「そなたに王太子の称号を捧げる」
王冠をカイロス・スグラ国王陛下が私に被せる。

今日は私はスグラ王国の王
 太子になった。
横目で盗み見たミカエルは無表情だ。

しかし、私にも理解できないような複雑な状況を抱いているのは確かだろう。

私は立太子の儀式が終わるなり、ミカエルを追いかけた。
「ミカエル、話そう⋯⋯あなたと、協力しながら私はスグラ王国をより良い未来に導きたいと思っているの」

 手を掴んだ時にミカエルは少し驚いた顔をした。
(不躾だったかな⋯⋯)

「僕と話したいなんて思ってくれるんだね⋯⋯」
 彼の荒んだ瞳に胸が締め付けられた。

「当たり前でしょ。それどころか、私はミカエルを頼りにしてるよ」
彼は私を王宮の自分の部屋まで連れて行った。

ソファーに並んで座るなり、私は一呼吸して切り出した。

「ミカエル⋯⋯私たちは姉弟になるの。それからね、私は君主になる為の教育を受けていない。だから、あなたに支えて欲しいのよ」
「ルシア⋯⋯勝手だね⋯⋯」
 彼が私と目も合わせずに言った言葉の通りだ。
必死に次期国王になる為に努力してきた彼の成果をよこせと言っている。

「そうね。本当に勝手⋯⋯ミカエル、あなたの為に私ができる事がある?」
せめてギブアンドテイクの関係になればと彼に勇気を出して申し出た。

「じゃあ、今後、誰とも付き合わないで、心を通わさないで、結婚しないで⋯⋯そんなの無理だよね」
 ミカエルの返答が無理なものだと私は全く思わなかった。

「ミカエル⋯⋯あなたが望むならば、あなたの言うとおりにするわ。そもそも、弟であるあなたが嫌がる相手と結婚なんてする訳ないでしょ」

 ミカエルは今ルシアに恋心があるのだろう。
だから、こんな不思議な提案をしてくる。
私にとってこの提案を受けるのは何でもない事だ。
(そもそも、恋愛って必要ないと思っているし⋯⋯結婚? 後継が必要なら容姿でも取れば良い⋯⋯)

「ルシア⋯⋯本当に君だけが好きだ。この10年ずっと、心から」
私の頬に手を当てて唇を近づけてくるミカエルに戸惑った。
(恋愛なんていらない、でも、弟のような彼の好意はもっといらない)