「私は、18歳で死んでこの世界に来ました。ピンク髪の彼女は前世で私を虐め抜いた人です。この世界は私の読んでいた小説の世界で、ピンク髪の彼女がヒロインです。彼女はルブリス王子と結ばれて、私は彼女を虐めた罪で断罪され国外追放されます。きっと、私のいた世界もきっと誰かの書いた小説の世界です。そこでも私は彼女に虐め抜かれて死にました。私はどの世界でもそういう役回りなのです」

自分でも信じられないが、堰をきったように私は真実をサイラス王太子殿下に話していた。
突然彼が私の額に口づけをしてきて、びっくりして彼を押し返してしまう。

「すみません。堪らなく愛おしくなってしまいました。ピンク髪の彼女がヒロインの小説の中に堕ちたとあなたは思っているのですね。あのような愚かな女がヒロインなのですか? 私は小説をあまり読まないので分かりませんが、彼女がヒロインの小説の需要は感じません。ヒロインはいつだって、あなたのような美しい心を持った方ですよ。あなたがこの世界を小説の世界だと思うのならば、私がその結末を変えてみせます。ヒロインは間違いなくあなたです。あなたがハッピーエンドを迎えた時、私はあなたの隣にいたいです。イザベラ様は綾と言う名前だったのですね。あなたが呼ばれたい名前で私はあなたを呼びたいです」

サイラス王太子殿下が、私の頰を包み込み切実な瞳で伝えてくる。
綺麗な彼の青色の瞳に、夢見るような恋する可愛いイザベラが映っている。
このような夢みたいな瞬間が私に訪れるのなら、私も夢に浸ってみようとおもった。

「イザベラとお呼びください。私はこの世界でイザベラとして時を過ごしはじめております」

「イザベラ、では私の新しい作戦を発表します。私はあなたと一緒になることを最優先事項にしました。これより、あなたはルイ国の人質になります。今晩、サプライズでレイラとエドワード王子の婚約が発表されます。時間的にその後で、ルブリス王子の婚約者であるイザベラがルイ国の人質になったことが明らかになります。おそらく、レイラはライ国の人質になるでしょう。きっと、ルイ国とライ国は一触触発の緊張状態になるでしょう」

サイラス王太子の新しい計画とやらは、とても怖いものだった。
ラブラブなルブリス王子とフローラのアカデミー時代しか小説には出てこなかったが、周辺諸国は緊迫した状態だったということだ。

「レイラ王女は来年からアカデミーに通われるのではないですか?」
姉妹のように過ごそうと言ってくれたレイラ王女の姿が蘇った。

「私たち、6人兄弟の中で最後まで私と王位を争ったのがレイラです。彼女はエドワード王子に心を奪われつつも、ルイ王国の女王になることを夢見てきました。ルイ国王陛下も私を王太子にしましたが、レイラの素養は認めていました。彼女は私がイザベラを国へ連れ去った事実を知れば、私の意図をすぐに察して動き出すでしょう」

私は今からルイ王国に行くらしい。
そして、私と姉妹のように過ごしたいとまで言ってくれたレイラ様がライ国の人質になるという事実に目眩がした。

「人質と言っても安心してください。12歳になればイザベラはルイ国のアカデミーに入学します。同学年にララアという私の妹もいますし、最高学年にはライアンという私の弟もいます。2人とも、あなたを守ってくれると思いますよ」

「レイラ王女はライ国のアカデミーに入るのでしょうか? 彼女は誰が守ってくれるのですか?」

「イザベラ、レイラが人質の立場でライ国のアカデミーに入学するかは私にも分かりません。しかし、彼女の最優先項目がルイ国であることだけは分かります。心配しないでください。彼女は11歳でありながら、私と最後まで王位を競った才女です」

「私は守られているだけなのですか?私も何かしたいです。何ができるかわからないけれど、何かさせてください」
まるで、ライ国とルイ国が戦争になるかもしれないような展開に私は動揺していた。
そして何もできないであろう自分に同時に失望していた。

「イザベラ、あなたがこの世界を、今、動かしています。エドワード王子もレイラもあなたの価値にすぐに気がつきました。唯一無二のあなたの素晴らしさに気がつかないルブリス王子が王位についたら、どちらにしろライ国は終わりなのです。周辺諸国は地下資源の豊富なライ国を常に狙っています。君主に一番必要なのは、人の価値に気が付ける力だと思います。人は国にとって一番の財産ですから。イザベラ、あなたの辛い経験はこの世界の誰もしたことがないような経験なのかもしれません。そのような経験がもたらした優しさと思いやりや、あなたの生粋の美しい心に皆惹かれています。あなたの深い海のような心にすぐに気がついたエドワード王子は素晴らしいです。逆にいつまでも気がつかない、ルブリス王子は国王の器ではありません。彼が立太子したら、ライ国は終わります」