「ルシア様、本当に大丈夫ですか?」
部屋に戻るなり心配してくるアリスは本当に優しい子だ。
「大丈夫よ。私はこれからトップを取り続けて周囲を納得させていくつもりよ。言っとくけど首席卒業の座も譲る気はないからね」
中学までの私は周りの子が何を考えているのか気にばっかりしていた。
しかし、海外生活を送ったことで実は陰口を気にしなくなった。
人それぞれ価値観自体が違うし、育った環境も違うのだから誰が何を考えているかなんて気にするだけ時間の無駄なのだ。
(私が克服しなきゃいけないのは、柊隼人⋯⋯男性不信だけだわ)
明日は実技試験だ。
実技試験は2人1組でモンスターを倒す。
モンスターは魔法により生成された人工モンスターで難易度を設定できる。
より強いモンスターを倒した方が点数も高くなる。
「ねえ、アリス⋯⋯明日の実技試験は私と組まない?」
「良いんですか? 私は攻撃系魔法を使えないので、あまり役に立てないと思いますが⋯⋯」
「治癒魔法なんて1番大事よ! 戦闘で疲れ果てた私を癒してね。最高難度のモンスターを指名するから!」
「ほ、本気ですか?」
アリスが目をまん丸にして驚いた表情をしている。
貴族たちは表情管理をしていて、あまり表情が変わらない。
それに比べて、彼女はクルクル表情が変わるので見てて飽きない。
「もちろん、本気よ。アリスの驚き顔が明日も見られると思うと楽しみ」
「私はルシア様が怪我するのではないかと不安です⋯⋯全力で治癒します」
「モンスターには、アリスに指一本触れさせないから安心してね」
ルシアは氷の魔力を持っていることで知られているが、実は火の魔力も持っている。
断罪後、その隠していた火の魔力で、ルシアは寮に火をつけた。
その火は兄オスカーが氷の魔力を使って消火する。
最後まで、妹ルシアを想っていたオスカーが彼女を切り捨てる決断をするエピソードだ。
「今日は、早めに寝ようか。明日は体力勝負だし、お休み!」
「お休みなさい⋯⋯」
電気を消して寝られるなんて、本当にアリスは良いルームメイトだ。
宗教の関係で電気をつけて寝なければいけない子と同室になった時はキツかった。
電気をつけたまま寝たい派と消したい派で争うことさえも許されない。
(みんな違う環境で育った人なんだから、完全に分かりあうのは困難ね⋯⋯)
それでも、昔の自分のようなアリスを見ていると、彼女とは本当に分かり合えそうだと期待してしまった。
♢♢♢
「SSSランクのモンスターをお願いします」
実技試験の会場である闘技場の受付で私が言った言葉に驚愕される。
確かにアリスが治癒魔法が使えることは有名で、それは攻撃には役に立たない。
だから、微々たる氷の魔力しかない私だけでどう戦うつもりかと思われているのだろう。
この闘技場はイタリアのコロッセオのような円形状になっていて、他の生徒は観客のように戦いを観察することができる。
(私の力を皆に見せつけるチャンスだわ⋯⋯)
トップバッターで試験を受けていたのはミカエルとアルベルト王子だった。
ミカエルは火の魔力を持っていて、アルベルト王子は稲妻の魔力を持っている。
Sランクのモンスターは熊くらいの大きさのレインボー色をしたトカゲだ。
アルベルト王子が稲妻でモンスターを失神させて、ミカエルがモンスターを燃やし尽くした。
黄色い大歓声があがる。
2人とも女性人気が高い。
そして、この2人が組むことは2カ国の友好的な関係を示すことにも助かる。
「そろそろ、行きましょうか、アリス」
私はやる気満々で階段を降り、闘技場の中央にアリスと共に出た。
皆、ルシアがほどほどの氷の魔力を持っていることを知っている。
実際のルシアの魔力は本当は膨大で、その真価が見せられるのは火の魔力を見せてこそだ。
今まで誰も指名したことのないSSSランクのモンスターが目の前に現れると響めきが起こった。
一戸建てくらいの大きさのレインボー色したトカゲだ。
雄叫びをあげて、私とアリスを威嚇している。
私は両掌に魔力を集めた、私は一発でこのトカゲを仕留めるつもりだ。
左手に火の魔力の力を、右手に氷の魔力の力を集中させる。
「ファイヤーブリザードアタック!」
私は両掌をモンスターに向けて、魔力をぶつけた。
炎が吹雪に巻かれながら、モンスターに直撃する。
極度の熱さと極度の冷たさにモンスターは跡形もなく姿を消した。
一瞬、当たりが静まり返る。
(しまった、変な技名を叫んでしまった!)
