八月XX日
 
 ――――今日の花火大会もすごく行きたかった。
 いつも控え目な小野寺くんが花火に誘ってくれたときは嬉しかった。思わず行くって言ってしまった。守れない約束をしてしまった。
 花火が上がるころには私はもうあの街にいないし、体調だっていつ悪くなるかわからない。
 それでも花火楽しみだねって笑ってくれる小野寺くんにやっぱり行けないなんて言えなかった。
 
 小野寺くんごめんなさい。花火大会には行けません。
 でも、私は本当に小野寺くんと一緒に花火を見たかった。

 ◇

 夏休みは早く過ぎていった。
 僕もやりたいことが見つかって、毎日勉強漬けの日々だ。

 嬉しかったことがある。颯太がプロチームの練習に参加したとき、コーチからの反応が凄く良かったとのことだ。
 正式なオファーはまだ先らしいけれど、期待していいと言われているらしい。
 それに対して、園田もめずらしく大喜びで、グループチャットで嬉しそうだった。

 ただ、悲しいこともある。
 
 日向の体調がかなり思わしくないことだ。
 一緒にリハビリをしたり、しっかり話せたのは夏休み初めの一週間程度で、それ以降は連絡すらまともに取れていない。

 二日に一度、連絡がくればいいほうだ。
 それももの凄く短文で、彼女の辛さがよくわかる。

 颯太と園田からも僕に個別で連絡がくる。
 二人も気にしているが、日向に直接連絡取るのは負担になると思い、遠慮しているみたいだ。
 押しかけるわけにもいかず、ただただ連絡を待つだけになっている。

 僕は何度も日記を見返していた。

 花火を一緒に見たい。彼女もそれを望んでいるはずだ。

 考えないようにしても、毎日カレンダーを見てしまう。

 一日、一日と過ぎていく。

 そして花火の前日。

 颯太:『都希、三城さんからの連絡は来てないのか?』
 都希:『三日前に頑張るねって話したのが最後だよ』
 颯太:『そうか。また何かあったら教えてくれ』
 都希:『わかった』

 瀬里:『小野寺、大丈夫?』
 都希:『僕は大丈夫だけど、日向がね』
 瀬里:『あなたのことも心配よ。何かあったら、いつでも頼ってね』
 都希:『ありがとう』

 どこかで僕は慢心していたのかもしれない。
 タイムリープしてきたのには意味がある。未来は変えられる。

 だから、きっと日向は花火を見られるんだと思っていた。

 でも、当日の朝になっても日向からの連絡はなく、夕方になっても、待ち合わせの時間になっても、彼女から連絡が来ることは――なかった。

 ◇

 いつものカフェで座って、二人を待っていた。
 突然の呼び出しにもかかわらず、すぐに向かうと言ってくれた。

 花火大会が終わってから、僕は喪失感にさいなまれていた。
 あれから病院へ行っても、日向と会うことはできなかった。

 彼女が面会を拒否しているのだ。
 理由はわかっている。僕に申し訳ないからだろう。

 花火の翌日、日向からはたった一言だけメールが届いた。

 ――本当にごめんなさい。

 言い訳もせず、ただこれだけだった。
 どれほど苦しかったのか、日記を見ているからこそ辛さがよくわかる。

「都希、遅くなった」
「大丈夫。園田もありがとう」
「気にしないで。小野寺、大丈夫?」

 するとそこに二人がやってきてくれた。
 思い詰めた顔をしていたのだろう。席につくなり、僕の顔色を心配してくれた。

「僕はね。それより、日向が……」
「実は俺と瀬里も会いにいったんだ。まあ、ダメだったけどな」
「電話も出てくれないしね。日向のお母さんに強く言えば会わせてくれるかもしれないけど、それじゃあ余計に日向がつらいだけだし……」
「……お願いがあるんだ」

 僕は、二人に頭を下げた。
 どうなるのかはわからない。でも、日向の願いを叶えたい一心で考えたことだった。

 でも、一人ではどうにもならない。

 颯太と園田は突然の事にびっくりしていた。

 理由を話すと、快く引き受けてくれた。

「いいの?」
「そんな手があったとはな。もちろんだぜ」
「そうね。今日から探してみんなで頑張れば、夏休みが終わる前には間に合うんじゃないかしら」
「ありがとう。でも、日向の体調次第で無駄になってしまうかもしれない……」

 不安そうにしていたのか、颯太が僕の肩を叩いた。

「その時はまた次があるだろ。これが最後じゃない」
「そうね。颯太、たまにはいい事言うじゃない?」
「俺はいつも言ってるけどな」
「……そうだね。それじゃあ、二人ともよろしく」

 そして僕たちは動き出した。

 日向のお母さんにも連絡をした。体調のことについて聞きたかったからだ。
 嬉しいことに身体は動くようになってきているらしい。

 ただ、花火大会のことをずっと気にしているとのことだった。

 当日、準備が整ったら協力をしてくれる手筈も済んだ。

 そうして時間が過ぎ、夏休みが終わる一週間前。
 颯太と園田から無事に連絡がきた。
 そしてお母さんからも嬉しいことに大丈夫そうだと報告があった。

 日付も無事に決まり、当日。
 僕と颯太と園田は、病院へ向かおうとしていた。
 けれど――。

「どういうこと? 一緒に行かないの?」
「三城さんは、お前と二人のほうがきっといい。なあ、瀬里」
「あの子は気を遣うから、きっと私たちがいると心から楽しめなくなる。でも、あなたとなら違うわ。ずっと一緒にいたからわかる。あなたにだけは、本当の気持ちを許してるのよ」