「本当に無礼な方ですね。しっかりと国を通じて抗議しますから」
私は必死に力を込めネイエスが脱いだ服を彼に押し付け部屋の外に押し出した。
その途端、止めどなく涙が溢れてきて床に座り込む。
ルシアは本当の悪女だ。
婚約者がいながら浮気も不倫もしていた。
ただでさえ男性不信なのに、軽薄な男が私の恋人のように寄ってくる。
レオ・ステランと通じだのはなぜだろう。
スグラ王国を陥れる手段として、膿であるステラン公爵家の情報を抜いて間者のようにローラン王国に流していたのかもしれない。
(不倫する最低男にはまって、国を陥れる馬鹿女じゃん⋯⋯)
「人の人生を引き継ぐなんて、無理だよ⋯⋯」
女王になると決めた時は目標ができて胸が高鳴った。
それなのに、この体の主が過去にしてきた事を考えると恐怖で震えた。
隣国の王太子に、自国の公爵令息⋯⋯おそらくルシアの本命はネイエス・ローランだ。
彼が現れてから体の反応がおかしかった。
他国の王太子と通じて、自国の有力貴族の息子を拐かしていた。
「ルシアが反逆者じゃん⋯⋯この国をめちゃくちゃにして、自分の好きな男とくっつきたかっただけだ⋯⋯クソバカ女」
国外追放になって晴々した顔をしていたルシアを気高い女だと勝手に思っていた。本当は自国の機密情報をごっそり持って、ネイエスの元に行く気だったのだろう。
ノックがして、震える声で返事をするとミカエルが部屋の中に入って来た。
しゃがみ込んで泣いている私を見て、彼は慌てて扉を閉めた。
「大丈夫? 何かされた?」
「違う⋯⋯私がしてたの。私が不倫をしてたの」
正直、不倫をしていたなんて事実を自分だけでは抱えられなかった。
よく考えれば、ミカエルはネイエスとは腹違いの兄弟だ。
(伝えちゃまずかった? 墓まで持っていく案件だった?)
「えっと、少し落ち着こうか。不倫をしていたのはルシアとネイエス・ローランなのかな?」
ミカエルは私を立ち上がらせ、ソファーに座らせてじっと目を見つめながら聞いてくる。
婚約者だった私が浮気どころか不倫までしていたのに随分落ち着いている。
「そうなの⋯⋯アルベルト様にも、言った方が良いよね。私がお兄様と不倫していたこと⋯⋯」
ミカエルに教えたのだから、ネイエスと兄弟のアルベルト様には教えといた方が良い気がしてきた。
「もし、その⋯⋯ネイエス王太子殿下とルシアの関係が本当なら、絶対に誰にも言わない方が良いよ」
「そうなんだ⋯⋯じゃあ、今聞いたことは忘れてくれる?」
「いや、もしその話が本当なら非常に不味いことになる。対策をとっておいた方が良い」
闇堕ちしたり、頼りなく不安定に見えたミカエルが頼もしく見える。
「婚約者だった女に浮気も不倫もされて、よく落ち着いていられるね。もっと、ルシアに首輪をつけて管理しておかなきゃダメでしょ」
「ルシア⋯⋯動揺して言っていることがめちゃくちゃだよ。君が男女平等が良いって言ってた癖に、今度は首輪って⋯⋯それに、浮気も不倫もしてたのは君じゃないんじゃない?」
私はミカエルの言葉に一瞬で涙が止まった。
「私の正体に気づいてる?」
「今、分かった⋯⋯君は異世界からルシアの体に入った人だよね」
信じられない。
私にとってここは乙女ゲームの世界だった。
実は橘茉莉花の世界と通じていると言うことだ。
「どうして分かったの?」
「だって⋯⋯あれだけ、カイロス国王の不貞行為を批判していて、自分は不倫していたとかおかしいでしょ。それ以外にもルシアと君は違い過ぎる。スグラ王国では3年前にも、異世界から来たと主張する方がいたことがあったんだ」
「その方はどこに?」
「1年したら取り憑かれた人間は元の人格に戻っていたから元の世界に戻ったんだと思う」
もしかしたら、乙女ゲーム『誘惑の悪女』はその方が作ったゲームかもしれない。
「私も、戻れるの? 戻りたい。戻って自分の人生を生きたいの。本当の私は死んでる可能性も高いし、植物状態になっているかもしれない。それでも構わない茉莉花としての人生を送りたい」
「マリカ? 君の名前なんだね。戻れるかどうかは全く分からないんだ。該当の人物も1年間の記憶はないらしい⋯⋯それに、僕は君にここにいて欲しい」
私のことを優しく抱きしめながら、ミカエルが囁く。
「なんで? 本物のルシアが好きだったんじゃないの? 彼女に戻って来て欲しいとは思わないの」
「わからない、何でだろう。君が言ってた通り、ルシアへの感情は性欲の勘違いだったのかも⋯⋯僕のマリカへの感情は愛しい、守りたい、自分から離れるのは憎らしいだよ」
最後の「憎らしい」という言葉に顔が引き攣ってしまった。
彼が闇堕ちした時の姿を思い出すだけで身震いがする。
「私が本当のルシアじゃない事、みんなに言った方が良いかな?」
「それは絶対秘密にしないと⋯⋯実は1年間、異世界の人間に取り憑かれたと言ていたのは母上なんだ⋯⋯王妃である母上がそんな不安定な精神状態だとバレないように王室のトップシークレットになった」
エミリアン王妃におそらく橘茉莉花の世界の人間が憑依していたと言うことだ。
確かに王妃に取り憑かれるような人間を据えていたなんて明かせるものではない。
