゃってるって意味で……」
そうか。母親だけなのは知っていたけれど、そんなふうに思っていたのか。
金銭的にも負担をかけたくないのだろう。
思えばいつもお弁当で、購買で余計な物を買っているところを見たことがない。
色々と我慢していたんだ。一周目はそこまで思い至らなかった。
「あ、でも水族館は学生料金がけっこう安いから大丈夫! 変なこといってごめんね」
「ううん。気にしてないよ。むしろ遠慮しないで何でも言ってね」
「ありがとう。小野寺くんはやっぱり優しいね」
「そんなことないよ」
「それじゃあ私、ここ右だから」
「ああ、またね日向(・・)」
気づけば懐かしい分かれ道。いつもこの交差点で別れていた。
日向に手を振るも、なぜか彼女は僕を見て固まる。
「どうかした?」
体調が悪くなった? と思っていたら、首を振りながら頬を赤く染めた。
「どうして、なの?」
「ん? 何が?」
「……何でもないよ。それじゃあまたね、小野寺くん」
「うん」
……どうしたんだろう。
まだまだ僕の知らない日向があるみたいだ。
「これがジャンボパフェなのね……」
「……凄い。これがジャンボパフェ」
ジャンボパフェが運ばれて来るまでの間は、ちょっと気まずい空気が流れていた。
考えれば当たり前だ。
初めて会ったに近い四人が、一緒にジャンボパフェを食べるなんて、なかなかない。
それも、一人が相談もせずに突然頼んだのだから。
しかし運ばれてくるなり、三人とも目を輝かせていた。
特に日向は無意識みたいだが、すでにスプーンを握りしめている。
……かわいい。
パフェは、これでもかというぐらいポッキーが突き刺さっていた。
コーンフレークはどこかのお笑い芸人が言っていたようにかさましに使われている。
バニラ、チョコのアイスがたくさん乗っていて、イチゴやパイナップル、メロン、キュウイが敷き詰められていた。
もちろん生クリームもたっぷりで、チョコレートソースがふんだんにかけられている。
「これが……ジャンボパフェ」
そして僕もみんなと同じように呟いた。
全員、無言でスプーンを構えた。まるで何かと戦う前みたいだ。
いや、実際にそんな気持ちだけれど。
「萩原颯太、いきます!」
一番手は颯太だった。大きなスプーンを豪快にクリームにつっこんで大きくすくい一口。
「……うめえ、ジャンボパフェ」
「じゃあ、私も」
いつもは冷静な園田もどこか抑えきれないといった様子だった。ジャンボパフェって凄いな。
丁寧にすくって、口に運ぶ。やっぱり颯太と同じように呟いた。
「美味しい……」
日向は、なんだか本当に魔王に立ち向かう勇者みたいだった。
「い、いただきます!」
興奮しているのか、声もちょっと大きい。
大好きなイチゴとクリームを一緒にすくって口に入れる。
そして、たまらない笑顔を見せてくれた。
「んー! 美味しいね、瀬里ちゃん」
「正直なんでジャンボパフェ? と思ったけど確かに美味しい。小野寺は食べないの?」
「そうだぜ都希、うめえぞ!」
「あ、うん。いただきます」
みんなに促されて人生初めてのジャンボパフェ。
確かに……美味しい。
これがきっかけとなったのか、嘘のように話が弾んだ。
颯太のサッカーの話、新しい担任の話、一年生と二年生のとき、それぞれ何をしていたのか。
「知ってる? 放課後、部活に行く前にいつも私の教室に来て今日のお前も可愛い、なんて言ってきてたのよ。部活に行ったら会うのに」
「へえ、それは初耳だ。僕はもっと硬派な感じで聞いてたけど」
「ちょっと瀬里!?」
慌てる颯太はいつも以上におもしろかった。
日向も楽しそうだった。
「颯太くん、どんなに急いでる日も必ず瀬里ちゃんに会いに来てたよね。一途だなぁって見てたよ」
「三城さん、もう勘弁してください~」
恥ずかしそうに項垂れる颯太にみんな笑顔になる。
パフェを食べて、他愛のない話をして、笑い合う。
本当に楽しい時間だ。
終始笑顔でパフェを食べている日向の姿を見て、僕も嬉しかった。
◇
「コーンフレークの量、あれ詐欺じゃないか?」
出てきたものは残さない精神で、最後は颯太が食べきってくれた。
コーラで流し込む! なんて言いながらむせていたり、気合いだ! と叫んでから最後の一口を大袈裟にかき込んだり。
その姿がおもしろくて、そして恰好良かった。
「……颯太って、お笑いのセンスあると思うよ」
「そうか?」
「確かに。存在がおもしろいわね」
「ええ?! そうなのか?!」
「でも、もう限界なはずなのに全部食べきって感動したよ!」
「三城さん~」
カフェからの帰り道、喋りながら四人並んで歩く。
高校時代、何度も歩いた道だ。
「それじゃあ俺たちはこっちだな。あ、そうだ。グループライン作っとこうぜ!」
「そうね。色々決めたいこともあるし」
別れ際に颯太が言いだし、スマホを取り出した。園田が続く。