隠れオタクの姉は、私に様々なゲームを貸してくれた。
バトルもののゲームもなかなか面白くて私はハマった。
「火の魔法って王族しか使えないんじゃ⋯⋯」
誰かのつぶやきが耳に入ったと同時に、周りが騒ぎ出した。
明らかに私がSSS級のモンスターを一撃で倒したことより、私が火の魔力を発動したことに動揺している声がする。
「ルシア様、治癒魔法を使いますね⋯⋯お心を休められる効果があればと⋯⋯」
私に寄り添うようにアリスが触れてくると、光に包まれ体が温かくなった。
アリスの声も手も微かに震えている。
「ルシア! すぐ家に帰ろう」
私は闘技場の中央に息を切らせて現れた兄オスカーに、強引に連れられ馬車に乗せられた。
私たちが乗った途端、馬車は走り出した。
遠くに闘技場の観客のざわめく声が聞こえた。
私は実技試験の結果がどのように扱われるかを考えていた。
向かいに座るオスカーは、そんな私の考えを断ち切るように興奮していた。
「何で⋯⋯納得したって言ってたじゃないか、母上の名誉の為にもその力は隠すって⋯⋯」
私はオスカーの言葉に全てを察した。
「お母様は国王陛下との不貞行為の末に私を産んだのですね」
私が導き出した結論に対して、オスカーは強めの力で私の肩を掴んだ。
「不貞行為って⋯⋯国王陛下から求められたら母上に拒否権はないだろ」
オスカーが不倫した母を庇うのに寒気がするのは、私が現代の感覚を持っているからだ。
きっと、本物のルシアが飲み込んできた事実を私は飲み込めない。
「母親の不貞の罪を娘の私が被るんですか? 私、弟と結婚するところだったんですよ」
冗談じゃない。
ルシアが国王の隠し子ならば、私とミカエルは姉弟だ。
オスカーのまるでルシアは真実を受け入れるべきのような物言いに腹がたつ。
ルシアが最後隠された火の魔力を使って、寮を燃やそうとした気持ちが少し分かる気がした。
部屋に戻るなり心配してくるアリスは本当に優しい子だ。
「大丈夫よ。私はこれからトップを取り続けて周囲を納得させていくつもりよ。言っとくけど首席卒業の座も譲る気はないからね」
中学までの私は周りの子が何を考えているのか気にばっかりしていた。
しかし、海外生活を送ったことで実は陰口を気にしなくなった。
人それぞれ価値観自体が違うし、育った環境も違うのだから誰が何を考えているかなんて気にするだけ時間の無駄なのだ。
(私が克服しなきゃいけないのは、柊隼人⋯⋯男性不信だけだわ)
明日は実技試験だ。
実技試験は2人1組でモンスターを倒す。
モンスターは魔法により生成された人工モンスターで難易度を設定できる。
より強いモンスターを倒した方が点数も高くなる。
「ねえ、アリス⋯⋯明日の実技試験は私と組まない?」
「良いんですか? 私は攻撃系魔法を使えないので、あまり役に立てないと思いますが⋯⋯」
「治癒魔法なんて1番大事よ! 戦闘で疲れ果てた私を癒してね。最高難度のモンスターを指名するから!」
「ほ、本気ですか?」
アリスが目をまん丸にして驚いた表情をしている。
貴族たちは表情管理をしていて、あまり表情が変わらない。
それに比べて、彼女はクルクル表情が変わるので見てて飽きない。
「もちろん、本気よ。アリスの驚き顔が明日も見られると思うと楽しみ」
「私はルシア様が怪我するのではないかと不安です⋯⋯全力で治癒します」
「モンスターには、アリスに指一本触れさせないから安心してね」
ルシアは氷の魔力を持っていることで知られているが、実は火の魔力も持っている。
断罪後、その隠していた火の魔力で、ルシアは寮に火をつけた。
その火は兄オスカーが氷の魔力を使って消火する。
最後まで、妹ルシアを想っていたオスカーが彼女を切り捨てる決断をするエピソードだ。
「今日は、早めに寝ようか。明日は体力勝負だし、お休み!」
「お休みなさい⋯⋯」
電気を消して寝られるなんて、本当にアリスは良いルームメイトだ。
宗教の関係で電気をつけて寝なければいけない子と同室になった時はキツかった。
電気をつけたまま寝たい派と消したい派で争うことさえも許されない。
