僕、ミカエル・スグラは生まれた時から自分が次期国王になるものとして育てられた。
そして、一目惚れした女の子ルシアと7歳の時に婚約した。
それなのに、今日、国王である父上から自分が彼の子ではないと知らされた。
父上の弟はローラン王家に婿入りしていて、何度も見たことがある。
父上と同じで赤髪に赤い瞳で火の魔力を持っている。
(だからって母上は夫の弟と⋯⋯)
ローラン王国は父の弟であるサンタナ・ローランの妻ナタリー・ローランが治めている。
ローラン王国はスグラ王国とは違い一夫多妻制だ。
7人の王子がいたにも関わらず、ナタリー・ローランが王位を継いでいる。
それは、7人の王子が王位を争って殺し合いをしたからだ。
ナタリー・ローランは強国スグラ王国の王族を婿に取り、いつの間にか自分の地位を確固たるものにしていった。
女性の権利が保障されていると言われているスグラ王国でさえ、女性が王位を継いだことはない。
ナタリー・ローランを見かけたことがあるが、貞操観念の高いスグラ王国では見かけない危険な香りのする女性だった。
きっと彼女は強かで目的の為には手段を選ばない恐ろしい女だ。
そんな女の夫と関係を結ぶなんて、母上はスグラ王国に爆弾を仕掛けたようなものだ。
アルベルトもナタリー・ローランの息子というだけあって、僕にはない大人の色気がある。
彼は兄に王位を譲ると真っ先に宣言し、スグラ王国に留学に来た。
無駄な争いを避ける非常にクレバーな判断だ。
僕にはない色気や、賢い立ち回りに魅力を感じてルシアは彼を好きになったのだろうか。
(アルベルトは僕とは腹違いの兄弟ということだ⋯⋯全然似てないな⋯⋯)
僕から心が離れてしまったルシアを覗き見ると、彼女は凛としてカイロス国王を見据えていた。
「国王陛下、何か王妃殿下やミカエル王太子殿下に仰ることはないのですか? 一夫一妻制の国で、夜伽がないのに世継ぎを望まれ追い詰められた妻の不安に寄り添ったり、これまで血筋を偽っていた事を子に謝罪するのが筋かと存じますが」
ルシアの声が遠くに聞こえる。
彼女はもっと控えめで女性らしい子だったはずだ。
この間から、ライアンもルシアもおかしい。
でも、おかしくなったルシアの言葉は以前の彼女の言葉よりも聞き入ってしまう。
元からルシアは色々な矛盾に目を瞑ってきて、我慢できなくなったのではないだろうか。
火の魔力を明かして、彼女は自分が王族である事を示してスグラ王国を変えていきたいのかもしれない。
そんな時に、隣にいるのは僕でありたい。
僕は自分が彼女の弟であると知った時、姉弟でも結婚ができないか調べた。
昔、他国では姉と弟でも結婚したケースがあると知り、何とかならないかと考えた。
ルシアと一緒になるのが当たり前だと思っていたのに、彼女が他の男のものになるかもしれないと思うと耐えられなかった。
だから、自らミエーダ侯爵邸に彼女を迎えにいった。
それなのに開口一番、彼女は婚約破棄について言及してきた。
そして、弟じゃなかったとしても僕と結婚はしなかったと言ってきた。
今、ルシアと僕は従兄弟だという真実が出てきた。
従兄弟であれば彼女と結婚できる。
それでも、僕が王子という立場のままではダメだ。
ルシアの言っていたことは正しかった。
僕はカイロス国王と、セリーナ・ミエーダ侯爵夫人の関係は許せても、母上が父上以外の男と関係した事は許せなかった。
僕とそっくりの金髪碧眼の母上の弁明を聞くのも吐き気がする。
「私が気に入らないのであれば、やはりミカエルが王太子のまま次期国王になった方がよいのではありませんか?」
ルシアも何も分かっていない。
ミエーダ侯爵夫人は、父にルシアが彼の子供であることを隠していたのだ。
父は自分の子がいない時は僕に王位を譲ろうと思っていたが、実子であるルシアがいる以上は当然自分の子に王位を譲りたいに決まっている。
「いいえ⋯⋯僕はスグラ王国の国王になるつもりはありません。父上、全てを公表し僕を臣籍降下してください。そして、ルシアとの婚約を継続させてください」
カイロス・スグラ国王の実子であるルシアがいる以上は、王位は継げない。
僕が王子の地位にいれば、ルシアとは結ばれない。
僕を支えていた次期国王の座とルシアというパートナーの存在。
せめて、ルシアだけでも失いたくないと提案した。
「2人とも頭を冷やしなさい。王妃の不貞を明かすわけにはいかない。ルシアの立太子は来週に延期する。それまでに、ルシアは王族とはどういうものかについて学ぶと良い」
そう言い残すと父上は去っていった。
僕はふと母上の方を見ると、目を逸らされた。
(汚い女だ⋯⋯あんなのは僕の母上じゃない)
「ルシア、部屋に案内するよ」
僕は少しでもルシアの側にいたくて案内を申し出ようと手を出した。
そっと、彼女が手を添えてくる。
「無理しないで、ミカエル⋯⋯案内なら他の者に頼めるから」
心配そうな目で見つめてくる彼女が愛おしい。
さっきは僕を突き放そうとしてたのに、今は優しくしてくれている。
ルシアは残酷な女だ。
こんな風に弱っている時に優しい言葉をかけられたら、ますます彼女を諦められない。
「ミカエル、突然、取り上げられたから私に執着しているだけよ。あなたにはもっと相応しい人がいるわよ」
「いないよ、そんな人⋯⋯」
これまで、彼女しか見ていなかった。
彼女と僕の10年間はなんだったんだろう。
(ルシアは僕に対して本当になんの未練もないのか? 僕にとって女はルシアだけなのに!)