再来週の日曜日、颯太の部活がない休日に四人で水族館に行くことになったのだ。
少し早いが、これは一周目でもあった。
でも、グループラインが作られたのは水族館に行った後だった。
未来は確実に変わってきている。
急いで鞄からスマホを取り出す。
「あっ……」
久しぶりに見る旧型のスマホ。
そうだ、スマホだって高校時代に使っているものになっていて当たり前だ。
現時点では一応新型のスマホに哀愁を感じつつ、この頃流行っていた懐かしいスタンプで初めての挨拶をした。
「それじゃあ都希、三城さんを頼んだぜ」
「小野寺、日向はよく躓くから見といてあげてね。後、変な事はしないでね」
「せ、瀬里ちゃん!?」
「ああ、わかった」
颯太と園田とは家の方向が違うので途中で別れた。
四人で遊んだあとはいつもここで別れていた。
そのことはもちろん覚えている。
この二人きりの時間が、楽しみでもあったから。
でもあの時と違って、今はものすごく緊張していた。
パフェを食べていた時の高揚感はどこにもなくて、それよりもなんて話したらいいのかわからない。
日向が最後まで病気のことを言わなかったのは、言いたくなかったからだ。
それを聞くなんて無神経なことはできない。
でも、このまま黙っておくのは嘘をついていることにもなる。
一体、どうしたらいいのだろうか。
「今朝はありがとね。よく立ち眩みというか、歩いているとふっと貧血みたいになることがあって。迷惑かけちゃったね」
「気にしないで。たまたま見かけただけだから。……病院には通ってるの?」
「たまにね。それより、小野寺くん、なんでジャンボパフェ頼んだの?」
「え? どういうこと?」
「気を悪くしたらごめんね。甘いものが好きって感じには思えなかったから。だってブラックコーヒー頼んでたし」
確かに甘いものは特別好きなわけじゃない。それに日向の言う通り、ブラックコーヒーを飲もうとしているのに、突然ジャンボパフェを頼むのは違和感がある。
もしかして何か気づかれた? いや、そんなわけないか。
「えっと……テレビで見て一度頼んでみたいと思ってたんだ。一人では食べきれないけど四人でならと思ってつい」
「実はね、私もずっと食べてみたいと思ってたの。だから、小野寺くんおかげで、一つ夢が叶っちゃった。ありがと」
その言葉に思わず嬉しくなった。
彼女が書いていた日記には、やりたかったこと、やれなかったことが綴られていた。
その一つが、これだったのだ。
よく考えると、彼女が同じ同じ病気を患っているのかどうかもわからない。タイムリープしたのは、もしかするとそんな世界じゃない可能性だってある。
でも、もし同じだったら。
筋ジストロフィーは日によって激痛に襲われる日もあるという。
ただ過去の記憶を思い返しても、日向はいつも笑っている。
本当は辛いときもあったはずだ。
そんな時も本音を隠して、心配させないように笑っていたんだ。
今も、もしかしたら。
だったら、僕は日向がやりたかったことを叶えてあげたい。
それが、この世界に戻ってきた理由なのかもしれない。
「それは良かった。次の水族館も楽しみだね」
「うん。楽しみだね。すごく久しぶりだし。小野寺くんは?」
「どれくらいだろ。高校生ぶりかな?」
「……え? どういうこと?」
「あ。い、一年ぶりかなあ?」
「そうなんだね。誰と行ったの?」
颯太、瀬里、日向と……いや、これは違う。
「家族、だったかな」
「いいなあ。私のお母さん、いつも仕事で忙しくて、なかなか一緒に出かけたりできないんだよね。まあ、私のせいでもあるけど……」
「私のせい?」
「あ、いやっ……。 えっと……実は、お父さんがいないんだよね。だから、いつもお母さんは私のために仕事頑張ってくれてて。それで、私のせいでいろいろ負担かけちゃってるって意味で……」
そうか。母親だけなのは知っていたけれど、そんなふうに思っていたのか。
金銭的にも負担をかけたくないのだろう。
思えばいつもお弁当で、購買で余計な物を買っているところを見たことがない。
色々と我慢していたんだ。一周目はそこまで思い至らなかった。
「あ、でも水族館は学生料金がけっこう安いから大丈夫! 変なこといってごめんね」
「ううん。気にしてないよ。むしろ遠慮しないで何でも言ってね」
「ありがとう。小野寺くんはやっぱり優しいね」
「そんなことないよ」
「それじゃあ私、ここ右だから」
「ああ、またね日向(・・)」
気づけば懐かしい分かれ道。いつもこの交差点で別れていた。
日向に手を振るも、なぜか彼女は僕を見て固まる。
「どうかした?」
体調が悪くなった? と思っていたら、首を振りながら頬を赤く染めた。
「どうして、なの?」
「ん? 何が?」
「……何でもないよ。それじゃあまたね、小野寺くん」
「うん」
……どうしたんだろう。
まだまだ僕の知らない日向があるみたいだ。