(みんな違う環境で育った人なんだから、完全に分かりあうのは困難ね⋯⋯)
それでも、昔の自分のようなアリスを見ていると、彼女とは本当に分かり合えそうだと期待してしまった。
♢♢♢
「SSSランクのモンスターをお願いします」
実技試験の会場である闘技場の受付で私が言った言葉に驚愕される。
確かにアリスが治癒魔法が使えることは有名で、それは攻撃には役に立たない。
だから、微々たる氷の魔力しかない私だけでどう戦うつもりかと思われているのだろう。
この闘技場はイタリアのコロッセオのような円形状になっていて、他の生徒は観客のように戦いを観察することができる。
(私の力を皆に見せつけるチャンスだわ⋯⋯)
トップバッターで試験を受けていたのはミカエルとアルベルト王子だった。
ミカエルは火の魔力を持っていて、アルベルト王子は稲妻の魔力を持っている。
Sランクのモンスターは熊くらいの大きさのレインボー色をしたトカゲだ。
アルベルト王子が稲妻でモンスターを失神させて、ミカエルがモンスターを燃やし尽くした。
黄色い大歓声があがる。
2人とも女性人気が高い。
そして、この2人が組むことは2カ国の友好的な関係を示すことにも助かる。
「そろそろ、行きましょうか、アリス」
私はやる気満々で階段を降り、闘技場の中央にアリスと共に出た。
皆、ルシアがほどほどの氷の魔力を持っていることを知っている。
実際のルシアの魔力は本当は膨大で、その真価が見せられるのは火の魔力を見せてこそだ。
今まで誰も指名したことのないSSSランクのモンスターが目の前に現れると響めきが起こった。
一戸建てくらいの大きさのレインボー色したトカゲだ。
雄叫びをあげて、私とアリスを威嚇している。
私は両掌に魔力を集めた、私は一発でこのトカゲを仕留めるつもりだ。
左手に火の魔力の力を、右手に氷の魔力の力を集中させる。
「ファイヤーブリザードアタック!」
私は両掌をモンスターに向けて、魔力をぶつけた。
炎が吹雪に巻かれながら、モンスターに直撃する。
極度の熱さと極度の冷たさにモンスターは跡形もなく姿を消した。
一瞬、当たりが静まり返る。
(しまった、変な技名を叫んでしまった!)
隠れオタクの姉は、私に様々なゲームを貸してくれた。
バトルもののゲームもなかなか面白くて私はハマった。
「火の魔法って王族しか使えないんじゃ⋯⋯」
誰かのつぶやきが耳に入ったと同時に、周りが騒ぎ出した。
明らかに私がSSS級のモンスターを一撃で倒したことより、私が火の魔力を発動したことに動揺している声がする。
「ルシア様、治癒魔法を使いますね⋯⋯お心を休められる効果があればと⋯⋯」
私に寄り添うようにアリスが触れてくると、光に包まれ体が温かくなった。
アリスの声も手も微かに震えている。
「ルシア! すぐ家に帰ろう」
私は闘技場の中央に息を切らせて現れた兄オスカーに、強引に連れられ馬車に乗せられた。
私たちが乗った途端、馬車は走り出した。
遠くに闘技場の観客のざわめく声が聞こえた。
私は実技試験の結果がどのように扱われるかを考えていた。
向かいに座るオスカーは、そんな私の考えを断ち切るように興奮していた。
「何で⋯⋯納得したって言ってたじゃないか、母上の名誉の為にもその力は隠すって⋯⋯」
私はオスカーの言葉に全てを察した。
「お母様は国王陛下との不貞行為の末に私を産んだのですね」
私が導き出した結論に対して、オスカーは強めの力で私の肩を掴んだ。
「不貞行為って⋯⋯国王陛下から求められたら母上に拒否権はないだろ」
オスカーが不倫した母を庇うのに寒気がするのは、私が現代の感覚を持っているからだ。
きっと、本物のルシアが飲み込んできた事実を私は飲み込めない。
「母親の不貞の罪を娘の私が被るんですか? 私、弟と結婚するところだったんですよ」
冗談じゃない。
ルシアが国王の隠し子ならば、私とミカエルは姉弟だ。
オスカーのまるでルシアは真実を受け入れるべきのような物言いに腹がたつ。
ルシアが最後隠された火の魔力を使って、寮を燃やそうとした気持ちが少し分かる気がした。