「サイラス様、明日はいよいよ戴冠式ですね」

カールやルブリス王子に見送られルイ国に到着して1ヶ月。
明日は、いよいよサイラス様の戴冠式だ。

「イザベラ、改めて私の元に帰ってきて来れてありがとうございました。雪の女王のティアラは、もうイザベラのものとして手続きをしたので宝物庫に戻す必要はなかったのですよ」

「明日は、たくさんの人がいらっしゃいます。建国祭の時のように雪の女王のティアラを皆様に見て欲しいです」
あのティアラは王家の権力を見せるだけでなく、ルイ国の富の証ともいえるもので皆見るのを楽しみにしているのだ。

「イザベラの誕生日プレゼントを他に用意します。何が欲しいですか?」
サイラス様が私の髪を愛おしそうに撫でてきて、ときめきで緊張してしまう。

「頂いた王妃のティアラが私の誕生日プレゼントだと、ララアから聞いたのですが違うのですか?」
私はサイラス様の澄んだ青い瞳に恥ずかしいくらい赤面している自分を見つけて、思わず目を逸らした。

「王妃のティアラはイザベラが私の元に戻ってくるように、誕生日プレゼントとして用意したものです。イザベラが欲しいものがプレゼントしたいです」

私が目を逸らした理由がわかっているのだろう。
サイラス様が楽しそうに私の顔を覗き込んでくる。

「私が一番欲しいものはサイラス様の隣にいる権利です。サイラス様は明日が21歳の誕生日ですよね。何か欲しいものがありますか?」
私は彼の隣に居られるのなら、何もいらない。

彼の隣にいることはコミュ障で根暗な私が王妃を務めなければならないことだ。
でも、それが彼の隣にいる絶対条件ならやるしかないと心は決まっている。

「イザベラ、何て可愛いことを言うのですか。私は今自分の穢れを知りました。正直に私が欲しいプレゼントを言います。誕生日にはイザベラが欲しいです。信じられますか、他国の女性は18歳や16歳で結婚するそうです。なぜ、ルイ国だけが21歳なのでしょう」

ルイ国は周辺諸国に対して、21歳と成人年齢も高い。
私がルイ国のアカデミーに通っていて思ったのは、15歳でも精神的に成熟している人がこの国には多いということだ。

だから、私も別に成人年齢や婚姻年齢を下げても良いと思う。
ただ、サイラス様の言い方だと私と大人なことをしたいから婚姻年齢を下げたいと言っているように聞こえて、顔が余計に熱くなってしまう。

サイラス様が私の頰の温度を下げようとして、手で私の頰を包み見込んできた。
心臓がおかしいほどドキドキして余計に顔が熱くなる。

「ルイ国は他国に比べて男女平等の意識が強いです。そのため女性と男性の成人年齢も婚姻ができる年齢もは同じになっています。成人した王族が王位につく権利があり、女性が王位につくケースも多いからですね。ルイ国の初代国王も女性です」

「イザベラ、よく勉強していますね。模範解答です。私は国王になったら、まず成人年齢の引き下げと婚姻ができる年齢を下げるつもりです。イザベラと早く結婚したいです。あと、5年もこのような魅力的なイザベラに手を出してはいけないだなんて、私がいったいどんな罪を犯したのでしょうか?」

罪といえば白川愛の憑依したフローラ・レフト男爵令嬢はロンリ島に島流しになったらしい。
私はその話を聞いてもまだ彼女の悪夢を見る、それでもサイラス様の近くにいたらいつか彼女のことを忘れられる気がする。
様々な人との出会いは全て覚えておきたい記憶だが、彼女のことだけは消え去って欲しい記憶だ。

「サイラス様、罪には問われてませんが、10歳の子を誘拐したり、国宝を女の子に勝手にプレゼントしたり、結構なことをしていると思います」

「全部、イザベラ絡みじゃないですか。イザベラは男を惑わす悪い女だったのですね」

サイラス様は嬉しそうに私を抱き上げる。
私は突然のことに驚いて彼にしがみついた。

「兄上、婚姻できる年齢を引き下げるとは本当ですか?私も早くエリスと結婚したいのです。これが恋かわかりませんが、彼女は私のツボな気がします」
ライアン王子がいつの間にか、近くに来ていた。

恋する気持ちわからないと言っていた彼が、エリス様と早く結婚したいと言っている。
エリス様の想いが通じたようで、私は幸せな気持ちになった。

「イザベラ、私、全くライアンの気配に気がつきませんでした。彼が暗殺者なら私は今死んでました」

私とサイラス様は2人の世界になると、全く周りが見えなくなるところがある。
以前もカールの接近に気がつかなかったが、今もライアン王子殿下の存在に気がつかなかった。

「ライアン王子がいつから見てたのか考えるだけで恥ずかしくて、私は一度死んでいます。サイラス様にもう一度会いたい思いで蘇生して蘇りました」
私の言葉にサイラス様が声をあげて笑う。

「イザベラ、私たち本当の姉妹になるのね。レイラお姉様とエドワード王子も今晩お見えになるそうよ」
気がつけば、ララアも近くまで来ていた。
私とサイラス様のイチャイチャを見られていたとしたら恥ずかしすぎる。

「ライト公爵、カール・ライト公子とルブリス王子殿下もお見えになりますよ。ルブリス王子殿下は別人のように変わりましたね。イザベラは人を変える天才ですね。正直、彼にイザベラを取られるのではないかとハラハラしました」
サイラス様の言葉にドキッとする。

私はルブリス王子が泣いている顔をたまに思い出すのだ。
あの涙を見て、彼が心から私を求めて愛していたのだと知った。

彼は小説のルブリス王子とは全く違う性格をしていた。
繊細で、天然で、ネガティブで小説の主人公とは程遠い性格だ。

きっとそれは私と白川愛が、彼と深く関わるイザベラとフローラに憑依したせいだろう。
私は彼に前世の自分を見ていた。

でも最近、私と彼の苦しみは違うのではないかと思いだしたのだ。
彼の苦しみは謎の力に精神を強制されるような苦しみだったけれど、前世の私は自分自身で精神を強制してしまっていた。

愛してくれる親と慕ってくれる弟がいても、世界で一番不幸だと思い込み自分で自分を追い詰めていた。
彼と一緒にいることはできないけれど、彼には幸せになって欲しい。

「イザベラ、今、ルブリス王子のことを考えていますね。どうしたらあなたの心を占領できますか?」
突然、サイラス様に言われて心を読まれたのかと心臓が止まりそうになる。

「もう、私の心は、ほとんどサイラス領です」
私は消え入りそうな声で呟いた。

「イザベラ、私は、ほとんどで満足できる男ではないのです。あなたの心を全て侵略してみせます」
そういうとサイラス様は私の頰を包み込み、口づけをしてきた。