「姉上、16歳の誕生日おめでとうございます。パーティーは本当にしなくてよかったのでしょうか?」
カールが私を心配したような目で見ていってくる。

「今は、誕生日パーティーをしている場合ではありません。現在、国民の9割を占める平民の支持がルブリス王子殿下に集まっていることで、貴族も殿下の支持する方向に傾いています」

平民街の土地の区画に関するトラブルは、ライ国中の平民街で発生しているトラブルだった。
そして食料の保存に関して氷を輸入したことも、食品ロスに繋がり非常に効果を示した。

絶望を知ったことで、高飛車な雰囲気を捨てて平民に接するルブリス王子殿下の姿は評判となった。
そして今のところ彼のおかしな言動もユーモアがあって、気さくだと捉えてもらえている。

「自分の周りの貴族が敵に回って弟まで敵と分かって絶望してたけれど、国の9割の人間には好かれたぞ。あとは女神イザベラの心を得るだけだ」
ルブリス王子殿下はすっかり元気になって、キラキラした瞳で私を見てきた。

私も中学の時は学校が全てで皆に虐められたことで、世界中から嫌われている気持ちになった。
友達だと思っていた白川愛が虐めの黒幕だと分かった時には絶望した。
だからルブリス王子殿下の元気になった姿を見ると、絶望の中、死んだ綾が救われたような気持ちになる。

「それにしても、ルブリス王子殿下はアカデミー時代とは別人に見えます。フローラ・レフト男爵令嬢は魔女か何かだったのでしょうか?ルブリス王子殿下は国家転覆を狙った彼女に魅了の魔法でもかけられていたのではないですか?」
カールの言葉に思わず私はルブリス王子と顔を見合わせた。

現実主義で賢いカールが、童話にしか出てこないような魔女の存在を言い出したのだ。
きっと周りの貴族達もアカデミー時代のルブリス王子殿下は、何らかの呪いにかけられて正気を失わされていたと思ってくれるかもしれない。

「きっと、カールの思っている通りです。今のルブリス王子殿下が本物の殿下です。平民1人1人をライ国の一員として大切にする優しい君主なのです」
ルブリス王子殿下の翡翠色の瞳には泣きそうになっている私が映っていた。

絶望の淵にいるルブリス王子殿下はもういない、彼を救うことができたのだ。
これで私は何の憂いもなく、サイラス様の胸に飛び込みに行ける。

「姉上、僕から誕生日プレゼントがあります。僕はこれからは姉上の手前だけではなく、全力でルブリス王子殿下を支えると誓います。王子殿下の1番の味方になります。だから、姉上はルイ国のサイラス王太子殿下の元へ行ってください。2ヶ月後には王太子殿下の戴冠式です。婚約者である姉上は彼の隣にいるべきです。サイラス殿下が国王になった時、次期王妃として彼を支えるのは姉上であるべきだと思います」
カールの言葉に私は温かい気持ちになった。

「イザベラ、行かないでくれ、君がいないと心許ない。カール・ライト公子なんてまだアカデミー生じゃないか」
相変わらず思ったことを直ぐに言って失礼なことを言う、ルブリス王子殿下が心配になる。
カールの顔を見ると、もう慣れてしまったのか微笑ましいものを見るような顔で王子殿下を見ている。

「ルブリス王子殿下、カールは100人相当の力を持った大きな味方ですよ。土地区画整理事業もカールが初めに土地のトラブルが平民に多いと気がついたからできたことです。私たちが3人で街を歩いている時も、ルブリス王子殿下の自由な会話をよくフォローしてくれていたと思います。仕事に集中するよう言われていましたが、私はついサイラス様のことを考えてボーッとしてしまうことがありました。そんな時も、いつもフォローしてくれたのはカールです。誰よりも強い味方がルブリス王子殿下を支えてくれると誓ってくれたのですよ」

私の言葉にルブリス王子殿下がむくれた顔をする。

彼は王族なのに感情をあまり隠さない。
それが平民には親しみやすいと感じてもらえている。

「正直、王位はもうどうでもよくて、イザベラを手に入れるには国王になるのが最低条件と思って頑張ってたんだ。そういえば、エドワードがイザベラに渡したい誕生日プレゼントがあるから、食事でもしないかと言ってきた。生まれた時から敵だったとか私に言ってきたのを忘れたかのように、笑顔で言ってくるものだから殺意が湧いたよ。食事なんて絶対毒入りだ。私はあいつのことだけは2度と信じない」

「ルブリス王子殿下、それは違います。エドワード王子殿下はこの4ヶ月のルブリス王子殿下を見てライ国のために手を取り合いたいと思ったのでしょう。殿下にきついことを言ってしまった手前、声をかけずらくなっていたのです。だから、私の誕生日という名目で食事に誘ってきたのだと思います。大事なのは2人の王子のどちらかが国王になるかではありません。2人が力を合わせて手を取り合い、より良いライ国を作っていくことですよ。食事会に行きましょう」
私はやっとエドワード王子がルブリス王子を認めてくれたことが嬉しかった。