「アリスとか優しくて、優秀であなたにピッタリだと思うけど」
彼女の言葉に僕の中の何かが切れた。
アリスというのは、この間、彼女がアルベルトの部屋に来た時にルシアと一緒にいた子だ。
(僕に彼女をあてがって、自分はアルベルトとくっつこうとしているのか!)
気が付くと、僕は客人用の部屋の扉を開いてルシアをベッドに押し倒していた。
彼女の美しい銀髪が白いシーツに絹糸のように流れている。
薄紫色の澄んだ瞳には、酷い顔した僕が映っていた。
「ルシア⋯⋯ここで、僕が君を抱いたら、君は僕と結婚するしかなくなるよ」
思いっきり腕を押さえつけると、ルシアが震え出した。
「やめて⋯⋯本当に嫌だ⋯⋯」
泣き出してしまった彼女に、一瞬動揺する。
でも、確実に彼女を手に入れるには、今、事に及ぶしかない。
彼女の服に手をかけようとした時に、首元に剣を突きつけられた。
「誰だ! 無礼だぞ!」
顔を上げると、そこにいたのはライアンだった。
(今日は本当にありえないことばかりだ⋯⋯)
「ライアン! 剣をおさめろ。王族に対しての反逆とみなすぞ!」
僕の言葉に、ライアンは首を振るだけで剣をおさめない。
「ライアン! ミカエルのことを、このまま斬り殺して良いわよ。こんな風に女に無理やり迫るような奴なんて、いない方が国の為だから」
ルシアの冷たい声で発せられた言葉に、僕は気がつけば彼女の腕の拘束を解いていた。
彼女はサッと僕の下から逃れ、ライアンの後ろにいく。
(信じられない⋯⋯ルシアが僕のことをいない方が良いって、斬り殺せって言った⋯⋯)
「ミカエル、この護衛騎士貰って行くわよ。どうやら、あなたより私を優先してくれるみたいだから信用できそう」
呆然とする僕を放って、ルシアとライアンは部屋を出て行ってしまった。
(なんで⋯⋯ライアンまでも僕を裏切るんだ? 僕が平民だったあいつを取り立てて護衛騎士にまでしてやったのに⋯⋯)
その場から動けずにいると、何度か名前を呼びかけられた気がした。
「ステラン公爵⋯⋯なんで、ここに⋯⋯」
茶髪に緑色の瞳をした帝国一裕福な貴族のステラン公爵だ。
彼は1人息子のレオ・ステランを溺愛している。
(羨ましいな⋯⋯僕もそんな風に愛されたかった⋯⋯)
「ミカエル王太子殿下の身を案じていたのです」
「僕のことを?」
自分が出した声が、震えていて泣いているのが分かった。
僕は、今日、両親から見放され、ずっと好きだったルシアから捨てられ、信頼していたライアンにも裏切られた。
「ミカエル王太子殿下のお血筋について前々より存じ上げておりました。妹がエミリアン王妃殿下の侍女をしておりましたから」
「僕がカイロス国王の血を継いでいないと分かっていても、僕のことを王太子として⋯⋯次期国王として接してくれていたんだな⋯⋯」
ステラン公爵はゆっくりと頷いた。
彼は常に僕に親切だった人だ。
きっと、僕の不遇な状況を分かってて優しくしてくれていたのだろう。
(「ミカエル、あなたの立場だと、擦り寄ってくるのは下心のある人間ばかりだから注意するのよ」)
昔、ルシアが僕に言った言葉が頭にこだました。
そんなことは彼女に言われなくても分かっていた。
僕のことを危なっかしいと思うなら、ルシアが側にいてくれれば良かったんだ。
僕を突き放して、拒絶したルシアが全部悪い。
僕はステラン公爵の手を取った。
そして、一目惚れした女の子ルシアと7歳の時に婚約した。
それなのに、今日、国王である父上から自分が彼の子ではないと知らされた。
父上の弟はローラン王家に婿入りしていて、何度も見たことがある。
父上と同じで赤髪に赤い瞳で火の魔力を持っている。
(だからって母上は夫の弟と⋯⋯)
ローラン王国は父の弟であるサンタナ・ローランの妻ナタリー・ローランが治めている。
ローラン王国はスグラ王国とは違い一夫多妻制だ。
7人の王子がいたにも関わらず、ナタリー・ローランが王位を継いでいる。
それは、7人の王子が王位を争って殺し合いをしたからだ。
ナタリー・ローランは強国スグラ王国の王族を婿に取り、いつの間にか自分の地位を確固たるものにしていった。
女性の権利が保障されていると言われているスグラ王国でさえ、女性が王位を継いだことはない。
ナタリー・ローランを見かけたことがあるが、貞操観念の高いスグラ王国では見かけない危険な香りのする女性だった。