私は必死に力を込めネイエスが脱いだ服を彼に押し付け部屋の外に押し出した。
その途端、止めどなく涙が溢れてきて床に座り込む。
ルシアは本当の悪女だ。
婚約者がいながら浮気も不倫もしていた。
ただでさえ男性不信なのに、軽薄な男が私の恋人のように寄ってくる。
レオ・ステランと通じだのはなぜだろう。
スグラ王国を陥れる手段として、膿であるステラン公爵家の情報を抜いて間者のようにローラン王国に流していたのかもしれない。
(不倫する最低男にはまって、国を陥れる馬鹿女じゃん⋯⋯)
「人の人生を引き継ぐなんて、無理だよ⋯⋯」
女王になると決めた時は目標ができて胸が高鳴った。
それなのに、この体の主が過去にしてきた事を考えると恐怖で震えた。
隣国の王太子に、自国の公爵令息⋯⋯おそらくルシアの本命はネイエス・ローランだ。
彼が現れてから体の反応がおかしかった。
他国の王太子と通じて、自国の有力貴族の息子を拐かしていた。
「ルシアが反逆者じゃん⋯⋯この国をめちゃくちゃにして、自分の好きな男とくっつきたかっただけだ⋯⋯クソバカ女」
国外追放になって晴々した顔をしていたルシアを気高い女だと勝手に思っていた。本当は自国の機密情報をごっそり持って、ネイエスの元に行く気だったのだろう。
ノックがして、震える声で返事をするとミカエルが部屋の中に入って来た。
しゃがみ込んで泣いている私を見て、彼は慌てて扉を閉めた。
「大丈夫? 何かされた?」
「違う⋯⋯私がしてたの。私が不倫をしてたの」
正直、不倫をしていたなんて事実を自分だけでは抱えられなかった。
よく考えれば、ミカエルはネイエスとは腹違いの兄弟だ。
(伝えちゃまずかった? 墓まで持っていく案件だった?)
「えっと、少し落ち着こうか。不倫をしていたのはルシアとネイエス・ローランなのかな?」
ミカエルは私を立ち上がらせ、ソファーに座らせてじっと目を見つめながら聞いてくる。
婚約者だった私が浮気どころか不倫までしていたのに随分落ち着いている。
「そうなの⋯⋯アルベルト様にも、言った方が良いよね。私がお兄様と不倫していたこと⋯⋯」
ミカエルに教えたのだから、ネイエスと兄弟のアルベルト様には教えといた方が良い気がしてきた。
「もし、その⋯⋯ネイエス王太子殿下とルシアの関係が本当なら、絶対に誰にも言わない方が良いよ」
「そうなんだ⋯⋯じゃあ、今聞いたことは忘れてくれる?」
「いや、もしその話が本当なら非常に不味いことになる。対策をとっておいた方が良い」
闇堕ちしたり、頼りなく不安定に見えたミカエルが頼もしく見える。
「婚約者だった女に浮気も不倫もされて、よく落ち着いていられるね。もっと、ルシアに首輪をつけて管理しておかなきゃダメでしょ」
「ルシア⋯⋯動揺して言っていることがめちゃくちゃだよ。君が男女平等が良いって言ってた癖に、今度は首輪って⋯⋯それに、浮気も不倫もしてたのは君じゃないんじゃない?」
私はミカエルの言葉に一瞬で涙が止まった。
「私の正体に気づいてる?」
「今、分かった⋯⋯君は異世界からルシアの体に入った人だよね」
信じられない。
私にとってここは乙女ゲームの世界だった。
実は橘茉莉花の世界と通じていると言うことだ。
「どうして分かったの?」
「だって⋯⋯あれだけ、カイロス国王の不貞行為を批判していて、自分は不倫していたとかおかしいでしょ。それ以外にもルシアと君は違い過ぎる。スグラ王国では3年前にも、異世界から来たと主張する方がいたことがあったんだ」
「その方はどこに?」
「1年したら取り憑かれた人間は元の人格に戻っていたから元の世界に戻ったんだと思う」
もしかしたら、乙女ゲーム『誘惑の悪女』はその方が作ったゲームかもしれない。
「私も、戻れるの? 戻りたい。戻って自分の人生を生きたいの。本当の私は死んでる可能性も高いし、植物状態になっているかもしれない。それでも構わない茉莉花としての人生を送りたい」
「マリカ? 君の名前なんだね。戻れるかどうかは全く分からないんだ。該当の人物も1年間の記憶はないらしい⋯⋯それに、僕は君にここにいて欲しい」
私のことを優しく抱きしめながら、ミカエルが囁く。
「なんで? 本物のルシアが好きだったんじゃないの? 彼女に戻って来て欲しいとは思わないの」
「わからない、何でだろう。君が言ってた通り、ルシアへの感情は性欲の勘違いだったのかも⋯⋯僕のマリカへの感情は愛しい、守りたい、自分から離れるのは憎らしいだよ」
最後の「憎らしい」という言葉に顔が引き攣ってしまった。
彼が闇堕ちした時の姿を思い出すだけで身震いがする。
「私が本当のルシアじゃない事、みんなに言った方が良いかな?」
「それは絶対秘密にしないと⋯⋯実は1年間、異世界の人間に取り憑かれたと言ていたのは母上なんだ⋯⋯王妃である母上がそんな不安定な精神状態だとバレないように王室のトップシークレットになった」
エミリアン王妃におそらく橘茉莉花の世界の人間が憑依していたと言うことだ。
確かに王妃に取り憑かれるような人間を据えていたなんて明かせるものではない。