ルシアとしっかり話すのは初めてだった気がする。
 僕と彼女は10年婚約をしている。

 でも、いつも彼女の言葉は心がこもってなくて、上部だけ取り繕っている感じがしていた。

 それでも、僕が彼女が本当に好きだった。
 美しい艶やかな銀髪に、憂いを帯びた薄紫色の瞳。
 秘密が多そうな彼女は、同年代にはない色気があって何故か目が離せなかった。

 今、目の前にいるルシアは本音で僕に話をしてくれている。
 そして、僕の知っていた彼女より幼い雰囲気だ。

 僕はミステリアスな彼女も好きだったけれど、今の素直でまっすぐな彼女はもっと好きだ。
 しかも、やっている事が行き当たりばったりな感じがして目が離せず放って置けない。

 僕はカイロス国王とセリーナ・ミエーダ侯爵夫人が恋は禁忌だけれど、神聖なもののように感じていた。

 母とカイロス国王の結婚は国家間の政略的なものだったが、彼はとても一途な方で好きでもない女を抱けなかっただけだ。

 僕も今、公式的にルシアと姉と弟という関係になっている。
 だから、僕が彼女に想いを寄せることは許されない。
 それでも彼女に惹かれるのを止められないし、彼女以外は抱きたくないとさえ思う。

「じゃあ、ルシアは国と結婚するつもりで女王になるんだね」
「もちろんよ。そもそも、恋愛とか興味ないし、向いてないんだよね」

 彼女は僕と婚約しながら2年もレオ・ステランと付き合っていたのに、言っていることがめちゃくちゃだ。

 ちなみに僕がレオ・ステランと彼女の関係に薄々気づいていたというのは強がりの嘘だ。

 本当は2年間、彼女が浮気していた事にも全く気が付かなかった。
 そんな器用に浮気できる彼女が、最近はとても不器用に見える。

 そして、レオ・ステランも彼女に愛を教えられなかったということだ。
(だったら、僕が彼女に本当の愛を教えてあげよう⋯⋯)

 彼女が王太子になったことで、おそらく色々な思惑を持った人間が彼女に近づくだろう。
 命を狙ってくる人間もいるかもしれない。

 今の彼女は自分ならなんでも出来るみたいな顔をしていて、非常に心配になる。
(どんな時も側にいて、君を傷つける全てのものから守ってみせる⋯⋯)

 少し前は彼女を傷つけてやろうとしていたのに、今は守りたいと思っている。こんなに感情を大きく動かされる事は初めてだ。

 僕は彼女と結ばれない運命にある事を知りながら、心から彼女を愛し始めていた。