きっと彼女は強かで目的の為には手段を選ばない恐ろしい女だ。
そんな女の夫と関係を結ぶなんて、母上はスグラ王国に爆弾を仕掛けたようなものだ。
アルベルトもナタリー・ローランの息子というだけあって、僕にはない大人の色気がある。
彼は兄に王位を譲ると真っ先に宣言し、スグラ王国に留学に来た。
無駄な争いを避ける非常にクレバーな判断だ。
僕にはない色気や、賢い立ち回りに魅力を感じてルシアは彼を好きになったのだろうか。
(アルベルトは僕とは腹違いの兄弟ということだ⋯⋯全然似てないな⋯⋯)
僕から心が離れてしまったルシアを覗き見ると、彼女は凛としてカイロス国王を見据えていた。
「国王陛下、何か王妃殿下やミカエル王太子殿下に仰ることはないのですか? 一夫一妻制の国で、夜伽がないのに世継ぎを望まれ追い詰められた妻の不安に寄り添ったり、これまで血筋を偽っていた事を子に謝罪するのが筋かと存じますが」
ルシアの声が遠くに聞こえる。
彼女はもっと控えめで女性らしい子だったはずだ。
この間から、ライアンもルシアもおかしい。
でも、おかしくなったルシアの言葉は以前の彼女の言葉よりも聞き入ってしまう。
元からルシアは色々な矛盾に目を瞑ってきて、我慢できなくなったのではないだろうか。
火の魔力を明かして、彼女は自分が王族である事を示してスグラ王国を変えていきたいのかもしれない。
そんな時に、隣にいるのは僕でありたい。
僕は自分が彼女の弟であると知った時、姉弟でも結婚ができないか調べた。
昔、他国では姉と弟でも結婚したケースがあると知り、何とかならないかと考えた。
ルシアと一緒になるのが当たり前だと思っていたのに、彼女が他の男のものになるかもしれないと思うと耐えられなかった。
だから、自らミエーダ侯爵邸に彼女を迎えにいった。
それなのに開口一番、彼女は婚約破棄について言及してきた。
そして、弟じゃなかったとしても僕と結婚はしなかったと言ってきた。
今、ルシアと僕は従兄弟だという真実が出てきた。
従兄弟であれば彼女と結婚できる。
それでも、僕が王子という立場のままではダメだ。
ルシアの言っていたことは正しかった。
僕はカイロス国王と、セリーナ・ミエーダ侯爵夫人の関係は許せても、母上が父上以外の男と関係した事は許せなかった。
僕とそっくりの金髪碧眼の母上の弁明を聞くのも吐き気がする。
「私が気に入らないのであれば、やはりミカエルが王太子のまま次期国王になった方がよいのではありませんか?」
ルシアも何も分かっていない。
ミエーダ侯爵夫人は、父にルシアが彼の子供であることを隠していたのだ。
父は自分の子がいない時は僕に王位を譲ろうと思っていたが、実子であるルシアがいる以上は当然自分の子に王位を譲りたいに決まっている。
「いいえ⋯⋯僕はスグラ王国の国王になるつもりはありません。父上、全てを公表し僕を臣籍降下してください。そして、ルシアとの婚約を継続させてください」
カイロス・スグラ国王の実子であるルシアがいる以上は、王位は継げない。
僕が王子の地位にいれば、ルシアとは結ばれない。
僕を支えていた次期国王の座とルシアというパートナーの存在。
せめて、ルシアだけでも失いたくないと提案した。
「2人とも頭を冷やしなさい。王妃の不貞を明かすわけにはいかない。ルシアの立太子は来週に延期する。それまでに、ルシアは王族とはどういうものかについて学ぶと良い」
そう言い残すと父上は去っていった。
僕はふと母上の方を見ると、目を逸らされた。
(汚い女だ⋯⋯あんなのは僕の母上じゃない)
「ルシア、部屋に案内するよ」
僕は少しでもルシアの側にいたくて案内を申し出ようと手を出した。
そっと、彼女が手を添えてくる。
「無理しないで、ミカエル⋯⋯案内なら他の者に頼めるから」
心配そうな目で見つめてくる彼女が愛おしい。
さっきは僕を突き放そうとしてたのに、今は優しくしてくれている。
ルシアは残酷な女だ。
こんな風に弱っている時に優しい言葉をかけられたら、ますます彼女を諦められない。
「ミカエル、突然、取り上げられたから私に執着しているだけよ。あなたにはもっと相応しい人がいるわよ」
「いないよ、そんな人⋯⋯」
これまで、彼女しか見ていなかった。
彼女と僕の10年間はなんだったんだろう。
(ルシアは僕に対して本当になんの未練もないのか? 僕にとって女はルシアだけなのに!)
「アリスとか優しくて、優秀であなたにピッタリだと思うけど」
彼女の言葉に僕の中の何かが切れた。
アリスというのは、この間、彼女がアルベルトの部屋に来た時にルシアと一緒にいた子だ。
(僕に彼女をあてがって、自分はアルベルトとくっつこうとしているのか!)
気が付くと、僕は客人用の部屋の扉を開いてルシアをベッドに押し倒していた。
彼女の美しい銀髪が白いシーツに絹糸のように流れている。
薄紫色の澄んだ瞳には、酷い顔した僕が映っていた。
「ルシア⋯⋯ここで、僕が君を抱いたら、君は僕と結婚するしかなくなるよ」
思いっきり腕を押さえつけると、ルシアが震え出した。
「やめて⋯⋯本当に嫌だ⋯⋯」
泣き出してしまった彼女に、一瞬動揺する。
でも、確実に彼女を手に入れるには、今、事に及ぶしかない。
彼女の服に手をかけようとした時に、首元に剣を突きつけられた。
「誰だ! 無礼だぞ!」
顔を上げると、そこにいたのはライアンだった。
(今日は本当にありえないことばかりだ⋯⋯)
「ライアン! 剣をおさめろ。王族に対しての反逆とみなすぞ!」
僕の言葉に、ライアンは首を振るだけで剣をおさめない。
「ライアン! ミカエルのことを、このまま斬り殺して良いわよ。こんな風に女に無理やり迫るような奴なんて、いない方が国の為だから」
ルシアの冷たい声で発せられた言葉に、僕は気がつけば彼女の腕の拘束を解いていた。
彼女はサッと僕の下から逃れ、ライアンの後ろにいく。
(信じられない⋯⋯ルシアが僕のことをいない方が良いって、斬り殺せって言った⋯⋯)
「ミカエル、この護衛騎士貰って行くわよ。どうやら、あなたより私を優先してくれるみたいだから信用できそう」
呆然とする僕を放って、ルシアとライアンは部屋を出て行ってしまった。
(なんで⋯⋯ライアンまでも僕を裏切るんだ? 僕が平民だったあいつを取り立てて護衛騎士にまでしてやったのに⋯⋯)
その場から動けずにいると、何度か名前を呼びかけられた気がした。
「ステラン公爵⋯⋯なんで、ここに⋯⋯」
茶髪に緑色の瞳をした帝国一裕福な貴族のステラン公爵だ。
彼は1人息子のレオ・ステランを溺愛している。
(羨ましいな⋯⋯僕もそんな風に愛されたかった⋯⋯)
「ミカエル王太子殿下の身を案じていたのです」
「僕のことを?」
自分が出した声が、震えていて泣いているのが分かった。
僕は、今日、両親から見放され、ずっと好きだったルシアから捨てられ、信頼していたライアンにも裏切られた。
「ミカエル王太子殿下のお血筋について前々より存じ上げておりました。妹がエミリアン王妃殿下の侍女をしておりましたから」
「僕がカイロス国王の血を継いでいないと分かっていても、僕のことを王太子として⋯⋯次期国王として接してくれていたんだな⋯⋯」
ステラン公爵はゆっくりと頷いた。
彼は常に僕に親切だった人だ。
きっと、僕の不遇な状況を分かってて優しくしてくれていたのだろう。
(「ミカエル、あなたの立場だと、擦り寄ってくるのは下心のある人間ばかりだから注意するのよ」)
昔、ルシアが僕に言った言葉が頭にこだました。
そんなことは彼女に言われなくても分かっていた。
僕のことを危なっかしいと思うなら、ルシアが側にいてくれれば良かったんだ。
僕を突き放して、拒絶したルシアが全部悪い。
僕はステラン公爵の手を取った。